紅碧

紅碧


「ドット、それなんて色?」

「これ?…青じゃないか?」

「え、青?私には紫色っぽく見えるんだけど…」

ドットの手に持った色鉛筆はやけに古ぼけている。

リコが持って来た色鉛筆セットの中の1色だった。


「リコよ、ちょっと良いか?」

「ん?どうしたのランドウ」

リコが船で見張りをしていたとき、ひょっこりと現れたランドウに声をかけられた。

「なに、1つ渡したい物があってな…これなんじゃが」

そう言ってランドウが差し出したのは、古い箱だった。

「…『カントーの伝統色』…?」

「どうやら色鉛筆らしい。どこから仕入れたのかわからんが、船の倉庫で見つけてな。」

「これを私に…?もらってもいい物なの?」

「この船で色鉛筆を使うものなぞ、あまり思いつかんのでな。まぁ、もらってはくれんか」

確かに、船に乗ってる大人のみんなは色鉛筆なんて使うイメージがないな。

色鉛筆の色は単純に「赤」や「青」で表現できないものが多く、確かにどれも地方独特の伝統を感じる。

なんだかうきうきした。

一地方の伝統色だけを集めた色鉛筆だなんて、結構珍しいかも?



珍しい物があったら、やっぱり共有したいのはドットだと彼女は考えていた。

それでリコは一緒に色鉛筆セットを楽しむため、ドットの部屋にやって来たのであった。

「色鉛筆…?なんでボク」

「カントー地方の伝統的な色だけを集めた色鉛筆なんだって。結構珍しいなぁと思って!それに、ドット初めの頃は絵を描いて見せてくれてたでしょ?絵を描くの、好きなのかなって」

「あ、あれはあくまで連絡手段だし…でもまぁ、確かにカントーの色だけってのは珍しいな。」

「やっぱり珍しいんだね!ねぇドット、よかったら一緒に絵を描いてみない?久々にドットの絵も見たい!」

「えぇ…まぁいいけどさ」

「やった!」



そんなこんなで色鉛筆の発色を楽しみつつ紙を彩っていた中、リコはドットの使っていた色が気になったのだった。

「その色、なんか私好きだから気になっちゃって」

「ボクも結構気に入ってるかも。なんて言うか…落ち着いてて、どっかで見たようなかんじの」

「綺麗な淡い紫色だよね、ドットに似合うよ」

「ぇ、はぁ…!?いや、まずこれは紫じゃなくって青だろ!?」

「あ、青っぽい紫じゃなくて…!?」

「うーん…よし、青なのか紫なのか白黒はっきりさせるぞ!多分箱のどっかに色の名前が書いてあるだろ!」

「青か紫か、白黒はっきり…?」

ドットが色鉛筆の収まっている箱をひっくり返して名前を探している。

「………お!書いてある書いてある…」

「ほんと?なんて色なの?」

ドットは色の名前を探していたが、急に呆気にとられたような表情で固まってしまった。

その様子をリコは不思議に思う。

「えっと、ドット…?何色だったの?」

「…んっと…これは、この色は…」

「うん」


「……紅碧……」

「べ、べにみどり!?紫でも青でもなく!?べにみどり!?」

青でも紫でも白でも黒でもなく、赤と緑…??


どこが?


「…でも、やっぱりこの色好きだな」

少々名前に気を取られたものの、改めて色を見たドットがぽつりと呟く。

「なんか、いいよね。こう、なんていうか…やっぱりドットに似合うからかな?」

「…それ、あんまりピンとこない」

「そうかな…」

「この色はどっちかというとリコに似合ってるんじゃないか?」

「えっ…そう、かな?」

「……うーん、やっぱ違うかも……あ!」

ドットは考え込んだと思うとスッキリしたような顔でリコに向き直り、やや声を弾ませて言った。


「この色、ボクに似合うわけでも、リコに似合うわけでもなくって…ボクとリコ2人合わせたとき、やっと似合うんじゃないか?」

「……!?…え……ぁ、た、確かに………!」

「だろ!」


あんまり照れずに真っ直ぐ言うものだから、リコはびっくりしてしまった。

いつも素直じゃないのに、こういうときだけ無自覚に素直だ。

大好きだけど、無自覚に意地悪だ。

「ドット……その色好き?」

「え?うん、さっきから好きだって言ってるだろ?」

「……そっか」

「……??なんで顔紅くしてんの?」

「え…!?あ、あはは…なんでもない…!!」

「あっおい!ど、どこ行く……!」

照れから来る逃亡癖か、リコはパタパタとドットの部屋を出て行ってしまった。




「……紅碧」

「空色に紅を掛けたような色から、紅掛け空色とも呼ばれる色」

「…ふむ、今日の空に、よく似ておるのう」

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