紅にあらぬ袂の濃き色は

紅にあらぬ袂の濃き色は

こがれて物を思ふ涙か(西行山家集1310)


・原作の19歳ルフィさんが抱かれるSSです。抱く方は明記してないのでご自身や好きなキャラ等に脳内変換して下さって構いません。

・エースは亡くなってるのでエースとのCPが好きな方には申し訳ない。

・初夜ネタで、無知シチュ寄りの初心なルフィさんです。

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 ルフィの身体に触れる相手のその手には、優しさと恭しさが籠っている。ルフィ自身では一度もした事がないような触り方をする相手の手つきを、彼は興味深く観察する気分でいた。不意に子供の頃に不器用な手つきで頭を撫でてくれたエースの掌を思い出し、その面影を胸に納める。今ルフィに快楽を刻み込まんとする相手の手つきと兄のそれとは、似ても似つかぬものだった。その手がルフィの胸元の大きな傷に触れる。痛くはないか、と心からの気遣いを向けてくれる相手に、ルフィは「平気だ」と笑ってみせた。お前とならこういう事をしてみたいと思ったのだから痛みはないと、そうルフィが伝えると相手は破顔して、別の箇所にも触れていく。

 ルフィの身体を覆う瑞々しく柔らかな皮膚と、死線をいくつも潜り抜けてきたしなやかな筋肉の奥にある血潮が、相手の愛撫によって確かに強められていく。それが骨身にまで沁みていくようだと、ルフィはブルックが口にする感覚が以前より善く理解出来たような気がした。ルフィは抵抗せずされるがままその愛撫を受け容れていると、次第に相手は大胆になっていく。相手によって強められた血潮の熱が、そのままルフィの身体の熱となり、皮膚の内側から紅い色が透けて全身を鮮やかに染め上げる。その色彩の美しさは、この広い海に浮かぶ数多の島々に咲き誇るあらゆる花であろうとも敵うまいと、相手が確信を持つには充分なものであった。その姿に情欲を更に刺激され、蜜源に引き寄せられる蜂の如く唇を寄せた皮膚の薄い部分の感触は、雨露を存分に吸って開いた八重咲きの薔薇の花弁よりも、遥かに柔らかく潤っている心地がした。慣れない刺激を受けてルフィの喉から声が発せられる。笑い声とも泣き声ともつかない、普段の彼から発せられる事は到底想像できないその声色に相手は耳を傾けながらも、愛撫を止める事はなかった。相手の内にある血潮もまた、ルフィによってしっかりと強められていった。

 ルフィは相手の烈しく燃え盛る思慕が宿った眼差しと、確固とした情愛が籠った愛撫からもたらされる熱を、どう享受してどう発散していいのか分からなかった。不快ではない、不快であるはずがないと自身に言い聞かせるが上手くいかない。この熱によって溶け合う感覚をもっと知って分かち合いたいという衝動と、このまま身を任せてもいいものなんだろうかという不安が綯い交ぜになって戸惑い、悶え、慄える。観察する余裕は疾うに霧散していた。浴びせられる快楽を受け止めきれず持て余し、下唇を噛み、呻き声にも似た吐息が不規則に唇の隙間から漏れる。眉根を寄せ目を固く瞑って顔を逸らし、背後に波打つシーツをぎゅっと掴むと全身が強張った。組み敷く相手が苦笑する。そんなに力まないでほしいと、穏やかな声音でルフィを宥めた。

 汗でしっとりとした感触になったルフィの額にかかる黒髪を梳く相手の優しい指先の感触を得て、彼の慄えが少しずつ治まっていく。首を戻し瞼を持ち上げ相手を見つめた。どうしてこんな風に熱を高め合う触れ方と眼差しができるのかという意味の質問を拙く、しかしルフィなりの精一杯の伝え方で相手に問えば、「ルフィが好きだから」と至極単純な答えが返ってきた。あまりに呆気ない簡単な答えにルフィはきょとんとする。

「好きな奴には、こんな風に触るもんなのか?……おれも、お前みたいな目は……出来てるか……?」

 そう問えば、相手はルフィの双眸をじっと見つめ、大丈夫、出来ていると頷いた。それでもシーツを握りしめる力を緩めないルフィの手にそっと触れる。指を一本一本丁寧に引き剥がすと、開いたルフィの手の平にはシーツ越しに食い込んだ爪の跡が付いていた。相手はそっと慈しむようにその跡に指を滑らせ、自身の首にルフィの腕を巻き付けようとした。しかし彼はそれに抵抗する。

 何故抵抗するのかと、泰然と相手が問う。ルフィはいつもの快活さが嘘のように鳴りをひそめ、涙で滲む視界越しに相手を見つめた。

「おれ、力強いし、もしもお前に怪我させたらって思うと……怖ェ……」

 好きな相手を傷付けたくないというルフィの不安と素直な感傷を、相手は微笑んで受け止めた。だが昂った互いの熱をこのまま冷ましたくはないと、相手はルフィの唇に自身のそれを重ねる。蜂蜜よりも甘く濃厚で蕩けるような口付けに、次第にルフィの強張った身体から力が抜けていく。口付けの快さを充分に堪能した頃に唇を離し、官能の刺激により涙を流したルフィの眼差しが先程よりもずっと深いものに成った事を認めると、相手は告げた。

 ⎯⎯好きな相手にはどんな風に触ればいいのか、今しがた経験して知った筈。それを真似してくれればいい。怖がる事は何もない。

 相手によって告げられたそういう意味の言葉に、ルフィは声を呑んだ。少しの間戸惑い混迷していた様子を見せたが、やがて相手の首に躊躇いがちに腕を回した。

「……これで、いいのか?」

 勿論だ、と相手が喜び朗笑する。ルフィも安堵して笑った。それを合図に、再び唇と肌が触れ合った。口付けを交わしながら、相手は悠揚と、しかし同時に官能の愉楽を伴ってルフィの肌に指を喰い込ませる。ルフィも陶然たる心持になりながら、懸命に相手がしてくれる情愛が籠った触れ方を真似し続けた。ルフィの手が相手の頭、頬、頸、鎖骨、肩を巡り、背中に辿り着く。熱に浮かされるまま危うく必要以上に力を入れそうになるのを幾度となく堪えていくうちに、ルフィの中にあった不安や戸惑いは消え失せていった。互いの強まった脈打つ血潮による衝動を分かち合う事に夢中になり、やがて訪れたより強い快楽には戸惑う事なく心身を委ねる事が出来た。

 今まで経験する事がなかった未知の、しかし快い感覚に耽りながら、二人の夜は更けていった。

 終

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