約束
盛大に遅刻してごめん…レーベンちゃんお誕生日おめでとう!寒空の下、2人手を絡めながら歩く。
「ご飯美味しかったねー」
「本当にな。レーベンのお母さんの手料理も気合い入ってたみたいだし、食後のケーキもすごかったな…」
「ふふっパパもお兄ちゃんも拘り始めたら止まらないからなあー」
今日は俺の彼女、ユーバーレーベンの誕生日。
本当は2人きりで祝いたい所だったが、「パパとお兄ちゃんがケーキ作る!って張り切っちゃって…」と彼女の談。
そんな彼女の父や兄の気持ちを無下にするわけにもいかず、かと言って俺だって彼女の生まれた大切な日は一緒に過ごしたい。
そのため彼女の実家で行われるパーティーに俺も行くこととなった。
実際出てきたケーキはウエディングケーキかなんかか?と思うような豪華なものだった。
(本日の主役はそんな豪華なケーキの大部分をペロリと平らげご満悦のようだ)
「それよりも今日実家に泊まっていかなくて本当にいいのか?俺のことは気にしなくて良かったんだぞ?」
いざお暇するとなった時にてっきりこのまま実家に泊まると思っていたため、「じゃあ私も帰るねー」とサラッとくっついてきた時は吃驚した。
彼女の父には帰り際に「しっかりうちのユーちゃんのこと頼んだで!!送り狼にでもなろうもんなら………なぁ?」と笑いながら肩を掴まれたが、あの力の入り様は正直洒落になってなかった。今だに痛い。
「ついこの間も泊まったばっかりだから大丈夫!それよりもね、私もっとシャフくんと一緒に居たくて………ダメ?」
「ダメなわけねーだろ」
「えへへーよかった!」
そう言ってふわりと笑う彼女の笑顔が眩しくて優しく頭を撫でてやる。
もっと一緒に居たいだなんて可愛すぎることを言ってくれる彼女に対して愛おしさが溢れる。
タイミングをずっと計っていたが、コートに忍ばせていた誕生日プレゼントを渡すなら今か?
何時になく、なんならレース直前以上に緊張する。
「なあ、レーベン」
「ん?なぁに?」
「誕生日プレゼントなんだけどさ、これ…」
そう言ってコートから5cm四方程のラッピングされた箱を手渡す。
手震えてないか俺…
「ありがとうシャフくん!え、これここで開けてもいいの?」
「ああ、いいよ」
なにかなー?と楽しそうにリボンを解いていく彼女の姿。
その様子を見守る俺の心臓はバクバクと鼓動を刻んでいた。
ラッピングを解くと現れたのはリングケース。
普段は天然な彼女も流石に察したのか息を飲んで俺を見つめてくる。
「ね、ねえ、これって……」
「…開けてみて欲しい」
ケースを開けると真ん中にダイヤモンドをあしらったプラチナリングが。
ダイヤのサイドには彼女の誕生石であるガーネットが2粒添えられている。
彼女の、そして俺の勝負服の色でもある赤。
白くて細い指に映えるようにと少しの独占欲を混ぜて選んだ石だ。
「今年もまた海外遠征ばっかりになって、レーベンに今まで以上に寂しい思いをさせると思う。
それでも俺は自分の限界まで走り続けたい。
やりきったその時には必ず迎えに来るから……その時に、俺と結婚してください。」
顔真っ赤だし、声若干震えてるけど、ちゃんと伝えたいことは伝え切れた。
レーベンはーーー大きくて澄んだ目から大粒の涙をボロボロ溢しながら、
「はい……!私を、シャフくんの…お嫁さんにしてください…!」
大きく頷いた。
快諾してもらった喜びで俺は彼女を抱きしめ、溢れる涙を指でそっと拭う。
「私ね、今本当に幸せ…」
「俺もだ」
「ちゃんと待ってるからね、約束だよ」
「大帝様が約束破るわけねーだろ。まかせろ」
「ふふふ…そうだね」
「指輪、シャフくんにはめて欲しいな」
なんて可愛いことを言うから、いつかドラマで見たのを見様見真似でやってみる。
白くて細くて小さい左手を取り、薬指へとするりとはめる。
ああ、やはりレーベンには赤が似合う。
「ねえ、似合ってるかな?」
そう言ってはにかむ彼女は、世界で一番美しく愛らしい。
「世界で一番似合ってるよ」
そう言うと彼女は満足そうに笑う。
互いに見つめあい、吸い込まれるように唇を重ねる。
彼女の唇はさっき食べたケーキのように柔らかく、甘い味がした。