『糸師冴』の日記
3スレ目143氏より『糸師冴』の日記
2×08年9月8日
今日も試合帰りにりんにアイスを買ってやった。いつも当たりを出すあいつにしてはめずらしくハズレを出していた。おれは今日もハズレだった。
明日はりんのたん生日だ。母さんと父さん、明日は早く帰ってくるらしい。楽しみだ。
2×08年9月9日
母さんと父さんがじこにあった。いしきふめいのじゅうたい?らしい。りんをつれてびょういんに行った。二人はよくわかんねぇきかいまみれになってベッドでねてた。
びょういんの先生は「しばらくめざめないかもしれないし、もしかしたらそのままなくなってしまうかもしれない」って言ってた。母さんと父さん、しんじゃうかもしれない。だって、あんなにほうたいまみれで、ちが出ていたから。
いやだ。しんじゃうなんて、いやだ。どうしよう。どうしたらいいんだろう。りんは、ずっとないている。かわいそうに。りんは、今日たん生日なのに。みんなでりんをいわってやる予定だったのに。なんで。なんで、こんなことに。
とにかく、りんにはおれがついていてやらないと。おれもなきたかったけど、がまんした。おれまでないたら、きっとりんはずっとふあんなままだろうから。これからは、おれがりんをまもらなきゃ。おれはりんの兄ちゃんだから、がんばってみせる。
『糸師冴』の日記
2×08年9月✕✕日
しんせきの家に行くことになった。
母さんと父さんがねむったままだから、おれたちにはほごしゃ?がひつようらしい。しんせきの人たちが集まって話してた。ほごしゃになってくれる人は✕✕✕✕さんという、とおいしんせきの人らしい。この前行った、びょういんの先生その人だ。かおいろがわるかったらしいおれとりんを見て、あったかいココアをくれたやさしい先生だ。
✕✕✕✕さんの家はとおくにあるから、おれたちはこの家をいったん出ていかなきゃいけない。それがいやならしいりんがまたないていたから、だきしめた。りんはここ数日、かなしい顔ばかりしているし、げんきがない。でも、おれが「だいじょうぶ」って言ってだきしめると、少しげんきになる。やっぱり、おれがしっかりしないと。
ひっこす日までに、にもつをまとめないといけない。りんがねてるうちに、リビングのかざりつけ、かたづけないと。
『糸師冴』の日記
2×08年9月1✕日
今日から✕✕✕✕さんの家でくらすことになる。家はすげぇ大きかった。えいがに出てくるやしきみたいだった。りんと二人でびっくりした。
✕✕✕✕さんは前とかわらず、やさしくでむかえてくれた。おれとりんのへやをべつべつによういしてくれていたけれど、りんがさみしがるだろうから二人で一つのへやをつかわせてもらうことにした。ベッドがふかふかでりんもよろこんでいた。よかった。
2×08年9月30日
すむ家はかわってしまったけれど、なんとかうまくやっていけてると思う。
りんは少しだけ、前よりげんきになったような気がする。でも、おれとはなれそうになるとなき出すから、「だいじょうぶ」って言ってだきしめてあんしんさせる。ようちえんにいるときのりんがしんぱいだ。はやくりんもがっこうに行けたらいいのに。
サッカーをつづけさせてもらえるかふあんだったけど、✕✕✕✕さんはよろこんでつづけさせてくれた。サッカーにかかるお金まで出してくれている。ありがたい。✕✕✕✕さんがやさしい人でよかった。
『糸師冴』の日記
2×08年10月✕日
りょうりをはじめてみることにした。✕✕✕✕さんはりょうりができないから、この家ではべんとうとかつくりもののおかずが出ることが多い。でも、それだとりんのけんこうによくないかもしれない。
だから、今日からおれが作ることにした。夕はんのカレーはなんとか食べれるものになったと思う。りんはうれしそうにえがおで食べてくれた。ゆびはたくさん切ってしまったけれど、りんがよろこんでくれてよかった。
✕✕✕✕さんもしごとから帰ってきて夜に食べたらしく、「おいしかったよ」とほめてくれた。このちょうしで母さんが作ってくれてたやつみたいに他のめしも作れていけたらいいな。
2×08年10月9日
あの日から1ヶ月がたった。母さんと父さんはまだめざめない。だけど、少しずつ今の生活にはなれてきたと思う。りょうりはまだべんきょう中だけど、サッカーだってうまくやれている。
りんだって、ないてばかりだったあのころより少しはげんきになったし、えがおだって見せるようになった。よかった。
✕✕✕✕さんには本当にせわになっている。おれたちはとおいしんせきなのに、やさしくよくしてもらっていると思う。生活をささえてもらっているのに、サッカーまでつづけさせてもらっている。ありがたいと思う。この人に頭をなでられるのはきらいじゃないかもしれない。
いつかこの家をはなれることになっても、またこの人に会いに来たいような気がする。明日はおれのたん生日か。いいことがあればいいな。
『いとしさえ』の日記
2×08年10月10日
ぜんぶうそだった
うそだった
やさしかったのもよくしてくれたのもあたまなでてくれたのもぷれぜんとをくれるっていったのもぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶぜんぶうそだ
だまされてたきづけなかったいたいことくるしいこときもちわるいことされたちがでたいたい
いたいいたいいたいいたいはらがいたい
いたいってないたらなぐられたいたい
くびしめられたいたい
あのひとわらってたないてるおれみてわらってたきっとこうするためにおれたちをひきとったんだりんにもおなじことするっていってた
やめろやめてくれやめておねがいだからやめてりんにまでこんなことしないでおれがかわるからぜんぶひきうけるからりんをよごさないでひどいことしないで
このことしゃべったらかあさんととうさんのこところすっていってた
だれにもはなせない
いたいくるしいきもちわるい
たすけて
『いとしさえ』の日記
2×08年10月11日
目がさめたらはらがいたかった。きっときのうされたことのせいだ。なにをされているのかわからなかったけれど、おそらくいけないことをされたんだろう。
りんはまだなんともないみたいだ、よかった。
家も、通学路も、学校も、公園も。きのうとはなにかがちがう気がする。ちがうように見える。
いや、ちがう。
かわってしまったのは、おれの方だ。
2×08年10月12日
あの人に、りんにはひどいことをしないでとなきついた。みっともなくなきついたけれど、りんがひどい目にあう方がつらかったから、ひっしでおねがいした。
さいわいなことに、あの人は首をたてにふってくれた。よかった。これできっとりんはひどい目にあわない。
おれがぜんぶかわるから。
いたいことも、くるしいことも、きもちわるいことも、ぜんぶ。
りんをまもるんだ。おれはりんの兄ちゃんだから、がんばれる。がんばらなきゃ、りんがひどい目にあう。りんにはきれいなままでいてほしいから。
兄ちゃん、がんばるからな。
『いとしさえ』の日記
2×08年11月✕日
りんだけがおれのパスにおいついてくれた。
くらやみに光がさしたみたいだった。
思わず、「おれとサッカーしろ」と言ってしまった。りんはうなずいてくれた。うれしい。
りんは、きっとすごいストライカーになる。おれの次に。
これからりんとサッカーができるのが、とても、うれしい。おれがサッカーしてる間りんがしんぱいでもあったから、少しでもいっしょにいられるとあんしんする。
あの人もりんがサッカーしていいって言ってくれている。よかった。それのたいかにりんがなにかしろって言われなくて。
りんといっしょにサッカーができるなら。
からだがいたくても、まだがんばれる気がした。
『いとしさえ』の日記
2×08年12月2✕日
今年もそろそろおわる。母さんと父さんはまだめざめない。
おれはまだ、がんばれてる。りんはまだなにもされてないし、なにも知らない。知らなくていい。りんはさいきん、むじゃきにわらってくれることがふえた。よかった。
りんがクリスマスプレゼントなんていらないから母さんと父さんがめざめてほしいってつぶやいてた。かなえてやれないのがくやしい。
かわりにりんのサッカーボールを買ってやろうと思う。いつもおれのやつをりんとつかってたから。おれのと同じメーカーのやつ。りん、よろこんでくれるといいな。
おれはサンタには母さんと父さんがめざめますようにっておねがいした。本当にサンタがいたら、かなえてくれるといいな。おれはよごれてるから、いいこじゃないかもしれないけれど。
冬休みが来るのが、こわい。りんにはいてるとこ、見つからないといいが。
『いとしさえ』の日記
2×09年3月2✕日
来月からりんも学校に通う。少しだけ、あんしんした。でも、りんの入学式に来れるのはおれだけだ。
おれのときは母さんと父さんがいたけど、りんのときはおれだけになる。あの人は仕事で来れないらしい。来たかったらしいが、来なくてよかった。
りんがさみしくないように、できるだけそばにいてやりたい。
鼻血が止まらなくて少しあせった。きげんがわるかったとはいえ、顔をやるのはりんにきづかれやすくなるからやめてほしい。朝起きた後のシーツに血がついてないかふあんだ。
『いとしさえ』の日記
2×09年4月2✕日
りんもだいぶ学校になれてきたと思う。あいかわらず、登校して教室で別れる時はなくけれど。
りんといっしょに登校できるのはうれしいし、あんしんした。あいつのわらった顔を見ていると、はらがいたくても今日もがんばろうって思えるから。
りんは休み時間になるといつもおれのクラスに来る。自分のクラスはまだたまにまちがえるのに、おれのクラスへはまっすぐ来る。自分の教室よりおれのいる教室の場所をおぼえているのはどうしたものか。
りんは学校でもおれにべったりだ。ともだちできてんのかな、あいつ。でも、おれにべったりなのもむりはない。母さんと父さんのことがあってから、りんはさらにおれにひっついてくるようになった。きっとひとりになるのがこわいんだろう。かみさまがいるのなら、ざんこくだ。りんはまだ6さいなのに、母さんも父さんもいないままでこんなにこわい思いもさみしい思いもさせられてる。
りんを守ってやれるのは、だきしめてやれるのはおれだけなんだ。はらがいたいとか、きずがジクジクするとか言ってる場合じゃない。
がんばらないと。
『いとしさえ』の日記
2×09年7月1✕日
もうすぐ夏休みだ。こわくてたまらない。
学校に逃げられないから、こわい。
1ヶ月も、あの家でずっとすごさないといけない。こんな気持ちで夏休みをむかえるのは初めてだ。
おれにあきたあの人が、やくそくをやぶってりんにひどいことをしたらと思うと、夜もねむれない。サッカーのれんしゅうがあるときはいいが、そうじゃない日は。
あきられないようにしないと。いやだけれど、あの人がよろこぶようにふるまうようにしよう。 あの人がおれだけを見るように。りんにひどいことをしないように。
『いとしさえ』の日記
2×09年9月8日
母さんと父さんがじこにあってから、明日で一年だ。この一年で何もかもかわってしまった。住む家も、学校も、おれもりんも。
りんは、明日がこわくてふるえている。明日になったら、おれまでいなくなるんじゃないかとないていた。かわいそうに。りんはわるいことなんてなにもしてないのに。今日はりんがなきやむまで、ずっとだきしめてた。
明日はなにもおきませんように。
『いとしさえ』の日記
2×09年9月9日
今日はりんのたん生日だ。りんは7才になった。今日は一日中りんといっしょにいた。そうしないとりんがふるえたままだから。なくから。
さすがにたん生日ケーキはまだ作れなかったから、ケーキやにりんといっしょに買いに行った。りんは外に出てた時はずっとおれの手をにぎってた。はなしたくねぇみたいだったから、そのまま買い物した。
あぶなかった。りんのたん生日をいわってやる時、あの歌を聞いてしまって少しとりみだした。あの歌を聞いたとたんに、しんぞうがバクバクしてはれつしそうになった。顔色もわるくなってたみてぇで、りんがしんぱいそうな顔をしてた。
ごめんな、りん。たん生日なのにそんな顔させて。いじでもなきはしなかったから、具合がわるだけでごまかせた。
りんはたん生日のごちそうもプレゼントもよろこんでた。りんがおれの時みたいにならなくて、本当によかった。
『いとしさえ』の日記
2×09年10月10日
きょう は なに も かきた く な い
な にも み たく ない
こ わい いた い やめ
『いとしさえ』の日記
2×09年12月24日
今日は夜が明けるまでされた。明日休みだからって、めちゃくちゃにされた。
なんとかりんが起きる前にぬけだしてプレゼントをおくことができた。よかった。
おれのと同じスパイクがほしいなんてな。りんがほしいやつでいいのにな。
おれのは……いいや、いらない。用意もしてないしな。きれいないいこじゃないとサンタは来ないからな。
『いとしさえ』の日記
2×10年1月✕✕日
今日はいつもよりひどいことをされた。まだほおがひりひりする。鼻血は止まったけれど、いつもより顔のけががひどい。
でも、まだごまかせるけがでよかった。腹にはどすぐろいあざができてたけど、見えないからいいか。
手が冷たい水でかじかんでたせいで、あの人が大事にしてたゆのみをわってしまった。その場では何もされなかったけれど、夜はひどかった。
これから皿洗いするときは気をつけないといけない。ごまかせないけががふえたら大変だからな。
もうりんが皿洗いの手伝いするって言っても、させない方がいいかもしれない。りんがなぐられることを想像しただけで、さっきよりも頭が痛くなった。
やることがないから冬の夜空を見ていたけれど、やっぱりさむい。でもまぁ、今回は水をぶっかけられなかっただけ良かった。ずぶ濡れで冬の庭にいるのは、しにそうになるから。
夜が明ける前には家に入れてもらえるといいけれど。
『いとしさえ』の日記
2×10年1月✕✕日
先生に顔のけがをあやしまれた。サッカーの練習でやったって、ごまかせたからよかったけれど。少しひやひやした。あの先生、最近はおれのことよく見てるんだよな。やっぱり、あやしいのかな。でも、このことを知られたら母さんと父さんがあぶないから。上手くかくさないと。
そういえばりんもふしぎそうな顔をしていたな。あぶないあぶない。
りんにだけはこのことを知られたくなんてないし。りんにはなにも知らないできれいなままでいてほしいから。
かみさまがいるのなら。どうか、りんだけはきれいなままで、いさせてもらえますように。
そのためならおれ、なんでもするから。
『いとしさえ』の日記
2×10年6月✕日
りんの学年で遠足に行くらしい。弁当が必要みたいで、りんがプリントをおれに見せてきた。弁当か。自分のやつを前作って持っていったことがあるから、作れそうだ。りんがよろこびそうなやつ、たくさん入れてやろう。
おれはいっしょについてってやれないけど、りんにとって楽しい遠足になるといいな。
りんは最近本当に元気になって、よく笑顔を見せてくれる。よかった。その顔を見ていると、今日もがんばれる。がんばらないと。
でも、やっぱり
なんでもない。
『いとしさえ』の日記
2×10年8月✕日
今日はりんをつれておれたちの家に帰った。バスにゆられながら、なつかしい景色を見てた。二年前は、なつかしい景色じゃなかったのに。どうしてだろう。少し、かなしくなった。帰りたくなった。
おれたちの家は、二年前と変わらずそこにあった。ただ、少しほこりっぽくなってたから、家をりんといっしょにそうじした。二年前の日付のカレンダーも、新しいのに替えておいた。
それから、夕方までおれたちの家でゆっくりしてた。久しぶりに寝転んだおれたちの部屋のベッドは、あの家のふかふかのベッドより安心した。持ってきた夏休みの宿題をした。あの家でするより、ぜんぜん集中できた。
夕方を過ぎても、1日が経っても、ずっとここにいたかった。でも、あの家に戻らないといけなかった。
帰り際に、リビングに立ててあった家族でとった写真が目に入ってしまった。
むねがはりさけそうだった。
できることなら、あの頃にもどりたい。
早く、母さんと父さんが目覚めますように。
『いとしさえ』の日記
2×10年8月✕日
しあわせな夢を見た。
母さんに起こされて、りんといっしょにリビングに行くとまだねむそうな父さんがいて。
家族みんなで朝飯を食べて。学校へ行って、帰りにりんといっしょにサッカーして。
帰ってきたら、母さんの作った夕飯のいいにおいがして。シャワーを浴びてから夕飯を食べて。
テレビを見た後はおれたちの部屋でごろごろして、夜になったからベッドに入って、りんのやわらかな寝顔を見ながらねむりについた。
そんな、夢。
目覚めた後になみだが止まらなかった。だって、あまりにもしあわせすぎたから。りんにはバレないようにしたけど、今日はなみだのかわいたあとがくっきりのこってた。
朝飯の時間まで寝ていてよくて。変なものなんて入っていない飯を食べて。きげんが悪いからってなぐられないし、身体を開けとも言われない。風呂だってりんといっしょに入れるし。悪夢みたいな夜におびえることもなく、ぐっすり眠れる。
そんな当たり前だった日々が、とてもまぶしい。くらやみになれた目がつぶれてしまいそうなくらい、まぶしい。
あのなにもいたくなかった日々が、しぬほどこいしかった。
『いとしさえ』の日記
2×10年8月✕✕日
今日はりんといっしょにいてやれなかった。あの人の仕事が休みだそうで、ほぼ一日中部屋から出してもらえなかった。
でも、窓からりんのことを見てた。庭で遊んでたりんは、おれを見つけると手をふってきた。おれといっしょに遊びたかったのか、手をブンブンふって、おれを呼んでた。
でも、今日はいっしょにいてやれなかった。ごめんな、りん。
まぶしかった。りんのいる場所が。おれはもうそこには二度といけないような気がしたから。
窓からさしこむ光がまぶしかったから、カーテンを閉めた。