箱入り娘

箱入り娘


「同じ布団で寝るだけだろう?早ければ来月には授かるからそれまでの辛抱だ」

キョトンとした顔で女は宣った。妙齢の女が至極真面目に夫婦は同じ布団で眠れば子供が出来ると信じているらしい。いやいや、柱間お前妹の教育どうなってるんだ。初夜なんだし形だけでもと思って手を出した嫁御がとんだおぼこ娘だった。あの千手扉間がである。着物の合わせに手を突っ込んだあたりで何をするんだと本気の殺気を飛ばしてくるから何事かと問うたらこれである。

「お前ただ一緒に寝るだけでややが授かるって誰に教わった」

怪訝な顔しながら扉間は何を言ってるんだこいつとでも言いたげに答えた。

「昔、私が子供部屋に移る日にまだ母上と寝たいとダダを捏ねた時に兄者が…」

柱間は愚図る妹にこう言って諭したらしい。赤子はコウノトリが運んでくる。夫婦が毎晩二人で寝るのはコウノトリへの目印だ。弟が欲しいなら扉間がいたらコウノトリが父上と母上の所に来れなくなってしまうぞ!だから俺と一緒に寝よう!

成程微笑ましい兄妹のふれあいだ。幼い子供にそう諭すのは悪い事ではない。いやしかしだ、幼少期から一切その手の知識が更新されていないのは異常じゃないか?くノ一なのだからその手の色の任務をこなさねばならぬ一幕もあったはずだ。そもそもこいつは千手宗家の姫君なのだから嫁入り先で恥のないようにそういった教育をされていてもおかしくはない。妙齢の娘なんだから一族の若い男から夜這いをかけられてたっておかしくはないだろう。見目は悪くない。むしろ良いと言って差支えはないだろう。引く手数多だったろうに。

「お前夜這いとか経験無いのかよ」

「夜這い?あの兄者がひとつ屋根の下に居て私の元に通える度胸のある奴が何処にいる」

「…色の任務とかは」

「そういう事は桃華達に止められた。兄者がどうとかで」

よし!こいつがおぼこいのは間違いなく柱間の過保護が原因だ!あいつ何やってんだ!?

「いいかコウノトリは赤ん坊なんか運んでこねぇしただの添い寝でややは出来ねぇよ!」

「そんな!?兄者は嘘をついていたのか」

「あのなぁ、生理とかどうしてたんだよお前。コウノトリが運ぶなら女に生理いらねぇだろ。どう思ってたんだよ」

「なんか…コウノトリが連れて来てくれる赤ちゃんの部屋の用意をしてるって……」

ウグァとガマが踏み潰されたような声を出してマダラは突っ伏した。


何が悲しくて初夜にこんな話をしているのだろう。マダラは懇切丁寧に人間の赤ん坊の作り方を授業する羽目になった。雄しべ雌しべの話は理解しているのに人間の営みだけはどうにも理解できないらしい扉間はずっと頭に疑問符を浮かべている。どうにもこのお姫様に対して千手の連中は過保護だったらしく蝶よ花よと純粋培養した結果がこのザマだ。将来旦那になる奴の苦労とか考えろよ。処女雪を踏み荒らす愉しさを知らない訳では無いがこれはちょっと行き過ぎているだろう。前人未到の極限の冬の雪山を踏破しようとしている気分だ。いつの間にか扉間は正座になって食い入るようにマダラの話を真面目に聞いている。全裸で。マダラはとりあえず扉間を脱がしてみた。脱がしている間もなんで脱がすんだ?と終始戸惑いつつも恥じらいも何も無くされるがままに脱がされて色気も何もない素っ裸がそこにいる。そうして千手らしく豊満な胸を隠すことなく惜しげも無く晒してマダラの話を真剣に聞いている。いや恥じらえよ。そういう自分も素っ裸で雄しべだ雌しべだの話をしてるのだからどっこいどっこいかもしれない。扉間が私だけ裸なのはずるいだろうと言うもんだからマダラも扉間の気の済むように脱がされてやった結果だった。

「イザナギイザナミの国造りのくだりは知ってるか」

「イザナギの余っているところで、イザナミの足りないところを刺し塞いで国を生んだくだりか?」

「…ああ、つまりそれをする。俺の余っているところをお前の足りないところで刺し塞ぐ。つまりそういうことだ。いいからとりあえずオレに任せてみろ」


色気も何もない素っ裸とは言ったが身体付きは艶めかしい女そのものだから多少は興奮する。それが弟の仇であっても悲しいかな男の性だ。兆したそれを見て扉間は目をしばたたく。兎のような赤い瞳が驚きに丸くなる。

「なんだそれ腫れてるぞ!?病気か!?」

ずっこけそうになった。わざとか?抱かれたくなくてわざとやってんのかこいつ。

「…あのなぁ、勃たせねぇと挿入られないだろ」

「何を…?何に?」

「ナニをお前のソレに」

兎はもう訳が分からないと言った顔で慌て出す。

「入るわけないだろ、そんなの!だいたいどうやって入れるんだ!そのまま入れたら……その痛いだろ、絶対」

この女と来たら兎みたいな色してるのに兎と違って何処までも性に鈍い。訳が分からないという顔で兆したソレとオレをチラチラ見ながら顔を赤らめるのは少々可愛い。なんだ可愛げもあるじゃないか。

「濡らしたら挿入る」

「………水遁で?」

「ンなわけあるか!!」

おいおいマジかよ。いくらなんでも戦闘脳が過ぎる。だいたいお前の水遁どれも物騒だろうが。水龍弾にしろ水断波にしろ、いつだって殺傷能力マシマシの水遁しか使わねぇだろうが!そんなもんで濡らしたら死ぬわ、オレが。恥ずかしげに胸を隠しながらじゃあ何で濡らすんだ?とでも言いたげな兎を押し倒して、出来るだけ優しく耳元で囁く。

「全部オレに任せろ」

「こういうのは夫婦の共同作業なんだろう?私は何もしなくてもいいのか…?」

「…天井のシミでも数えてろ」


「ん、なんかくすぐったい…なっ」

正真正銘処女のようだから極めて優しく触ってやらねばならない。豊満な胸を撫でるように揉んでやればくすぐったいのか白い裸体がくねりと捩れる。兎の指が自分の胸に這う不埒な手を撫でた。

「お前の手のひらを見るのは何だか不思議な気持ちだ。いつも手袋をしているから…」

「…物珍しいか」

「…面白いものを見たと思う。だが嫌いじゃないぞこの手。修行と鍛錬を欠かさず積み上げてきた努力家の手だ。…兄者と同じ手だ。タコだらけでカサついているけれど触られると安心する」

兎は手を取り自らの頬に当てる。これを計算なしでやってるのだからこの兎はタチが悪い。これ以上喋らせると何を言い出すかわからないので口で塞いでやることにした。ん、と鼻から息を漏らす声が戸惑いに溢れていて面白い。更に戸惑わせてやろうという悪戯心が湧いてきて兎の縮こまった舌に自身の舌で絡みとった。ん、んー!と講義するような声は無視をした。今楽しいんだから邪魔をするな。絡み合う唾液と舌とでぐちゅぐちゅと水音が鳴る。兎の口から唾液がつぅと伝う。酸欠気味なのか顔が赤らんでいる。色白だから直ぐに顔にでる。耐えきれなくなったのかバンバンと兎はオレの背中を叩く。これぐらいで観念してやろうと唇を離せば、唾液が糸を引いてぷつりと切れた。

「っ!お前のせいで!天井のシミを幾つ数えたか忘れてしまったじゃないか!」

真面目に数えてたのかよ。本日何度目かわからないがオレはずっこけた。


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