箱の中の歌姫、大海を知る
私はウタ。
ついこの前までホビホビの実っていう悪魔の力で、動くお人形にされていました。
言葉も歌も奪われて、見ると聞く以外の感覚も奪われて……
みんながいたから寂しくはなかったけれど、でもやっぱり、辛いものは辛くて。
でも、ルフィやウソップ、大好きなみんなが頑張ってくれたおかげで、私はその呪いから解放されて……
私は今、こうやって人間として。
この広い海を、人間として、みんなと一緒に旅することができています。
……さて今日は、人間に戻れたら
「歌うこと」
「みんなの体温を感じること」
の次にやりたかったことをやってみようと思います。
「よーし、泳ぐぞー!!」
「へえ、お前泳げんのか」
「人形だった時は全然ダメだったからね。でも、人間に戻れた今なら!」
見ているのはゾロだけ。
ぐいぐいと念入りに準備体操しながら、眼前に広がる広大な海に思いを馳せます。
船の縁に立ち、期待に胸を膨らませていたその時。
ドタバタと誰かが走ってくる音がしました。
「ウタァ〜〜!!」
「えっ、ルフィ!?」
ルフィが血相を変えて飛んできた。一体何だって言うんだろう。
そのあまりの迫力に思わず後退りを試みました。
もちろん、縁の上に後退りするスペースなんてありません。
「お前も泳げねェだろ〜〜〜!!?」
「はァ!?」
ルフィの迫力に気圧され、足を滑らせ、足と頭が逆さまになってから思い出しました。
悪魔の実の能力者は、海に嫌われて泳げなくなる。
つまり私は、人形とか人間とか関係なく……
そもそも、泳げない。
「そうだったァ〜〜〜〜!!!!」
忘れてたのもあの悪魔の実の影響なのかな。
いや、そんなわけないか。
これは多分、完全に私がアホだっt(ドボーーン!!)
「〜〜〜っ!!!」
あっダメだ、普通に苦しい。死ぬ。
ジタバタともがきながら沈んでいく私の前に、一本の腕が『伸びて』きました。
「待ってろウタ、今行く!!」
「って待てオイ!!お前が行くんじゃねェ!!」
私も必死で腕を伸ばして、何とか捕まえて、
引き上げてくれるかと思ったその腕の主は、
「ウタァ〜〜〜!!!」(ドボーン!!)
私の元に、私と同じように落ちてきました。
「行くなっつってんだろうがァ!!!揃いも揃って大バカか!!
仕方ねえ、おいウソップ!!手伝え!!」
「な、何だどうしたってんだよ!?」
「アホが2人落ちた!!引き上げんぞ!!」ザブーン
「アホ2人……っておォい!!ちょっと待てよ!!」ザブーン
─────
私はウタ。
色々あって今正座させられてます。
ルフィも同じく正座させられてます。頭にたんこぶ作って。
「全く……二人とも無事だったからいいものの。特にルフィお前何回目だよ!毎回要救助者増やすんじゃねェ!」
「「ずびばぜんでじだ……」」
ルフィは何度も同じことやってるのか……ルフィらしいというか何と言うか。
きっと毎回こんな風に誰かを助けようとしてるんだろうな。それで叱られると。
そう考えると、何だかルフィにも迷惑をかけてしまったような気がして……
「ゔぅ〜……」
「……ん?どうしたウタ、やっぱどっかケガしてんのか?」
「違う……私またみんなに迷惑かけちゃって……」
「……ハァ。
これが迷惑って感じる奴なら、とっくに船降りてんだろうなァ」
「ウソップ……」
(……ただ2度目は勘弁してくれよ、次は多分ルフィ以外のカナヅチ連中も飛び込むことになるからな)
(う、うん)
そっと耳打ちだけしてウソップは去って行きました。
そういえばルフィだけじゃなく、チョッパーやブルックも溺れた人を助けるために飛び込んで逆に救助されてたっけ。
みんながみんなを助け合い、支え合う、素敵な一味。
こんな出来事からでもそれを実感できた。
私ももっと、みんなの役に立ちたい。
そう思わずにはいられない。
……でも、もう少しだけ正座はしておこう。