第2話「砂漠の砂糖」
しばらくして、アリスが目覚めた。
アリス「あ、あれ・・・」
ケイ「あっ・・・」
彼女はゲーム開発部の部室を見渡すと、壊れたコントローラーを見て目を見開いた。
アリス「あ・・・あ・・・」
ケイ「・・・申し訳ありません。侵入者と争った結果、壊しました」
アリスはそれに近づき、手に取ると青ざめた顔をしながらこちらを向く。
アリス「ま、まずいです・・・。どうにかしないと・・・ユズに怒られます・・・」
ケイ「・・・ユズ?もしかしてこれは彼女のですか?」
アリス「はい・・・。最近ユズはこんらんしていで、ちょっとしたことですぐ怒ってしまいます・・・。モモイもミドリも・・・・だからこのコントローラーを壊した暁には・・・」
ひぃぃと身を震わせるアリス。
ケイ「・・・では、新しいのを買うしかないでしょう。行きますよ」
私はアリスを立ち上がらせる。
そしてそこで重大なことに気がついた。
ケイ「・・・アリス。お金ありますか?」
──────────────────────────
私はアリスと共に買い物ミッションに出掛けている。
ユズが愛用していた赤いコントローラーを買いに。なんとかお金は準備できた。偶然ヒマリから貰ったお小遣いがあったそうだ。
ケイ「・・・なんだか静かなようですが」
アリス「は、はい。今外出規制がかかってますからね・・・」
ミレニアム・スタディーエリアに前まであったような賑やかな雰囲気は消え、オートマタが巡回しているだけの街になった。
これでは電気街もやってないだろう。
ケイ「・・・仕方ありません。D.U.シラトリ地区まで行きましょう。」
私はアリスの手をとって、モノレールの駅に急いだ。
3時間後
ケイ「ふぅ。着きましたね」
モノレールが運行停止中だったので、私とアリスはやむを得ずここまで歩いてきた。およそ3時間。
アリス「・・・うう。アリスもうHPが半分しかありません・・・・」
私が起きた時に散々振り回したことは頭から抜け落ちたのだろうか王女は。
・・・それにしても、五月蝿い広告が多い。
『食べればみんなが幸せになれる、シュガータブレット!税込250円!!』
アルコール紛いの何かだろうか。
少なくともこんな胡散臭い謳い文句で、それも中学生を広告等に使う時点で碌なものじゃない。
私はそう思いながら、シラトリ区にある電気街「コーギータウン」を目指して歩く。
コーギータウンで、私とアリスは壊れたコントローラーと商品を見比べながら歩く。
そして数分後
ケイ「なんとか買えましたね」
アリス「これでユズを怒らせずに済みます!」
すっかり元気になったアリスと共に、私は再びきた道を戻る。
それにしても、D.U.はミレニアムとは正反対だ。
街中に人が溢れている。
ミレニアムの閑散とした雰囲気を味わってからここにくると、まるでミレニアムが田舎なのかと錯覚するほどに。
すると、D.U.の郊外に何かが見えた。
バス停の周りに人だかりがいる。
それもただの人だかりではない。
視点はおかしい。涎は垂らしている。
仮にもこの人たちは淑女なはずなのに、この振る舞い。
あまりにも気持ち悪い。
ケイ「・・・アリス。彼女達は?」
アリス「あっ、ケイ!隠れましょう!!」
アリスは私の手を引き、ゴミ箱の裏に隠れる。
アリス「あれはポイズン状態の人の成れの果てです!あれに捕まったらゲームオーバーです!」
切羽詰まる彼女と裏腹に、あそこに立つ者たちからは殺意や敵意などを一切感じられない。
生気すらも。
まるでゾンビか何かのようだ。
すると、大きな音を立ててバスが何台がやってきた。
臭い。まだ旧時代のエンジンを使っているのだろうか。
バスはバス停に停まると、ドアを開ける。
すると彼女達はバスに我先にと乗り込んでゆく。
本当にゾンビか何かなのだろうか。
やがてバスはどこかへ行ってしまった。
ケイ「行きましたね。帰りましょう」
アリス「はい・・・・」
──────────────────────────
帰ってきた頃には、すでに日が暮れていた。
アリスを先に部室に帰し、1人部室に戻ると、何やら規制線が貼られていた。
ケイ「なんの騒ぎです一体・・・」
私は規制線を越えながら部室に入ろうとすると、何者かが私の手首を掴んだ
「駄目ですよ〜アリスちゃ、って・・・アリスちゃんじゃないですね。ケイちゃんですね」
この声。セミナーのあのうるさい太ももの隣にいる。
生塩ノアだ。
アリスの記憶によると、おっとりとした性格の割に強い、いわゆる初見殺し系強キャラ。
ケイ「・・・ノア先輩」
ノア「あ、覚えててくれたんですね。そうです。セミナーの生塩ノアです。・・・それで、どうして今立ち入りできない部室に?」
ケイ「壊してしまったコントローラーの代わりを買ってきたので置きに。」
なるほど、と小さく頷いたノアに、私は逆に質問を投げる。
ケイ「・・・どうしてこの部室が立ち入り禁止なのですか?」
ノア「それはですね。今日の昼頃、この部屋に砂糖中毒者が入ったからです。アリスちゃんやケイちゃんはともかく、他の人には有害なので消毒しとかないと」
ケイ「砂糖中毒?いわゆるデブってことですか?」
ノアはぶんぶんと首を振る。
ノア「違いますよ!・・・もしかして、ご存知ないとかですか?「砂糖」を」
首肯する。
ノア「・・・そうですか。では説明しちゃいましょう。せっかくなので別室に行きませんか?」
有無も言わせない圧を感じて、私は彼女についていく。
セミナー 予備会議室
ノア「まず今私たちが話題にしている『砂糖』というのは本来の砂糖の定義とは異なります。正式名称は「アビドス砂漠の砂糖」、サンド・シュガーとも呼ばれますね。この砂糖はスクロースの塊ではありません。甘みこそありますが、どちらかと言うと麻薬の域です」
麻薬?アルコールやタバコよりもさらに規制が厳しいはずの麻薬をこうして堂々とキヴォトス中に・・・
ノア「アビドス砂漠の砂を加熱すると生成して、まるで氷の様な透明の結晶になるんです。砂糖の様に甘く芳醇で口にした者に2時間ほど空を舞うような多幸感を与えるという一見良さげなものなのですが、服用を続けるとやがて幻覚や幻聴等があらわれ、一定時間服用しなければ
とたんに怒りっぽくなり攻撃的な性格になってしまう・・・ものすごい中毒性を持ったものです」
つまり、D.U.地区にいたあのゾンビみたいな生徒達は、この中毒者というわけだ。
ノア「現在、ミレニアムでは全生徒の約6分の1が砂糖中毒者で、さらにヴェリタスの小鈎ハレ さんを含む約10%の生徒が砂糖の生産地アビドスに移籍しました。」
・・・繋がった。
昨日私が窓外に投げ飛ばしたあの白衣の女はハレだ。間違いない
すると時間がないのか、ノアは急いで立ち上がると扉に手をかける。
ノア「そういうことなので、ケイさんも気をつけてください。根本的な問題は私達がなんとかするので」
去り際にそう言うと、彼女は出ていってしまった。
──────────────────────────
私は寮のアリスのの部屋に戻る。
なぜか電気をつけると、アリスが蹲っていた。
ケイ「アリス・・・・」
アリス「・・・ケイ。少し、話をしてもいいですか?」
ケイ「構いません」
アリスは顔を上げて、私をしっかりと見る。
そして開口一番こういった。
私のせいなんです。と。
──────────────────────────
ノア「・・・そちらの準備はいかがですか」
『まだできていない。今各所から正常な人員を集めるので忙しくてな。相手はアビドス。油断できないわけだし、多ければ多い方が良かろう』
ノア「そうですか。ミレニアムも新型兵器はたくさん作っていますが、すぐには兵を集められません。それにトリニティはあのザマなのでゲヘナの部隊は今回の作戦において主力となります。頼みますよ?」
『分かっている。・・・・だが、ちゃんと勝算はあるんだろうな?二つ返事で乗ったはいいが、私とて負ける戦いに身を投じるほど愚か者ではないぞ?』
ノア「・・・心配無用です。確かにカルテルトリオは強いですが、向こうが準備を整えるより前に動いてしまえば勝ちですから」
ミレニアムタワーの最上階。
セミナーの執務室にて、ノアは窓に映る夜景を見て微笑んだ。
──────────────────────────