第五話「砂蛇様」その1「ヘリの機上にて」

第五話「砂蛇様」その1「ヘリの機上にて」

概念不法投棄の人



※アドビス砂漠の砂糖本スレまとめのリンクから来られた方へ

 2023/12/29 に物語の構成を変更したためにサブタイトルが一部改変されています。

 この物語の旧タイトルは『第四話「砂蛇様」その1「ヘリの機上にて」』で合っています。





 ヘリコプターの音と振動と身体を包む暖かく柔らかい物が暗闇の奥深くに沈んだ私の意識をゆっくりと引き上げて行きます。

 重い瞼を開くと目の前には柔らかくて大きなふくらみのある布地があり、土埃と硝煙と甘い砂糖の香りの混じった匂いが鼻腔をくすぐります。


「ハナエちゃん、目が覚めましたか?」


 顔を上げるとハナコ"様"の少し疲れた表情のお顔が見えます。


「……ハナコ様?」


「――!」


 私が呼びかけるとハナコ様は少し驚いた表情を浮かべます。


「ハナエちゃん……、昨晩の事を憶えてますか?」


「昨日の夜の事ですか……?」


 ハナコ様に言われて思い出そうとして昨日の夜――、いえ昨日一日記憶がほとんど無い事に気が付きました。全くの無になっているわけではなくて何か深い霧か靄に包まれていてよく思い出せないのです。


「……もしかして憶えてないのですか?」


「はい……上手く思い出せません。思い出そうとしたら――ううっ」


 頑張って思い出そうと頭に掛かる深い闇に手を伸ばそうとしますが何もつかめずそれ以上は危険だと痛みと共に脳が強く訴えて来てるような気がします。

 何か大切な物を受け取り、何か大切な物を手放し、何か大切な物を失った。ぼんやりとそう言う認識だけが残りました。


「無理に思い出さなくても良いんですよ」


「ですが……ハナコ様」


 もしかしたらハナコ様に関わる大事な物や事かもしれない。もしそうなら思い出さないといけないはずなのに――。

 段々と酷くなる頭痛に耐えようとしていたら、ハナコ様はゆっくりと顔を横に振られました。


「良いんです。無理に思い出さなくて良いんですよ……」


「ハナコ様……」


 ハナコ様の優しい手が私の頭を撫でててくださると不思議と頭の痛みが和らぎ、包み込む深い霧が少しずつ晴れぬまま遠ざかって行くのがわかりました。


「あの……ハナエちゃん」


 顔を上げるとハナコ様が見つめて来ます。疲れと不安とどこか少し怯えているような色を滲ませた表情で私に問いかけて来ます。


「今、私達はトニリティを出奔(で)てアビドス自治区へ向かってます。もう二度とトリニティには帰れないでしょう。それでも――、それでもこれからずっと私のそばに居てくれますか?」


「…………」


 私はトリニティを捨ててハナコ様と一緒にアビドス自治区へ駆け落ちしようとしてる。自分の居場所であり、自分の身分や存在証明をしてくれるキヴォトスの生徒なら命の次に大事な母校を捨てる。それはとてもなく恐ろしい判断のはずなのに――。

 不思議と不安と恐怖はありませんでした。この人の――ハナコ様のお傍に居る事が全てで何よりも大事で、ハナコ様のお傍で、その匂いと温もりに包まれて居られるなら、どこでも安心して幸せに生きていける、そう感じるのです。


「私はハナコ様のお傍にずっと居たいです。ハナコ様といつまでもご一緒できるなら――私は何処へでもついて行きます。それが私の幸せですから」


 私の心に浮かんだ気持ちを包み隠さず言葉に乗せて言うとハナコ様は目を大きく見開いて固まってしまいました。何か変なことを言ってしまったのでしょうか?


「……?あの……ハナコ様、いかがなさいましたか?」


「……いいえ、何でも。何でもないですよ、ハナエちゃん」


 見開いた目を何度か瞬かせたハナコ様は少し疲れどこか不安を滲ませていた表情を破顔させ、優しく声を掛けてくださります。


「ありがとう……ハナエちゃん。私のそばに居てくれて……私を選んでくれて……ありがとう」


 ハナコ様に抱きしめられ、その大きな胸に顔を埋めます。ハナコ様が纏う甘い香りがさっきよりも濃くなった気がして、布越しに伝わる体温と心臓の鼓動がとても心地よいです。


「うふふ……ハナエちゃん甘えん坊さんですね。もう、くすぐったいですよ」


 ハナコ様の困った声が聞こえてきますが私はお構いなしに顔をぐりぐりと押し付けてハナコ様の匂いと温もりを、もっと感じようとします。


「ハナエちゃん……」


 甘い吐息とともに呼ばれ顔を上げると、とても美しい輝きを放つ結晶――アビドス純正糖で出来た角砂糖を口に咥えたハナコ様の顔が見えます。


「はい……大好きです……ハナコ様」


 それは"いつもの合図"。普段は赤い飴玉ですが、ハナコ様の望む反応は同じなので私は何時もの様に深く絡めるように唇を重ねて、舌を差し出します。



んっ……っちゅ、くちゅ、れろっ……んちゅ、んんっ……んっちゅぅぅう、くちゅ、くちゅっ……



 姿勢と体勢の関係で今日はハナコ様の舌が私の口の中で踊る日。私の歯茎や粘膜を舐って楽しむハナコ様の舌を招き入れて、ダンスホールと化した私の口内で徐々に溶けて行く角砂糖を受け渡しを繰り返します。

 口の中で広がる少し純度の高いアビドス糖の強い刺激をハナコ様の口から流し込まれる唾液が和らげてくれます。ハナコ様の濃厚な甘い香りと刺激は弱められても効能はそのままの解けた砂糖液が喉と理性を焼き切りながら私の体内へと落ちて沁み込んでいきます。


「んちゅっ、ぷはっ、ハナコ様……ハナコさまぁ……んっつぷっ」


「んぢゅっ、はぁっ、ハナエちゃん…ああんっ、好き…大好きですよ……ハナエちゃん……ちゅぷっ」


 口内の角砂糖が解け切ると、舞踏会の第二幕が始まります。動きが早まり、どんどん激しくなるハナコ様の舌に翻弄されつつも私はハナコ様の望むように舌を絡めて行きます。

 流し込まれる唾液の量がどんどん増えて絡みついた唇の隙間から零れ、私の下顎から首元へと何本もの光る筋を描いて行きます。



 好き……好きです……大好きです、ハナコ様ぁ……。



 私とハナコ様を包み込むように2重に巻かれた毛布の中、ハナコ様も私も激しい舌の動きに会わせて体を少しずつ動かし、それに合わせて毛布の外側に巻かれたサバイバルキットの保温用アルミシートがガサガサと音を立てます。



 ハナエちゃん……ハナエちゃん……ハナエちゃん。


 ハナコ様……ハナコ様……ハナコさまぁ……。



 声は発さなくてもお互いに求めあっているのがわかります。鼻先が何度も擦れお互いの漏れてくる熱い吐息、口内を弄る舌と絡み合い流し込まれる粘液の音であれだけ大きかったはずのヘリの音はもう全く聞こえません。

 私の後頭部を優しく抑えていたハナコ様の手がゆっくりと私の背中へ降りて来ます。銃弾を何十発も浴びて無数の穴が開き、"誰か"の返り血で桃色からどす黒い赤色に染まってしまった制服のアウター越しに背中を撫でる手が少しずつ腰へと降りて行きます。


 もう片方の腕――、キスしやすいように私の下顎を持ち上げ支えてくださっていたハナコ様の手が離れ、ゆっくりと人差し指で私の身体を撫でるように、これから起こる事に期待して震える私の身体を愉しむように降りて行きます。

 私の制服は"何故か前半分が大きく引き裂かれ"、その布地も、その下に本来見えるはずの2枚の上下の下着も失われていて、身体の大切な部分はすべて無防備に曝け出していて、降りてくるハナコ様の手を無抵抗で受け入れます。


 私の小さな身体に不釣り合いな大きな膨らみをハナコ様の手が優しく包み込み揉みしだいて行きます。その優しくも強い新たな刺激の登場に私は思わず唇を離してしまい、自由になった口からは喘ぎ声とハナコ様を求める声が吹き出します。

 その様子にご満悦なハナコ様は私の胸を堪能すると、胸の谷間からゆっくり煽るように指をねっとりと下へと滑らせていきます。お腹を通り、お臍を刺激するようにクルリと一周するとそのまま下腹部へと降りて行きます。



 ハナコ様っ!!ハナコ様っ!!ハナコ様ぁあああ!!!!



 ハナコ様の指が下腹部を通り、私の両足の付け根――、すでに膨らむ期待で溢れかえる泉へと向かうのがわかり、これから起こる大きな快楽の波を想像しただけで私は軽く絶頂してしまい、喘ぎ声を漏らし顔を仰け反らしてしまいます。



 そして、こちらを凝視する3人の視線と存在に初めて気づきました。



「あ、……あのぉ………」



 顔を真っ赤にしたウサ耳カチューシャを付けた、長い黒髪に何故か落ち葉を引っ付けている女の子が声を発して――。



「お、お前たち………」



 次に白いウサ耳デザインのヘルメットの被った女の子が拳を強く握りしめ、他の子とは違い羞恥だけでなく怒りで染まった赤い顔と拳を震わせて――。



「RABBIT小隊(うち)のヘリを何だと思ってるんだっ!!ここはモーテルじゃないんだぞっ!!!!」



 と大声で叫びました。おかげで私は快楽の波から逃れ、一気に冷えた頭が現実を捉えます。



「ご、ごめんなさいっっ!!」



 思わず立ち上がって、頭を下げます。



「おいっ!!立ち上がるなぁっ!!おおおお、お前っ!!自分の今の格好を分かっているのかっ!!」



 ウサ耳ヘルメットの女の子が羞恥100%になった真っ赤な顔で私を指さします。隣にいる落ち葉が纏わりついた黒髪の女の子は悲鳴を上げて両手で顔を隠し――さりげなく両目の部分は指が開いててウサギさんのような真っ赤な目はばっちり見開きこちらを見てて。さらに隣にいるウサ耳カチューシャをつけた白銀の髪の女の子は目を瞑って真っ赤な顔を逸らしています。


「ほえっ?」


 ウサ耳ヘルメットの彼女の指が指す方へ視線を向けると、大きく裂け前面の布地をほぼ失ったボロボロの制服。その下にはハナコ様の愛撫で桃色に染まり玉のような汗が浮かぶ大切な部分が上も下も全部丸見えな私の裸体が晒されていて――。


「……きゃああっ!!!ごごごごごごめんなさいぃぃぃぃぃぃ~~~」


 私は慌ててしゃがんで座り込み毛布を乱暴に纏います。


「あらあら、うふふふ……サキちゃん達には刺激が強かったみたいですね。ふふっ、でも見てて気持ち良かったでしょう?3人ともモジモジと内股閉じて足を擦ってて……感じちゃいましたか♡」


 ハナコ様は目を細めて妖しげな光を湛えて微笑みます。


「なななななな何を言っているんですかっ!!揶揄って遊ぶのは止めてくださいっ!!いくらハナコ様でもやって悪いことがありますよっ!!」


 そんなハナコ様に真っ赤な顔で抗議の声を上げるウサ耳ヘルメットの子――サキさん。そんな彼女にハナコ様は軽く睨みます。


「あら、私に向かってそんな事を言うのですか?……救出してくれた特別のご褒美のこれ、要らないのですか?」


 ハナコ様が懐から金属ケースを取り出して見せます。中を開けると、薬液の入った注射器が3つ並んでました。


「あああっ、砂糖っ!!アビドス純正糖っ!!!お願いしますっ!!くださいっ!!砂糖をくださいっ!!!」


 それを見せられた瞬間、彼女たちの目の色が変わります。その見覚えのある光景に私は彼女達が同じ砂漠の砂糖中毒者だと気付かされてしまいました。


「あぅぅ……ごめんなさいっ……ハナコ様。サキちゃんは没収で良いので、私に……救出作戦頑張った私に……お、お砂糖全部ください……!!」


 黒髪落ち葉の女の子がハナコ様の足元へ縋る様にやってきます。


「ずるいぞミユっ!!!お前は何もやって無いだろうっっ!!ハナコ様の要請で急遽引き返して接近するミレニアムの追撃部隊の脅威とトリニティ残党どもの対空射撃の中、学生寮へ降下作戦を強行し、依頼されたハナコ様の大切なお荷物を無事回収した私が全て貰う物なんだぞっ!!」


「わ、私だって………周囲の警戒……がんばったんだよ……。こ、降下中の……サ、サキちゃんを狙っていたトリニティの子……狙撃したのは……わ、私なんだよっ……。私が居なかったたら作戦失敗してて、サキちゃん捕まってたんだよっ……」


「うるさいっミユっ!!離せっ!!ハナコ様から離れろっっ」


「い…嫌ぁぁ……!」


 ハナコ様に縋ろうとする黒髪落ち葉の女の子――ミユさんをサキさんが引き剥がそうとして、必死に抵抗するミユさん。制服についた記章から皆さんどうやら同じグループのようなのですがまるで統率の無いギラギラした瞳の本能むき出しの獣のように取っ組み合いをしてるお二人に私はたじろいでしまい――、もう一人の女の子の様子に気が付きます。



「………………」



 目をぎゅっと固く瞑り、下を向いて必死に何かに耐えている様子の子。身体はブルブルと震え、ウサ耳カチューシャの下の雪のような白銀の髪は乱れて肌に張り付いてます。


「あ、あの………良かったら……これどうぞ。ハナコ様と同じ薬液の入った未使用の注射器です。禁断症状……辛いでしょう?」


 私は毛布を体に纏って立ち上がると彼女に近づいて、毛布の隙間から金属ケースを差し出します。

 ハナコ様がサキさん達に注射器入りのケースを見せられた時、何か直感みたいなものが走った私は制服の無事だったポケットに同じ金属ケースが入っている事に気が付きました。汚れていて銃弾をいくつか浴びたのか穴は開いてないものの何か所も酷く凹んだ部分のある歪んだケースを開ければ未使用の薬液入りの注射器が1本だけ残ってました。ハナコ様のケースと同じ大きさから恐らくは元々は3本入っていたはずなのですが2本は使ったのか無くなっていました。"いつの間に使っていたのでしょうか"よく思い出せません。

 中身の注射器を目視で点検してポンプ本体も先端の注射針にも異常が無さそうだったので禁断症状に苦しんでるだろう彼女に差し上げる事にしました。しかし――。


「ひぃっ!?……い、要りませんっ!!私は要りません!!」


 彼女の目の前でケースを開けて注射器を見せた途端、彼女は驚き目を見開いて何かに怯えるような表情で受け取ろうとはしません。


「でも……早く打たないと。その身体の震えに青ざめたお顔……かなり重度の禁断症状が発症していませんか?これ以上我慢してると……身体に毒ですよ?……お注射苦手でしたら、私が打ちますが……」


「触らないでくださいっ!!私にはっ!!私には砂糖なんて必要ないんですっっ!!!」


 彼女の腕を取ろうとすると彼女がひときわ大きな声で拒絶の意思を示してきます。思わず伸ばした手を引っ込めて、私は考え込みます。砂糖が必要ない?どういう意味なのでしょうか?


「良いんですよハナエちゃん。彼女、ミヤコちゃんにはお砂糖あげなくても良いんですよ」


 いつの間にか私の横に来ていたハナコ様が言います。


「ですが……彼女、ミヤコさんは重度の禁断症状が出ています。このまま放って置いたら――」


「ハナエちゃん、ミヤコちゃんの身体の震えと青ざめた顔、それは禁断症状じゃないんですよ。うふふ……だからお砂糖はあげなくても大丈夫なんです。そうですよね?ミヤコちゃん?」


「はい……その通りですハナコ様……」


 ハナコ様の問いかけに弱弱しく答える白銀の髪の子ことミヤコさん。私はますます意味がわからなくなり、その時ふとありえない答えが浮かびました。


「あ、あの……ハナコ様?もしかしてミヤコさんは――」


 "砂糖を摂取してない普通の人なのですか?"そんなあり得ない答えを思いついてしまい口に出しそうになった時でした。


「もぉ~なになに~?私を無視して勝手に砂糖パーティー始めないでよぉ~。わたしにもお砂糖ちょぉ~だ~い~~」


 ヘリの操縦席からウサ耳カチューシャに眼鏡をかけた女の子が這い出て来ました。この子もサキさん達と同じ仲間の子のようです。


「おぉいぃっ!?何やってんだモエっ!!操縦席に戻れっ!!ヘリが墜落したらどうするんだっ!!」


 サキさんが吠えますがヘリパイロットの少女、モエさんは気にしてる様子はありません。


「だいじょ~ぶだよぉ~。オートパイロットにしてるから~~。ねぇ~それより私にも砂糖はやくちょうだ~い♡」


「モエっ!!ヘリにオートパイロットなんてあるわけないだろっ!!……ってきゃああっ!??」


 突然ヘリが急減速して機体が傾きます。私はバランスを崩しそうになってハナコ様に抱き留められました。


「わ、私がっ操縦代わりますっ!!」


 座席から飛び跳ねるように立ち上がったミヤコさんがヘリの機体の傾きを利用して飛び込むように操縦席に入ります。ヘリは直ぐに安定機動へ戻りました。


「くひひっ、いただき~♡ えいっプスッと一発~。あ"あ"あ"あ"あ"~~~気持ち良いぃぃぃ~~~」


 ヘリが傾いた勢いで私の手から零れ落ちた注射器を拾ったモエさんがすかさず自分の腕に突き刺して薬液の効果を堪能始めてます。


「はぁ、はぁ、気持ちいい……ああああっ昂ぶってきたぁ~~!!ふう、ふう、もう我慢できない!」


 口から涎を垂らし瞳孔の開いた目を輝かせたモエさんが突然立ちあがると、ヘリのサイドドアを全開にします。物凄い突風が機内を駆け抜けるのも物ともせずに備え付けられた機銃にぶら下がると。


「くひひっ、全弾発射ぁああああああ~~!」


 モエさんは涎を撒き散らし笑い声を上げながら目の前に広がる夜明け前の薄暗い砂漠地帯へ機銃を乱射し始めました。薄暗い闇の中、ぼんやりと見える眼下の砂漠へと曳光弾の赤い光の筋が吸い込まれるように飛んでいくどこか幻想的な光景が広がりました。


「はぁ、はぁ、綺麗……。くひひっ、これだから砂糖はやめられな~い」


 装填していたマガジン内の銃弾全部打ち尽くすと機関銃の台座にもたれ掛かる様に崩れ落ち、そのまま床に寝転がって悶え続けるモエさん。


「あぁ……こうして砂糖を摂取する瞬間は、本当に気持ち良い……、あはははは」


「お砂糖気持ち良い……あぅぅ、やっぱり私は何も出来ないゴミクズなんだ……」


 いつの間にかサキさんとミユさんも注射器を打っててモエさんと同じように床の上に寝転んで悶えてます。サキさんは虚空を見つめるように笑い続け、ミユさんは浮かべていた笑顔が消えたと思うと突然大粒の涙を流しながらネガティブな事を呟き始めてます。



「もう皆さん、勝手にお砂糖堪能しちゃって、悪い子達ですね」


 困り笑いをうかべながらヘリのドアを閉めるとハナコ様が私の横へと座ります。モエさんがドアを開け放ち冷え込んだ夜の砂漠の冷たい空気に晒されていたのかハナコ様の身体が少し震えている事に気が付きました。

 いつの間にか私一人が独占していた毛布をハナコ様へと渡します。


「うふふ、ありがとうございます。ハナエちゃんは優しいですね」


 そう微笑むと、最初のように私と一緒に毛布に包まり身を抱き寄せてくださるハナコ様の身体の熱と再び甘い香りに包まれると先程の混沌とした光景が遠い世界のように感じるようになりました。


「アビドス到着までもう少し時間があります。今はゆっくり休んでくださいね、大切な私だけのハナエちゃん♡」


「はい。ありがとうございますハナコ様♡ 私は……とても幸せです♡」


 ハナコ様からもう一度口づけを頂きます。今度はゆっくり優しく唇と舌を絡ませます。くちゅくちゅと頭に響く水音と再び流れ込んで来るハナコ様の唾液を堪能してると睡魔がゆっくりとやってきました。もう少しハナコ様との愛撫を楽しみたかったのですが私の意識はゆっくりと眠る事を選んだようです。

 このお人の傍に居られ愛を享受できる喜びを嚙みしめながら深い闇へと意識を沈めて行くとふと不意にミネ団長とセリナ先輩の顔が浮かびました。



(ごめんなさい……ミネ団長……セリナ先輩……)



 何故今になって二人の顔が浮かんだのか?どうして二人に罪悪感を感じ、謝罪の言葉が思い浮かんだのか――。私には理解できませんでした。ただ、心のほんの僅かな一部分、それが何かを発していたような気がします。



(私はもうお二人の元へは戻れません……)



 私はその時、もうこのお二人の元へは戻れない、一緒に居る事は出来なくなった。何故だか分かりませんがそう理解できました。でも不思議と寂しいとか悲しいとか後悔とかは全く思いませんでした。もちろんお二人の事が嫌いになったわけではありませんですし、お二人の事を忘れたわけではありません。ですがまるでお二人との別れが必然で当たり前のことのように思えました。それほど付き合いのない知人とすれ違い別れてそのままになる、それと同じように思えたのです。


 必死に何かを訴えようとしている心の僅かな一欠けらを摘まんで投げ捨てると、心のモヤモヤは消え去り、脳裏に浮かんでいたお二人の顔もやがて消えて行き、私の意識は暗い闇の底へと沈んでいきました。



(さよなら……ミネ団長……。さよなら……セリナ先輩……)







ハナエ………ちゃん……。




セリナ……先……輩……。







(つづく)





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