立香へ

立香へ


こうして手紙を残すのも、貴様のことを立香なんていうのも気恥ずかしいが、これも遺される貴様を思えばなんてことはないだろう。我は見てしまったんだ。自分が死ぬ未来を。これでも一応千里眼は正常だからな、否が応でも見えてしまうのだ。それで、遺されていく貴様のために何ができるか考えて、こうして筆を取った。いわばこれは、我の遺書だとでも思えば良い。

我は、他の我とは違う経緯で生まれた存在だ。ギルガメッシュ叙事詩を原点に持つ他の我とは違い、サーヴァントとしての我を歪めてつくられた、本来カルデアには存在できない存在。それが我だ。それを、どんな不具合が起こったかは知らないが、貴様は我を呼び出してしまった。まさに奇跡と言ってもいいだろう。

本当は、怖いんだ。いつか死んでしまうこと。貴様を置いていってしまうこと。他の我に言ったら笑われるかもしれないが、とにかく怖くて、夜は貴様に抱きしめてもらわないと眠れなかった。それでも貴様は、我を優しく抱きしめてくれた。頭を撫でてくれた。我は貴様を置いていってしまうのに、貴様は我を離さないでいてくれた。それが本当に嬉しくて、悲しかった。

我が買いためていた、大量のチョコレートを、他の我の宝物庫に押し付けておいた。貴様の好きにするがいい。

それから、ナーサリーとジャックと一緒に遊ぶ予定があったのだが、その約束を果たす前に我は消えてしまうようだ。貴様から謝っておいてくれると助かる。

それから、キッチンの赤い弓兵にも謝っておいてくれ。チョコレートを使った新作のスイーツを試食する予定も、どうやら果たせそうにないからな。あぁ、食べられないのが残念だ。

エルキドゥにも、謝っておいてくれ。一緒にシミュレーションルームでピクニックをする予定も、キャンセルしなければならないらしい。一緒に日向ぼっことかしたり、たくさん話したいこともあったんだけどな。こればっかりはしょうがない。

そして、立香。今まで我と一緒にいてくれてありがとう。我をカルデアに呼んでくれてありがとう。貴様は死んじゃダメだぞ。我はカルデアで貴様と会えて幸せだったんだから、貴様も生きて、幸せにならなきゃダメだ。我がいなくなったからって、泣いてばかりじゃダメだぞ。我は貴様の笑った顔が好きなんだから、笑っていてくれないと困る。あぁ。離さないでくれと、置いていかないでくれと言ったのは我のほうなのに、我がその約束を破ることになるとは。本当に許してほしい。

長くなってしまったな。最後に、貴様に言っておきたいことがある。

ごめんね、立香。今まで、本当にありがとう。


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あぁ、あぁ!あの遺書を、今すぐにでも書き直したい!立香とキスをしてしまった!しかもファーストキスだ!幸せすぎて、どうにかなってしまいそうだ!最期にギュッてしてくれて、頭も撫でてもらった。立香も怪我してるのに、大丈夫だよって優しく言ってくれた。死なせたくない。立香は絶対に死なせない!もう怖くない!今なら、なんだってできる気がする!あぁ、遺書の最後は失敗だった。あれだけを書き直したい。でも、もう書き直せない。ならば、立香の記憶に永遠に残るように、絶対に忘れられないように、満面の笑みで言ってやる!

「立香!」

あぁ、立香が泣いている。泣かせてしまったのは、我か。ごめんね、立香。できれば、貴様には笑っていてほしいから。我も最高の笑顔で言ってあげる。

「バイバイ、立香。大好き!」


原子は混ざり、固まり、万象織りなす星を生む。死して拝せよ!

『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!


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