私は最強
海軍やってた頃は私も(ルフィほどではないけど)前線に出て戦ってた。でも、シャボンディ諸島での一件を皮切りに、私は次第に戦うことができなくなっていった。だからずっと、ルフィに守ってもらっていて、そんな自分が許せなかった。ルフィは「俺がやりたくてやってんだから気にすんな!」って言ってくれるけど、日に日に傷が増えていく姿を見ていることしかできないのが、とても情けない。
私だって、ルフィを守りたい。でも、いざ戦うってなると足がすくんで動かなくなる。
…どうすればいいのかな、私。
そんなことを考え続けていたある日ーー
「ルフィ!!」
ーーールフィが大怪我をした。何度目かもわからない海軍による襲撃。ルフィはいつもみたく私を庇いながら戦っていた。そんな中、突然に…
「ルフィ!ルフィ!」
「あたた…ウタ、怪我ねえか?」
「そんなことよりルフィが…!」
「…まだ追っかけてきてんな。仕方ねえウタ、しっかり捕まってろ!」
「ちょっと!そんな傷で動いたら…!」
静止の言葉を振り払い私を抱えてルフィは飛んだ。幸い飛んだ先に洞窟が見えたので少しそこで身を隠すことにした。
「いってぇ〜、くっそ油断しちまった。」
「もう!手当てするから動かないで!」
早く処置しないと手遅れになっちゃう!…でも、私がいなかったら、戦えたら、こんな怪我きっとーーー
「…ごめんね、足手纏いで。」
手当てをしながら謝る。私を庇ったせいでこんな怪我しちゃったんだもん。
「なんだまだそんなこと言ってんのか?俺が守るって勝手に決めたんだから、ウタはなんも気にする必要ねえって。」
「…でも、でも!ルフィが怪我するとこなんて見たくない!もし今日みたいなことがあってルフィが死んじゃったら、私…」
最悪な未来を想像してしまい、涙がこぼれる。
「私だってルフィを守りたい!ルフィと一緒に戦いたい!」
「ウタ…」
「…でも、今の私は足が震えてうまく立てなくなっちゃうし、動けたとしてもきっと、ルフィの足を引っ張っちゃう…!」
ルフィの胸に顔をうずめて泣き喚く。自分の非力さを、今日ほど憎んだ日はない。
「…なあウタ。お前も戦いたいのか?」
「…うん、守られてばかりは嫌。でも、私が戦ってもーーー」
「ならよウタ!」
突然ルフィが大声を出す。
「俺のために歌ってくれねえか?」
「…え?」
歌う?ルフィのために?でも歌ったところで能力はうまく発動できないかもしれないし、すぐに倒れちゃうかもしれない。
「今の私じゃ前みたいに戦えないよ?」
「違うって!ただ歌ってくれるだけでいいんだよ!」
「歌うだけで…?」
「そうだ!俺、お前の歌があればもっと頑張れる気がするんだ!」
「で、でも…」
「それによ、最近お前ぜんっぜん歌ってねえだろ?久しぶりに聴きたいんだ!」
「ルフィ…」
最近の私は全然歌っていないし口数も異常に少なくなった。歌うことはおろか、話すこともままならない状態かもしれない。
でも、それが少しでも、ルフィの支えになるのならーーー
「…わかった。私歌うよ。他の誰でもなく、ルフィのためだけに。」
「おう頼む!久々にお前の歌聴かせてくれ!」
ふと外の音に耳を傾けると、海軍らしく人たちの声が聞こえてきた。
「もうここまで来たのか。…よし!ウタが手当てしてくれたから目一杯暴れられるぞ!」
「もう、あくまでも応急処置なんだからあんまり無理しちゃダメだよ?」
「わかってるよ。…それでウタ、準備できたか?」
「ーーッ!!」
準備…逃げることではなく歌うことの、だろう。
正直、全くできていない。いきなり決まったし久しぶりだし…
「ウタ!」
「うえっ!?なに?」
「安心して歌えよ!お前のステージの邪魔は絶対させない!」
「…」
本当、この人はどこまでも眩しい。塞ぎ込んでいた私をずっと支えて、守って、照らしてくれていた、大切な人ーーー
「うん!大丈夫!行こうルフィ!」
そう言って2人で洞窟を飛び出す。さあ、久しぶりのステージだ。
ーーーでもやっぱり、そう簡単にはいかない。海軍に見つかり、狙われた瞬間から、なかなか歌い出せない。
「っし!覚悟しろよお前ら!」
そんな私を横目に、ルフィが単身で海軍の部隊に飛び込み戦闘を始めた。
海軍の中でも相当な手練れの彼は、多少の数的不利もなんなく跳ね返す。
ーーーけど、無敵じゃない。だから今日みたく怪我をすることもある。
彼が怪我を負った時を思い出した私は、自然と息を吸い、歌い出していた。
『さあ、怖くはない 不安はない』
まだ不安はある。
けど、ルフィのためなら、私は…
『私の夢はみんなの願い』
私の願いは一つだけ。
ルフィを、支えられるようにーーー!!
『歌唄えばココロ晴れる』
私の歌が、ルフィの支えになる。
そう思うだけで、不思議と声が大きくなる。
『大丈夫よ』
この歌と、今の私は全然違うけど、自分を奮い立たせるために、全力で叫ぶ。
『私は最強』
こんな私でも、ルフィを支えられるなら、ルフィの助けになるのなら…
もう、恐怖も不安もない。
ただ、ルフィのために歌うだけ。