私はわたしですが私なので

私はわたしですが私なので


※現パロ
※キドホ前提
※軽度の軟禁表現
※英語の綴りは気にしないで



最初は夢だった。
やけに記憶に残るリアリティのある夢だと思っていた。
そしてそれがただの夢ではなくいわゆる前世と呼ばれるものだと気づいたとき、あらためて周りを見渡して愕然とした。
知っている顔ばかりが溢れている。敵も味方も入り混じり直接的にしろ間接的にしろなんらかの形で名や顔を知っているものが多くいた。
なるほど袖振り合うも他生の縁というがまさか事実だとは。

他のものは憶えているのか。
浮かんだ疑問を確かめることはしなかった。
思えば初めて会ったはずの相手に変な顔をされることも少なくなかったが憶えているならば納得の反応だった。

すべての準備を整えた。
住み慣れたこの国を出るのは少々おしいがこれも互いのためだ。

中学の時に出会ったキッドと付き合いだしてもうすぐ一年になる。
かつて11人の超新星と呼ばれたものたちはそれぞれの生まれた海ごとに幼馴染として過ごし時を経て再会した。
おれも例にもれず北の海連中と過ごし何事もなく年を重ねたが、中学に入り南の海組と出会いなにかと嫌味たらしいキッドに絡まれながらも紆余曲折あって付き合うことになった。
付き合うことになったことを告げた時のローとドレークの苦虫を何十匹と嚙み締めたような表情も今なら納得がいく。
ふたりは憶えていたのだ。
かつての同盟とその末路を。

憶えているゆえにたどり着いたに違いない。
キッドがなにを思って付き合いたいなどとのたまったか。

”こちらがその気になったら笑いものにして捨てる”

元々色恋に興味が薄く面白味もなく趣味も合わないおれを口説いたのもそれならば納得がいく。
キッドなしでは生きていけないほど溺れさせてから嘲笑い罵倒しながら完膚なきまでに無残に捨てる気なのだ。
かつての裏切りの代償としては悠長な計画だと言わざるおえないがこの平和な世界では直接的な復讐は自分と周りの立場を危うくしかねないことを考えると上手い手かもしれない。
だが生憎そこまで許すほどおれも馬鹿ではない。
そうなる前に姿をくらませるくらい造作もない。
元々そう陰湿な男ではないのだ。
留学してそのまま職を見つけ数年行方をくらませれば諦めるだろう。
その間他のものたちにも連絡を取らないようにしなければならないからいっそと連絡先をすべて変えた。
ローとドレークには呆れられるだろうが、事情を察して許してくれるはずだ。

もしまた交流を持つようになったらキッドに殴られるくらいはしてやろう。
おれが思い出すのが遅かったせいでこんなややこしい手段を取らせてしまったのだから。

遠くなっていく陸地にわずかな郷愁の念を抱き新天地にかすかな希望を見出す。
これからはしばらく駆け足の日々だ。
久しぶりの冒険と挑戦に弾む心を引き締めてしばし眠りについた。



****


もはや馴染んだこの国の夜景を眺めながら晩酌をするのが週末の楽しみになった。自宅でできる仕事ばかりとはいえどうしても外出しなければならない仕事もあり先週は取引先との打ち合わせで週末も仕事で晩酌をしている暇もなかった。


「ホーキンス船長、いかがですか」

「ああ、美味い。また腕をあげたな」


動かない表情でも気持ちが通じるほどに長い付き合いのコックに賛美を送れば目に見えて照れているのが少しおかしい。
いつも通りのメンバー、いつも通りの晩餐、いつも通りの日常。
すべてを置き去りにして訪れた異国の地で再会したかつての船員たち。再会を喜び、再び訪れるだろう別れに怯える彼らをなぜ突き放せるだろう。
自らの矜持を通しひとり先立ったことに後悔はないが残してしまう船員たちに思うところがなかったかといえば噓になる。
ちょうど就職前だったのもあったのかもしれない。
気づけば自宅でできる仕事を引き受けほとんどの時間を室内で、彼らの目の届く場所で過ごしている。


「息抜きに海が見たい。…そんな顔をするなおまえたちも一緒だ」


傍から見たら異常なのだろう。
このご時世にスマートフォンの一つも持っていない上、家に固定電話も引いていなければパソコンもネットに繋がっていない。
テレビや新聞で外の情報は手に入れられてもこちらから発信するすべがない。
外との繋がりは仕事でたまに会うクライアントばかり。
その相手との連絡も船員を通して行うせいですっかり人嫌いの変わり者扱いだ。

そういえば手紙は届いただろうか。
ドレークに宛てた手紙を船員に預けてしばらくたつ。
内容の確認をした後にしぶしぶ受け取ってはくれたが握りつぶされたかもしれない。
かつてのおれならそんなことをしたものを𠮟責していただろうが、先に死んだ負い目が言葉を封じる。
まあ出されていてももう引っ越しているかもしれないし無視されるかもしれないが

海が見たい。
かつての波乱の世界でも表面上平穏なこの世界でも海は変わらない。
少しべたつく潮風とうみねこの声が聞きたい。
心を落ち着かせるには海が一番だ。
多くの海賊たちが愛し、恐れた海をおれは今もなお愛している。



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