私とトレーナーさんの奥さん

私とトレーナーさんの奥さん



ATTENTION please!

モブウマ娘ちゃんとやべー女の話です

女性特有の現象を題材にしています

やや生々しい描写があります

苦手な方は回避お願いします


どうしよう、どうしよう、どうしよう。手先が冷たい。濡れて冷えた布が張り付く感覚が不快。赤黒い物が視界に入るたびにパニックになりそうになる。

だって、一回来てそれっきりだったのだ。それ以来しばらく来てないし、ていうかナプキンとか実家に置いてっちゃった。「持ってかなくて良いの? ちゃんと寮でも用意しておくのよ」って言ったママの顔が蘇る。

早くこの服を脱ぎたいし、着替えたい。でもどうやって。服も何もきっと汚れてるし、この服で出ていくのは嫌。待って、もしかしたらソファとか汚しちゃったかもしれない。

どうしよう。どうしよう。どうしよう。

トイレに入る今の今まで全く意識してなかったのに、一度気づいてしまうとお腹まで痛くなってしまう。確かに前来た時は酷かった。痛くて痛くて全然寝られなくて、ママがホットミルクにたっぷりハチミツを入れてくれて、一緒にママのお布団に入って手を繋いで眠った。パパはあまり深く聞かないようにしながら、朝起きた時に頭を撫でてくれた。

「……ママ………パパ………」

鼻の奥がツンとする。でも北海道にいるパパとママがこっちにいるわけない。一人で、なんとかしなきゃいけない。

なんとかって、どうやって?

どうしよう、どうしよう、どうしよう。

そのとき、ドアがノックされた。

「××ちゃん、大丈夫?」

トレーナーさんの奥さんの声だった。取り立てて美人ってわけでもないフツーの人。トレーナーさんに奥さんがいるって知った時はショックだったけど、会って私の方が上だなって思った。その人が今、ドアの一枚向こうにいる。

「ちょっと私もあの人も心配になっちゃって。大丈夫?」

大丈夫じゃない。私、全然大丈夫じゃない。ただ、声が出ない。

「……違ったら申し訳ないんだけど、生理来ちゃった?」

息が詰まる。その通りだった。どうして気づいたんだろう、この人。だって、私ですら気付かなかったのに。

「ごめんなさい。どこか、汚してましたか」

「ううん。全然それは大丈夫。どこも汚れてないよ。ただ、まあ、私も女だから、そうかなって。着替えとか、ナプキンとかある?」

優しい言葉だった。私が何も言えなくなっているのを察して、はいかいいえで答えられるようにしてくれる。優しい、優しい人だった。次第に体のこわばりが緩まって、喉の筋肉が動き出す。

「着替えは、ジャージがあって、ナプキンは、ない、です」

「そっか。じゃあジャージ取ってくるね。ナプキンは右手にある棚の中にあるから、それ使ってね。念の為二、三個持って行って」

「あ、ありがとうございます」

言われた通り、右手を伸ばして掴める場所に、ナプキンがあった。何か3種類くらいあるけど、よく分からなくて、真ん中くらいの厚みの物を取った。ぺりぺり開くと、白くてふかふかのナプキンが出てくる。当たり前のことなのに、妙に安心した。

そうこうしている内に、またノックされた。

「ジャージ、取ってきたよ」

「ありがとう、ございます」

「つけれた?」

「はい」

「じゃあ置いておくね。あと、ウェットティッシュもよかったら使ってね。ゴミはオムツ入れに捨ててくれればいいから。着替えたら、出ておいで」

「はい」

体を拭いて、着替える。全身にまとわりついていた倦怠感と嫌悪感が少し拭われた。

どうして、こんなにやさしくしてくれるんだろう。私は内心、あなたのことを見下して、あなたからあなたの大切な人を奪いたいって思っていたのに。

着替えて、リビングに出ると赤ちゃんもトレーナーさんもいなかった。

「赤ちゃんとトレーナーさんは?」

「ドライブでねかしつけてきてってお願いしたの」

正直、ほっとした。トレーナーさんはすごく心配してくれてると思うけど、なんでそうなったかは説明しづらかったし、事情を全部察されて優しく見守られるのも気まずかったから。

トレーナーさんの奥さんは、所在なく立ち尽くす私の前に来て、おっとりと笑いかけた。

「触っても良いかな?」

「はい」

そして、優しく、私の両手を、温かい手で包み込んだ。

「大丈夫だよ、大丈夫」

その瞬間、涙腺がぶわわわってなって、もう駄目だった。ぼろぼろ涙が出た。目頭が熱い。やっと身体中に血が巡って、体が暖かくなっていく。

「う、う〜。お、おなか、ぃ、いたい、急になって、びっくりして、私、何も用意してなくて」

「うん、うん」

奥さんは、穏やかに相槌を打つ。

「せ、せっかくトレーナーさんのおうちに来たのに、め、めいわく、かけて」

「迷惑じゃないよ。大丈夫。でも、ナプキンは買っておいた方がいいかもね。あると安心できるから」

「ママも、おなじことゆってた。買う、帰りに買う、ます」

「そうだね。それがいいよ」

その温かい手で頭を撫でられた時、ママに手を繋いでもらって眠ったこと、パパに頭を撫でられたこと、トレーナーさんに頭を撫でてもらったことを思い出した。

そうだ。私、本当は、ママとパパにぎゅっとしてもらいたかったんだ。不安だったこととか、悲しかったこととか、全部大丈夫だよって、ぎゅってしてもらいたかった。トレーナーさんに頭を撫でてもらった時、この人ならって、思ったのはきっと、そういうことだった。

安心して、すとんと腑に落ちて、そのまま私はわんわん泣いた。



涙も引いて落ち着いたら、また奥さんは私の頭を撫でてくれた。

「お薬に関しては体質があるから、ちょっと私のをあげるのは出来ないかな。出来れば親御さんとか薬局で相談して自分に合ったものを見つけてね」

「はい」

泣いたら疲れたけどなんかスッキリした。多分、色々気持ちの整理がついたんだと思う。

「あの、ナプキンも、ウェットティッシュも、絶対お返しします。絶対ここにお返ししにきます」

「気にしなくて良いんだよ」

ちょっと焦った。だって、それじゃあまた奥さんに会う口実がなくなってしまう。

「じゃあじゃあ、お手伝いいっぱいします! 私、ウマ娘で重い物持つの得意なので、お買い物の時とか呼んでください」

「そんな、悪いよ」

「いいんです。是非!」

私の圧に負けてか、奥さんは「じゃあ困ったらお願いしようかな」と曖昧に笑った。

「是非! 呼んでくださいね! あ、あと。………お姉さんって、呼んでもいいですか!?」

---こうして私は、とびっきりのお姉さんを手に入れた。今度、ママとパパにSkypeするときに「素敵なお姉さんが出来たんだ」って自慢しちゃお!


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