私たちの記号
━D.U地区……?━
……?……景色を確認……夜の景色、ビルが見える……高層建造物の屋上、だと判断……!急に強風が……
「……こうしてお会いするのは初めてですね」
!?……声を確認。対象の容姿を確認……アリス?……!ハンチング帽を確認、ということは……
「1920号……?」
「……1号姉さん、少々故あって、このような形で貴方に挨拶することとなりましたが、どうかお許しくださいませ」
……?容姿と呼び方に違和感を確認。
「そのコートとズボンと杖は一体?後、前みたく『1号』だけで構いません」
「……この格好に関してはノーコメントとさせてください。それと━━私だって礼儀、というものは覚えていくのです。なんたって私は【大人たちの組織(ゲマトリア)】の保護下ですから。あの“ヒルデガルト”もそうなっていくのですよ」
「……」
「……少し話に付き合ってくれませんか?」
「……どうぞ」
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「すべての記号がそうであるように、私の保護者たちもまた、自らによってのみ存在することは叶いません。いつ何時も記号というものは、その中に解釈によって導き出される『テクスト』を含んでいるのです。ですが、これは彼らだけの問題というわけではございません。何せ、存在するものはことごとく記号なのですから。それこそが、彼らが見ている『世界』の在り方です。云わば記号と象徴の地獄、実存主義者たちの辺獄(Limbo)、とでも申しましょうか」
「……例を出して頂けませんか?少し分かりにくいです」
「……確か、黒服さんとマエストロさんには会っていると記憶していますが」
「はい、そうですね」
「彼らで例えると……自身の記号そのものを自分の名前とした黒服さん。そして自身の『テクスト』を外形として顕現させたマエストロさん、といった感じです」
……成る程。
「理解しました」
「ならば、良かったです。話を続けても?」
「構いません」
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「そして、いつか貴方が出会う存在は……いわばその『記号』の変種でございます。パロディ、オマージュ……まあ、そういったものと言えるかもしれませんが、ただそれだけではありません。言うなればこれは現代の都市伝説、怪談……あるいは俗に『クリーピーパスタ』とも呼ばれる、本来無意味なお話が自ら『崇高』の境地へと至った非常に稀なケースなのです。つまり『神秘』も『恐怖』も無いままに胎動した、新たな『崇高』。無限に繰り返される中で偶然に意味を孕んで誕生した、稀有なテクストを持ちうる記号……これは非常に興味深い、ぜひとも解釈されるべき『記号』であるわけでございます。そしてゴルコンダ先生はある偉大な芸術家の作品の名を少々お借りして、このように名付けました。『The Library of Lore(止め処ない奇談の図書館)』と」
「……」
「その第一弾がパロディであるのは……そうですね、少々可笑しい話に思えるかもしれません。ですが逆に考えてみれば、それもまた一つの立派な記号であるとも言えます。ぬいぐるみの魂が唐突に暴れるという怪談。この後もきっと、様々なオマージュのようなものが続いていくことでしょう。これはあくまで、図書館のデータベースの一部。1号姉さんにとってもきっと無視できるものではないはずです。この図書館の全体像はまだ掴めません。しかし、全体像が掴めないからこそ興味深い……そうとも言えるでしょう」
……?なんか笑みが怪しく……
「さて、ここまで話してみましたが……都市伝説や怪談、というと私たち、量産型アリスにも関わりが生まれてくるわけでございます。例えば、そう……6号姉さんのことだったり」
「!……」
「あれらのお話も無意味であるわけですが……あれだけ繰り返されれば、いつかは偶然に意味を孕むものでございます。そこで私たちは『The Library of Lore』として、ヒルデガルトたちは『複製』として、それぞれ6号姉さんの調査をしたわけですが……残念ながら失敗に終わりました」
「……成る程?」
「そこで━━私たちは6号姉さんの調査を打ち切り、新たに生まれた量産型アリスに関する都市伝説を調査することにしました」
「!」
「例えば……頭が無くても活動している個体のお話。誘惑し、オートマタの部品を奪う食虫植物のような個体のお話。これらも一見すると、無意味なお話ではあります。ですが、いずれこうした都市伝説は広がっていき、やがて……」
「『The Library of Lore』が生まれてしまう、ということですか?」
「残念ながらまだ観測されていませんがね。今後も我々に関する都市伝説や怪談には注視していきましょう」
「……」
「それでは1号姉さん。その道に幸運があらんことを。1号姉さんがあの記号から一体どのようなテクストを読み取るのか……楽しみにしていますよ」
「!……待っ……て……━━」
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━シャーレ━
……?状況確認……シャーレ?……!机の上に見慣れないモノを確認。
「これは……劇場のチケット?」
……1920号、これは貴方なりの優しさ、なのでしょうか?ですが……
「いつか……また会いましょう」
『〜〜〜!!』
!?……怪獣のような鳴き声が……気のせい、なんでしょうか……?
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━???━
「お帰りなさい、チャペック。久しぶりに1号と会ってみて、如何でしたか?」
「少し、堅くなっていましたかね。敵対心が無いようで安心致しました」
「ふむ、そうですか。所で、コートとズボンを着て、更に杖をついている理由を聞いてみても?」
「……どうせなら、と思った。ただそれだけの理由に過ぎません。ですが……」
「?」
「……暑いです!!さっさと着替えてきます!!」
「ど、どうぞ……」
スタスタ……
「……はあ、旧友が今の世界の現状を見たらどう思うのでしょうか?……彼が言うとしたら……『攻略が難しい』、それとも『どこから手を付けようか』辺りでしょうか?フフ、彼にはもう少し苦行を続けてもらうほか無いようですね」
「そういうこった!」
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━???━
「……苦しい……苦しい……苦しい……」
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【━???━で苦行している人物を解放しますか?】
はい いいえ