私が愛したビッチ

私が愛したビッチ


デパートに単身突入したクァンシは、流麗な足技でデンジとその護衛を次々と昏倒させていく。唯一、民間ハンターの吉田ヒロフミだけは彼女に反応する事ができた。

「蛸」

ヒロフミと契約している蛸の悪魔が、墨を吐いてクァンシの視界を遮る。

背後に回ったヒロフミにカウンターを見舞い、彼から奪い取ったナイフでその命を刈り取ろうとしたクァンシを止めたのは、元バディである岸辺と、その腕に拘束された2人の愛人の姿であった。

戦いを中断させた岸辺はクァンシに、マキマ殺しに協力するか、安全に逃亡するかの2択を迫った。会話はマキマに聞かれている為、関係ない話で場を繋ぎながら筆談で交渉したのだが、クァンシが聞く耳を持たなかった為、決裂。

アメリカからやってきた刺客兄弟の生き残りの登場を切っ掛けに乱戦が始まる。狙われているデンジは応援にやってきたサメの魔人ビームと共にその場を離れる。

逃げる途中、釘を踏んだデンジは呪いの悪魔によって命を奪われた。ビームが事態に狼狽していると、死体に紛れていたトーリカが姿を現し、顔面を蹴り上げてサメの魔人を気絶させる。

「トーリカは私の課した仕事を果たしました。あなたはもう立派なデビルハンターです」

拍手と共に現れた師匠は、今まで自分についてきたトーリカの従順な態度を称えた。

「これで私達は家族です」

言葉を聞いた瞬間、トーリカの脳裏を師匠と過ごした日々が過ぎった。

師匠は静かにトーリカへ歩み寄ると精巧な人形を作るコツを話し始めた。

「人形にする人間に、人間しか持たない感情を入れる事。敬愛。崇拝。哀憐。

そして隠し味は罪悪感」

師匠はトーリカを人形として完成させると、デパートの外に出た。彼女は老翁の人形と3人の子供を代償に地獄の悪魔を召喚。デパートにいる全ての生物を地獄に落とした。

「ミランダ」

「…?あぁ、そうでしたね。時間通りですね」

近づいてくる蹄の音に師匠が顔を向けると、馬に乗った東洋人の男がこちらに向かってきていた。ミランダと名乗って逢引していた、民間のデビルハンターである。乗っているのは、彼が契約している馬の悪魔だ。


椅子にしていた人形の背中から立ち上がった師匠の顔のそばに、漆黒の物体が差し出される。この世にありながら墨を塗りたくったような、強烈なエネルギーを秘めた黒。

「彼に与えてください。セイシロウさん…」

師匠に呼びかけられた馬上の男に、無明の暗黒が差し出される。

「これは?」

「闇の悪魔の肉片…貴方に更なる力を与えてくれます」

頰を上気させながら、師匠は目線で飲むようにセイシロウへ訴える。

「なぁ、半分ずつじゃ駄目かい?」

「半分ですか…構いませんか?」

何かが2人の前に、少し小さな肉片を差し出す。師匠はわくわくした様子で闇の悪魔の肉片を飲み込む。

セイシロウが恐る恐る口を開けると、何かが暗黒を彼の舌の上に乗せた。セイシロウが思い切って飲み込むと、変化が始まった。

「ふ…ふふふ…そういう事なのですね。これが闇の力……」

師匠をデパートの外にいた人形達が取り囲む。密集して山のようになった人形の塊の中から、まもなく師匠が姿を現した。

その姿は概ね裸形の女性だが、球体関節で肩と繋がった四対の腕には肘関節が2つある。丸みを帯びた豊満な臀部と太腿、すらりとした脚は製作者が魂を込めたような出来栄えだ。

「逞しくなりましたね。セイシロウさん」

異形と化した師匠が視線を向けると、下半身を黒い毛を持つ馬に変化させたセイシロウがそこにいた。

師匠がケンタウロスとなったセイシロウの背中に跨り、2人はデパートの屋上を目指して駆けていく。

「はじめまして、マキマ」

「こんにちは、サンタクロース」

屋上には地獄から戻ってきたマキマと、彼女の腕に抱えられたデンジがいた。

「敵は闇の肉片を取り込んだ。闇の中での攻撃は一切通じないよ」

「図らずもお互いの男自慢になりましたね」

「…デンジ君、助けてくれる?」

マキマがデンジの胸のロープを引いたのが、戦闘開始の合図となった。



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