祭囃子
カワキのスレ主「今夜のビーチで行われる花火大会だけど……カワキ、オマエ……マジで警備やるつもり? いえ、祭りの治安維持という観点では、警備を担当する者は必要だとは思いますけど……ただでさえ当日は休みを申請する者が多くて人手不足ですし? 祭りの空気というのは取り締まりが弛みがちですから。ですが……」
「……私が警備を申し出たことで、マグダレーナ様に何か不都合でも?」
「不都合と言うか……お前は花火大会を観客側で楽しまなくて良いのかよってハナシ。まあ、お前は花火を楽しむ感性は持ち合わせていないでしょうけど、その……誰かに誘われたりしなかった?」
「……? 今朝、廊下でバンビエッタたちに声をかけられましたが、断りました」
「…………それだけ? 他には?」
「はい、以上です」
「……本当に? たとえば、そう……黒髪の男とか口元に傷がある男とか鉤爪を武器にしてる男とかに声かけられなかったワケ?」
「……? はい。」
「マジかよ、アイツ……(小声)。普段は鬱陶しがられるくらい絡みに行くクセに、肝心のイベントでは奥手かよ……。兄様もそうだったけど、そういうところが……ああ、もう……!」
「マグダレーナ様? ……今夜の警備の件、ご了承をいただけますか?」
「……んんっ、ごほん。まあ、良いでしょう。ビーチの警備は普段からお前が行なっていることですし、今夜の花火大会の警備は臨時の仕事として任せます。上手くやりなさい」
「はい」
「くれぐれも! くれぐれも、妙な真似はしないように。わかりましたね?」
「…………」
「返事は?」
「……心得ています」
「よろしい。下がりなさい」
◇◇◇
「こんにちは、カワキさん!」
「マシュ・キリエライト、カルデアのマスターも。こんにちは。花火の打ち上げ時刻までは、まだ時間があるけれど……君たちも縁日を楽しみに来たのかな」
「はい。ですが……私たち“も”、ですか? もしや、他にも……」
「ああ。ついさっき、バンビエッタたちがここを通ったよ。リルトットが「屋台の食べ物を食い尽くす」と息巻いて出店巡りに向かっていた。他にも何人か、見知った顔を見かけたよ」
『花火大会は外せないイベントだから』
『みんな祭りが好きなんだね』
「そうらしいね。……君たちも、今から出店巡りに?」
「はい! 私と先輩は先に花火大会の場所取りをしてから、出店巡りに出かけようと思っています。フォトスポット探しも兼ねて、色々と見て回る予定です」
『もしよかったら、一緒に行かない?』
『目指せ! 屋台制覇!』
「せっかくのお誘いだけれど……私は今夜の警備を引き受けている」
「警備のお仕事ですか……」
「ああ。みんな、花火大会のために休みを取っているらしくてね。人手不足なんだ。マグダレーナ様も頭を悩ませていたよ」
『そうなんだ……』
『マシュが良ければ、なんだけど……』
「はい。警備のお手伝い、ですね? もちろんです」
「君たちも警備に加わるの?」
『出店巡りで色んなところを回る予定だから』
『ついでに異常がないか見て回るよ』
「さっそくマグダレーナさんにお伝えしましょう」
◇◇◇
「無事、臨時バイトとして採用していただけました」
『これで一緒に回れるね』
『花火大会、成功させよう』
「ああ。……ところで、今日は陛下はいらっしゃらないのかな。いつも一緒に撮影会をしているんだろう?」
「ユーハバッハ陛下とエドガーさんは一足先に縁日に向かわれましたので、縁日を楽しんでいれば、途中でお会いできるかもしれません」
「そうか、わかった」
『前から気になってたんだけど……』
『「陛下」ってやっぱり王様なの?』
「……? 知らずに呼んでいたの?」
『本人が「陛下と呼べ」って言ったから』
『カルデアでもそういう人はよくいるよ』
「王様系や皇帝系サーヴァントのみなさんですね。たしかに、そういった方々はカルデアでも多くいらっしゃいます」
「…………。カルデアのマスター、君の問いにそのまま答えるなら「そうだ」ということになる。けれど……今の光の帝国(リヒト・ライヒ)を統べる者は陛下か、という意味なら「そうでない」と答えることになるね。この特異点にいる者の中には、陛下がいらっしゃっていることさえ知らない者もいる」
『バンビーズのみんなは君を「殿下」って呼んでた』
『君が“そう”だったり?』
「まさか。私は監視者(ライフセーバー)だ、統治者じゃない。それに……王位も、領土も、私の欲するものではないよ。陛下の後継者の地位は、私の友人のものだ。生前、陛下ご自身が指名された。だから、誰が何と私を呼ぼうとも、ソレは私のものではないんだよ」
『そうなんだ』
「そうだよ。……この話は、これで終わり。出店を制覇するんだろう? 花火大会は一大イベントだ、屋台は海岸沿いにたくさん出ている。早く行かないと回りきれないよ」
「はっ……! そうですね! 見回りもありますし、行きましょうか」