神聖尸魂領域クインシー・デァ・トード

神聖尸魂領域クインシー・デァ・トード

霊王の影がラスボスならhollowの最終決戦みたいになったらアツい──違いますか?


それいじょうむかしはないほどの、

それはむかしのお話です。

ごにんの貴族がいたころ、

せかいには生も死もありませんでした。


”かわいそうなたましいを”

”せかいのながれにもどしてあげよう”

ひとりのおひとよしが にんげんをまもりはじめました。

くろい刀、あおい弓。

その目には、星のような四つのひかり。


ごにんは、神さまとともだちになりました。

生と死のわかれていないせかいは進化がなくて、すみづらくて、たいへんなものでしたが

神さま が 虚をたおしてくれるので、

みんなあんしんです。

”死のない世界もいいけれど”

”ぼくたちやっぱり 未来がほしい!”

ごにんは 神さま に よろこびをささげました。

ごにんは 神さま に おねがいをささげました。

ごにんは 神さま を ささげました。


ねがい は かなえられました。

せかいは 三つにわかれました。


うでをきられて 水晶のなか に とじこめられたので

神さまは しゃべれなくなりました。 


ごにんは 神さま の からだをてにいれました。

あたらしい せかいのくさびに するのです。

ごにんは 神さま を たいせつに まつりました。

たったひとりの 王さま なので。

ばらばら に。ばらばら に。

しなないように ばらばらに。

ないぞうをえぐっても ぜったいに しなないように

おしろのおくで たいせつにまもります。

こうして三界はできたのです。

こうしてあやまちははじまったのです。

はじまりのごにん に すくいあれ。

はじまりのごにん に のろいあれ。



「──理解したか?これが霊王の成り立ちだ。お前達が必死で守ろうとしている世界は、この悍ましい罪から生まれたのだよ」

 最奥から溢れ出した『力の奔流』により、破壊し尽くされた霊王宮にて。

 五大貴族の一人・綱彌代家の当主である男が、死神の血塗られた過去を語っていた。対峙する黒衣の青年──黒崎一護は、二振りの刀を手に沈黙している。

「かつて英雄を人柱にした報いを受けて、百万年の歴史は呆気なく滅びる。…ハハハハ、何ともまぁ愚かで馬鹿らしい結末じゃないか!!調停者気取りの死神も!父を救うと嘯く滅却師も!無知な現世の人間も!等しく罰されるべき原罪の持ち主だと言いたい訳だ我らが王は!」

 心底から嘲りのこもった声で時灘は嗤う。視線の先では、どす黒い影のようなものが瀞霊廷を覆い尽くそうとしていた。

 生贄にされた霊王の負の感情……生前の本人の意思だけではなく、長い時の中で数多くの魂魄達の怒りと憎しみによって増幅された怨念の塊と呼べる存在。じきに尸魂界全域を吞み込んだ後は、現世にも溢れ出して三界全てを呪いの泥に沈めることだろう。

「あぁそうだ、お前にはこれも言っておかなくてはな。黒崎一護──死神・虚・完現術者・滅却師、全ての力を持った人間。己が生まれの全ては仕組まれたものだと知りながら、尸魂界のために戦い続けた英雄様。実にご立派なことだ!」

 だが、と時灘は口の端を歪めて告げる。

「知っていたか?こともあろうに死神共は。霊王に万一の事態があれば、大恩人たるお前を二人目の霊王に仕立て上げるつもりだったと」

「………」

「本当に哀れだな、むしろこのまま世界の滅びを受け入れた方が幸せではないのか?さぁ、理解したなら道を開けろ。いつの間にやら総隊長などになったいけ好かない京楽の無様な死に顔を特等席から眺めたいのでね」

「──うるせぇよ。道を開けるのはそっちの方だ」

「……何?」

 裏切りに絶望し戦意を失うはずの青年は、未だ目に確かな光を宿して刀を構えていた。

「……あんたの言ったことが真実なら、霊王ってやつは死神を恨んで当然かもな。だとしても…遠い先祖の罪を何も知らない子孫が背負うべきなんて、そんな理屈が正しいとは思えねぇ。だから俺は、テメェを倒して皆を守るんだよ」

「ハ、倒す、だと?笑わせるな、私を殺したところで霊王の影は止まらない。アレは世の理そのもの、世界の淀みと歪みが形になったようなものだ!お前と死神共がどれだけあがこうが無駄だと分からないのか!」

「あぁ。俺と死神だけじゃないからな、下で戦ってるのは」

 一護には、瀞霊廷を襲う影の侵攻を食い止めている者達の霊圧が確かに届いていた。

 死神と決して相容れぬはずの破面の王と同胞が、『義理を返す』と刃を振るっていることも。

 誰より死神を憎んでいたはずの完現術者、もう一人の死神代行が、仲間と共に流魂街の住人を守るべく奔走していることも。

 かげかえのない三人の友人と、戦友である死神達が、一護が必ず駆け付けると信じて戦っていることも。

 そして何より、一護はあの喫茶店を知っている。今を生きる普通の高校生と、千年を生きる滅却師が、同じコーヒーを飲んでくだらない話をすることができた場所を知っている。…たとえその裏に、どれほど重く苦しい過去が隠されていたとしても。

「罪は消えない。怒りと憎しみも無くならないのかもしれない。──それでも、殺し合いの連鎖を断ち切ることはできる」

「…それが何だというのだ!私の話を聞いていなかったのか、三界の滅びを回避できたとして、次に楔として犠牲になるのはお前なのだぞ黒崎一護!!」

「そりゃ、あいつらと二度と会えなくなるのは辛いけど──俺はただ、自分の気持ちを裏切りたくないだけなんだよ。大事な人達を守ってみせる。俺の全部を出し切る理由は、その一つで十分だ」

 それこそが、過酷な運命を背負った黒崎一護の人生における指標。雨の夜でも決して消えない輝きを放つもの。

 ──『貴方はまだ、星を見た事がないだけよ』

「……くだらなさすぎて吐き気がする。馬鹿もここまでくると怒りすら湧かん」

 地を這うような響きで呟き、時灘は刃の無い斬魄刀を構える。

「これは慈悲だ。生きながら水晶に封じられる前に殺してやろう」

「いくぜ斬月。あと少しだけ、俺と一緒に戦ってくれ…!」

 五つの種族を巻き込む長い長い因縁は、小さな店での思わぬ出会いをきっかけに。世界が予想していなかった方向へと進むのだった。


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