神木ヒカルという人間3話
園長先生達、施設の職員の方々の厚意で小さな劇団ではあるが、新しく、劇団員を募集していた「ララライ」という劇団の門を叩き、簡単な面接の後所属出来た。
出来たばかり、まだ小さく人数も少ないとは言っても園長先生曰く職員の伝手があり信頼できる人物がいるということでそこに決まった。
そして今日は学校帰りに直接行って自己紹介をする、ということになっている。
学校の最寄駅に劇団の先輩になる方が迎えに来てくれるとのことだ。
(夢の一歩、か…空虚に生きていた僕に見つかるなんて…よし、頑張ろう)
放課後になるまでが長く長く感じた。
ーーー放課後
「神木くんだよな?よろしく、面接以来だな。俺は金田一。君を迎えに来たアラライのメンバーで、園長先生とは知り合いになる」
「初めまして、神木ヒカルです。今日はよろしくお願いします」
「丁寧で良い挨拶だ、まだ小学生に言うことじゃないが役者の世界は礼儀が大事だからな。今の挨拶を全員にしてやってくれ」
「はい。金田一さん、僕みたいな子どもは何人ほどいるのでしょうか?」
「中学生が1人、小学生は君1人だ。凄いだろ?我が劇団子役のエースにいきなり大抜擢だ…まあ、いつかは劇団ひまわりみたいに実力もあって幅広い年齢層もいる大きな劇団にしていきたいとは考えているよ…おっと、次の電車に乗らないと遅れるな。乗ろうか」
「はい」
「…硬いけど緊張しているのか?気楽にしてくれ。俺がマンツーマンで君の演技を指導していくことになるからな、砕けた関係で行こうぜ?」
金田一さんは気さくで接しやすそうな方だ。
ご要望の人物像…こんなかんじかな。
「それがお求めでしたら…
金田一さん、さっさと乗りましょう。いきなり先輩方の前で頭を下げるのは嫌です」
「クソ生意気になれとは言ってねーよ
君の本性それか?」
「…失礼しました。人生経験薄くてお求めの感じがわかりませんでした」
違ったようだ。心象悪くさせたか?
「…待て。お求め、て言ったか?人に合わせてキャラクター作り変えれるのか?」
「はい。僕の処世術でしたから。」
「ははは…こりゃ凄い。歪だと他の人間は言うだろうが、欠けた自分を何かで補って出力する…間違いなく君の…神木ヒカルの才能だ!
おまえの全てを見たくなった!ヒカル、おまえを凄い役者にして見せるぞ俺は!!」
金田一さんは嬉しそうに笑いながら僕の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。歪な僕の人間性を誉めてくれた人は初めてだ。施設の方達は痛ましいものを見る目で僕を見ていた。ありのままでも肯定してくれる人もいるということか。
まあ、髪が乱れるのは別に構わないが…
「金田一さん」
「なんだヒカル?早速演技の提案か?」
「はい、お静かにされた方が良いかと…目立ってます」
夕方の電車は普通に人が多い。マナーはきちんと守りましょう。
「………ごめんなさい」
大の男が小さくなる様子を見て僕は少し自分の口角が上がった気がした。
その後僕はアラライの稽古場で自己紹介をし、1日目は稽古場での決まり事、先輩方とお話をさせていただき、発生練習をして終わった。