確率論のヒューマンエラー

確率論のヒューマンエラー


・ご都合主義、何でも許せる人向け

・ギャンブルは完全に捏造

・時間軸は謎。多分プロ軸

 

 

 

TV企画で世界各地の元ブルーロックのメンバーが収集されて海外に遠征することになった。といっても、現地で集合といった感じだが。そのうちの一部メンバーが依頼された企画によりカジノに行くこととなり、厳正な審査によるまあ賭け事に嵌ることはないだろうと見做されたメンバーの中からクジ引きの結果、潔世一、士道龍聖、時光青志、蟻生十兵衛、馬狼照英、雪宮剣優、千切豹馬、雷市陣吾、剣城斬鉄、五十嵐栗夢、清羅刃の11名が選出された。

「漁村の近くにカジノがあるんだ。歓楽街じゃないのは珍しいね」

「観光地としての開発が注目されているからじゃないかなあ?」

雪宮と時光が指定された場所までの地図を見ながらカジノについて語っている。カジノは歓楽街から離れたところにあった。

「この近くの漁村の人達、開発に反対してなかったっけ?変な噂もあったし、大丈夫か心配になるぜ」

「迷い込んだ潔を態々送り届けてくれたんだし、悪い人たちではなくね?」

「うむ。豪快で軽快なオシャな方々だったぞ」

「反省してるってば…」

イガグリと千切、オシャに迷子になった当の潔世一が小さくなりながら反論する。異国で迷子はシャレにならないことなので、方々からたっぷり叱られたのだ。

「ルールはよくわからないが、楽しめばいいんだな」

「誰だよコイツを選出した奴はよお…」

「目を放すんじゃねえぞ」

斬鉄のお目付け役は馬狼と雷市がメインだ。二子や玲王に頼み込まれたというのもあり、何だかんだで真面目な2人は断れなかったのだ。他のメンバーは(主に士道だが)もう面倒ごとを起こさないと約束させたうえで放置という方向だ。

カジノの入り口で転げかけてディーラー助けられた潔世一を1人にしてよいのかという論争が巻き起こりかけたが、まあ行けるだろという楽観視の下に1人での行動が許された。

カジノでは企画なので10枚のチップが予め渡され、好きなゲームで遊んで良いことになっている。各々気が向いたところに向かう中、潔世一はうろついていた。音が出るゲームは耳にきつく、かといって複数人が必要なゲームは相手がいない。困っていると、声が掛けられた。

「君、カジノは初めてかい?相手がいないんだ、共にポーカーをやらないかい?」

男はある意味で悪名高い勝負師だった。しかし、潔世一は当然、それを知らないので助かったとばかりに誘いに乗った。

「初心者でルールもおぼつきませんが、それで良ければ」

「ははは、初めて何てそんなものさ。互いにチップを10枚ずつで始めようじゃないが」

男に誘われて、潔世一はテーブルにつく。ルールブックを渡してきた若いディーラーは先ほど転げかけた潔世一を支えてくれた青年だった。男は横柄にそのディーラーにカードを配るように指示を出す。

種類はドローポーカー。最も認知され歴史があり、己の手札は全て相手に見せない状態で行う。初めに配られた5枚のカードの役が弱くても、2回だけ交換が可能である。1回につき複数枚でも交換できる。

今回は誘われたという事と、潔世一は初心者なのでアンティ、すなわちゲームの参加料はなし。2人なのでディーラーボタンは置かず、賭ける額の最低値を決められるよう潔世一が先攻となった。そのため、カード配布前に行われるブラインド(強制ベッド)もなし。

ここで、ディーラーより5枚のカードが配られる。

次に行うのはベッティングラウンド。掛け金(ベッド)を決める行為だ。すべてのプレイヤーが同額ベッドするまでアクションは続く。2人しかないなのでゲームから降りるフォールドとベッドせずにゲームに参加するチェックはなし。先にベッドしたプレイヤーと同じ金額を賭けるコールと、先にベッドしたプレイヤーよりも多くの金額を賭けるレイズで行う。その後、ドローでカードを交換する。今回は慣れないからとカードの交換は1回だけと決まった。

本当はカードを交換した後に2回目のベッティングラウンドを行うのだが、これも今回は特別に省略した。カードを交換した時点で、ショーダウン、カードをオープンして役により勝敗を決める。そして、終わりを分かりやすくするための特別ルールとして出したカードは回収し、山に戻さないことになった。賭けられるのは最高5回というわけだ。

「手持ちの5枚のカードの組合せである役で勝てば、場に出ているチップの全てを己のモノにすることが可能です。何かご質問はございますか」

「いえ、何となくわかりました。ありがとうございます」

「それではやってみようじゃないか。ああ、そうだな。ハンデとして、何のカードとしても扱えるジョーカーを1枚入れよう。私にジョーカーが来たら山に返して新しい一枚と交換する。君にジョーカーが来たらそのまま使うと良い。これで役が揃いやすくなったはずだ」

「ありがとうございます」

ディーラーによって場にカードが配られる。男はそわそわしておのぼりさん丸出しの潔世一の緊張を解きたいのか、適当な話題を振ってくる。

 

 

1度目のベッティングラウンド

 潔世一:2枚ベッド

 男:コールにより2枚ベッド

「ここの海は美しいと思わないかい?」

潔世一:2枚ドロー

 男:2枚ドロー

「ええ、とても澄んでいて美しいです」

ショーダウン

 潔世一:3・3・6・8・Jのワンペア

 男:2・2・8・8・10のツーペア

勝者:男

残りのチップ

 潔世一:8枚

 男:12枚

 


2度目のベッティングラウンド

 潔世一:1枚ベッド

 男:レイズにより2枚ベッド

 潔世一、コールにより2枚ベッド

 男:コールにより変更無し

「だろう?ここをリゾート地にできれば観光で儲けられる」

潔世一:3枚ドロー

 男:1枚ドロー

「でも、地元民は反対しませんか?」

ショーダウン。

 潔世一:9・9・2・2・3のツーペア

 男:8・7・7・7・10のスリーカード

勝者:男

残りのチップ

 潔世一:6枚

 男:14枚

 

 

3度目のベッティングラウンド

 潔世一:2枚ベッド。

 男:コールにより2枚ベッド

「ふん。あんな貧乏人共、ちょっとゴロツキに金を渡して邪魔させればすぐに音を上げるさ」

潔世一:2枚ドロー

 男:2枚ドロー

「そうですか。リゾート地の開発や観光で売りの美しい景色がダメになったりしませんか?ゴミ問題とかよく耳にするのですが」

ショーダウン

 潔世一:4・4・1・1・3のツーペア

 男:6・6・1・1・5のツーペア

 ツーペア同士だが、4よりも6の方が強い。

勝者:男

残りのチップ

 潔世一:4枚

 男:16枚

 

 

4度目のベッティングラウンド

 潔世一:2枚ベッド

 男:レイズにより3枚ベッド

 潔世一:コールにより3枚ベッド

 男:コールにより変更無し

「それは此処の連中がやればいい。金が落ちるんだ、それくらいやってしかるべきだろう」

 潔世一:1枚ドロー

 男:3枚ドロー

「開発で潮の流れが変わるとか聞いたことがあるのですが、魚に被害はないのですか?」

ショーダウン

 潔世一:5・5・11・9・7のワンペア

 男:10・10・11・4・4のツーペア

勝者:男

残りのチップ

 潔世一:1枚

 男:19枚

 

 

「俺は詳しくないが、魚が取れなくなっても問題ないからな。リゾート地として使えなくなったら売りつけて捨てるだけだ」

10枚あった潔世一の手持ちのチップも残り1枚だ。潔世一は考えることなくその1枚をベッドする。

「そうなんですね。…最後ぐらいは、勝利の女神に微笑まれると嬉しいのですが」

「ははは。なら、サービスだ」

男は自分の持っていたチップを半分を超える10枚をベッドした。それを見て潔世一は困ったような顔をした。

「賭けるチップが足りません」

「なら、俺のチップをやるよ」

「千切」

いつの間にか。、千切が潔世一の隣に立っていた。ほどほどに勝利を抑えてきたのだろう、その手には40枚ほどのチップがあった。確かに、千切に借りれば勝負は可能だろう。

「ンの代わり、負けたらお前は俺の言う事聞けよ?」

「お嬢???日本で奴隷は禁止だぞ?」

「んなことしねえよ。まあ、楽しみにしてろ」

「怖いんだけど、もう」

「ははは、美しい友情じゃないか」

ディーラーがカードを配る。男は勝利を確信しているのか、余裕綽々でテーブルを眺めている。

「ショーダウン」

男が出したのは、各スートの王が4人いるフォーカード。この男が勝負を終えるときのカードだった。残りのカードでは潔世一の勝ち目はない。対して、潔世一のカードは。

「な…」

「女神が微笑んでくれたみたいです」

ハート、ダイヤ、クローバー、スペードの女王と、それらを従える道化。ジョーカーが笑うときだけ生まれ得る、確率0.00045%のファイブ・オブ・ア・カインド。

潔世一の勝利だ。場に賭けられた20枚が潔世一の手元に動く。一気に男と潔世一のチップの枚数が逆転する。男はディーラーを見るも、何も言えなかった。ここで怒鳴れば自分が今までイカサマを行っていたと暴露するようなもの。男がイカサマで破滅させてきた、男に恨みを持つ人間も多い。イカサマが暴かれれば協力していたこのディーラーも破滅する。だからこそ、このディーラーは男を裏切れないはずだった。

「お前、イカサマしただろう!!」

「してませんよ。どうやってやるんですか」

「うるさい!!お前がイカサマをしなければこんな手札が来るはずがないだろう!!!」

「はあ。では、もう一度引きますか?カードを戻してジョーカーを抜いて、今度は別の人にやってもらいましょう」

男が鼻を鳴らして潔世一の提案に乗る。呼ばれてきたディーラーこのカジノきっての公平な勝負師で、男の息が掛かっていない人間だったが、男は自分が勝利すると疑っていなかった。だから一度で負けた分を取り戻す以上に、イカサマを行った見做した、イカサマによって得てきた男の人生を揺るがせた潔世一に屈辱を味合わせようと、残り半分のチップの他に、新しく金を出してチップを乗せ、今までで一番大きな金を賭けた。

潔世一は手持ちのチップだけでは足りなかったが、無理やり勝負させられる事への特別ルールとして手持ちのチップ全て賭け、足りない分は店が出すことで話がついた。

年嵩のディーラーも真剣勝負を心得ているのか、2人に声を掛けることなくただただカードを切って配る。

「ショーダウン」


潔世一:10・11・12・13・1

  (全スート:スペード)

男:1・4・13・8・9


「俺の勝ちですね」

「…」

明示されるはロイヤルストレートフラッシュ。対して、男はブタ、もといノーペアだった。男は声も出なかった。何一つ不正なく、完璧な潔世一の勝利だ。勝負を見守っていた周囲の観客から拍手が響く。

オーバーキルの死体蹴りに士道はヒュウと口笛を吹く。

これ以上喚けばカジノを叩き出されるだけでは済まない。最後の足掻きで逆に身ぐるみ剥がされた男はカジノの外に控えていた警察に連れていかれた。此処で抵抗を見せれば今まで金に飽かせて見逃されていた男の犯罪の被害者たちに物理的に首と胴が離されるだろう。否、ただ死ねればまだ温情かもしれない。

「ディーラー、チップを。それと、オーナーか金に詳しい人はいますか?」

「ありがとうございます。呼んでまいります」

「…ありがとうございます」

男がイカサマによって得た人生の全てを賭けたことで手に入れた、1枚で1000万はくだらないチップを潔世一は2人のディーラーに惜しげもなく渡した。潔世一が何をしたいのか分からないが、勝負を見ていたのだろう、ここのオーナーが呼ばれてやってきた。

「お客様、どうかなされましたか?」

「すみません、このカジノの金の譲渡にかかる税金とかどうなってます?」

「ここのカジノでは税金はかかりません」

「あらら。うーん。じゃあ、確か金は未だ振り込まれていませんよね?」

「はい」

「その金、あの男の被害者や被害の補填にあててもらえませんか?その代わり、今日の店の損失と俺の賭け金はチャラでどうでしょう?余れば、この国の環境保全と地域振興の資金として寄付をお願いします」

「承りました」

2人とも何事もないようににこやかに会話が終わり、そして何事もないように分かれ、潔世一は他のメンバーの見学に、オーナーは仕事に向かった。

 

 

帰りのバスの中で、潔世一は求められるがままにイガグリや千切に何があったのか、何でああなったのかを説明した。

「あの若いディーラー、元は漁師なんだと思う」

「漁師?」

「そ。色は白かったけれど、指に独特のタコがあった。手袋越しだったけどな。先日海で出会った漁師さん達と一緒」

それが分かるの、この中では少なくともお前ぐらいだろという視線が突き刺さるも、潔世一は視線には気づいていないようでスルーした。

「でも、あのディーラーが開発賛成派の可能性もあっただろ」

「ノリがきいてパリッと整った服に、人工的なコロン。そして、微かに香る朝の潮の匂い。あのディーラーは海を今でも愛している」

「…そりゃあ、海岸をリゾート地にして環境を破壊するだけ破壊して金が産めなくなったらポイするって言ったら怒るよね」

「金を目的にあの男に従っていたのはそうだけど、あの男は何故ディーラーが金を求めるかまでは知らなかったんだろうね」

まあ、あの傲慢で他者を忖度する気が全くないだろう男ならばそうだろうなと何人かは思い出しつつ納得した。そこに、潔世一が言葉を続ける。

「あのカジノのオーナーさん、昔、ここに来た時に漁師さん達に助けられたんだってさ。だから、あの若いディーラーさんが金に困っているときに雇った。店には被害が無かったとはいえ、庇護している恩人の子供があの男に巻き込まれたこと、気に入らなかった可能性もあるよね。器用じゃないけど素直で一生懸命で裏がないから、先輩ディーラーさん達も可愛がってたみたいだし」

(悪魔かコイツは)

誰の内心かわからないが、潔世一を除いた視線で交わされる言葉は大体一致しているだろう。知ってか知らずか、無視してか、無邪気に潔世一は理由を口にする。

「漁師さん達に助けてもらった分は還元したいじゃん」

恩を忘れない人間だとも言えるし、穿ってみれば、漁師の件がなかったら諸共に破滅させていたともいえる。あの男の被害は潔世一が保証すると宣言したが、それが無ければあの若いディーラーはどうなっていたのかわからない。金が全てとは言わないが、おおよその海外では日本以上に金の価値が重い。

「流石潔君。優しいね」

感心したように、恍惚としたように雪宮は言葉を口にする。あの男の末路を想像したのか、イガグリは南無南無と手を合わせた。

「これもまた戦略。実にオシャ」

「ひい~。潔君、怖~。ねえねえ、雷市君達はどう思った?」

普通に感心するオシャとは対照的に時光は引いた。時光の問いに近くにいた雷市と清羅が反応を返した。2人はあまり深く考えずに自分の感想を口にした。

「あ?そもそもが出来レースだったんだからそれが壊れようがアイツが壊そうが興味ねえよ。あの男が勝負を仕掛けて、潔はそれに乗った。で、勝った。そんだけだろ」

「正々堂々と盤外戦術で勝利しただけだ。己の舞台に乗っけて踊り負けた方が悪い」

ドイツ棟怖いと時光はさらに引いた。ドイツ棟で内ゲバが激しいことは知っていたが、ここまで実力結果至上主義だと逆に清々しさまで感じる。

「でも、惜しかったな」

「何が?」

「お前のここをオレだけのモノにするチャンスだと思ったんだがな」

「俺が負けることを望まないで?!」

チュッと千切が潔世一の手を取り、薬指の付け根にキスを贈る。潔世一はちょっとげんなりしたようにツッコミを入れた。

「ま、お前を釘付けにするのは俺の脚でやってやるよ。サッカーでもベッドでもな」

「お嬢?ベッドって何?」

「え~2人ってそんな関係なんだ?俺も混ぜて~」

「違うからな?!士道、放せ!」

「服にしわがつくだろうが!暴れんな下手くそ!」

「俺悪くなくない?!」

わいわいがやがやとバスの中は騒がしい。それを見ていた斬鉄が、自分なりに何があったのかを理解したのか結論を口にした。

「お酒は人の為ならずというやつだな」

「お酒、じゃなくて情け、な」

「そうだったか」

雷市のツッコミに、斬鉄が頷く。本質はついているのに、何処か残念だと二子や玲王が頭を抱えるのも分かる。

その日の夕方、騒がしいブルーロックメンバーが集まる食堂で、リゾート地の開発はとん挫し国は伝統産業や地域振興に力を入れていくようだとニュースで流れたのを、誰も聞いていなかった。

 

 


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