砂漠の夜の夢

砂漠の夜の夢



 身体に塗っておいた薬を舐めさせたことがある。

 随分悪趣味なことをしたと我ながら思っている。今度やったらお前にも飲んでもらうと言われた。あれは「毒」だの、「飲んだら下僕になる」だのと説明したのが原因だったか。それなのにまたこんなものを用意して、おれはあの男に嫌われたいのだろうか。これで嫌いになるならそれまでだと、どこまでも試してやるつもりでいるんだろうか。

 香炉からは眠りを誘うような甘い香りがあふれている。いつものように城に入り、オレの部屋を目指すなら、ここは必ず通る通路だ。ひらけた空間と違い、両側に壁が迫る細く長い通路。壁には明り取りの窓が等間隔で並んでいる。その窓辺に香炉を置いた。通路はたちまち香りで満ちていく。焚いているのは媚薬だ。

 悩ましい香りにあてられながら、寝室へ戻る。同じように薬を浴びていることは免罪符にならないだろうか。ならないだろうな。おれは望んで薬にあたっている。こうすることで自分を見つめすぎないようにしている。こんな気持ちは嘘だということにして、それに溺れたふりをすることで、どうにか自分を保っている。


 荒々しく扉を開ける音がする。

 遅かったな、どうした、ご機嫌ナナメだな。燃え盛る身体とは逆に、口先からは白々しい言葉が出てくる。目を見ることもできない。おれのほうこそ、相手を怒らせることしかできないのは、どうしてなんだ? 獣がつかみかかってくる。無理やり合わせられた目にはひどく悲しい色が浮かんでいた。

「こんなことをしなくても……」そこから先は言葉にならなかった。


 お前を信じていないわけじゃない。だが、人の心は当てにならない。おれが薬を使ってしまうのは、何より誰より、自分のことを信じていないからだ。お前を信じようとする自分を信じることができない。本当は分かっている、こんな風に迷うのは、お前を失うことを恐れているからに他ならない。

 瞳を隠す髪をかきあげて、悲しみをたたえた目元にくちづける。初めて会った時から、お前の強さに惹かれている。おれの毒に惑わされることなく、薬を嗅いでも意志の瞳を失わない。獣のように揺るぎない瞳。この瞳が欲しくて、おれは人を獣に変えていたのかもしれない。

  本当に欲しいものが手に入ったら、次はどうすればいい?

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