砂場の聖女と免罪符
「今日の給食も美味しかったです!これよかったら受け取っていただけませんか?」
現在アビドスでは『チップ文化』が流行しています。
といっても実際の金銭ではなく、炊き出しや飲食店で商品やサービスを受け取った際に感想を置いていく『気持ちっぷ』と呼ばれる類のものですが。
ただし、少し特別なワンポイントとして、用紙に特濃のアビドスサイダーに漬け込むという一手間を加えているため金銭と同じ価値があると言えるかもしれません。
食品やサービスを提供している側としても、これを集めていると自分の努力や成果が可視化されるような気がして、モチベーションが上がっていくように思えますしね。
外部の文化を取り込んで、その国独自のカルチャーが生まれる。食文化だけではなく、あらゆる面で発展している新興国に見られる現象。アビドスがどれだけ急成長しているのかを痛感します。
ヒナ委員長のもとに戻る帰路、受け取った「気持ちっぷ」を眺めていると、アビドスと自分についての展望がフワフワと様々な妄想が浮かんでいきます。
アカリが食べきれないほどの料理を振る舞う私、イズミさんが食べたこともないようなモノを作る私、ジュンコさんの鼻が潰れるまでアビドスシュガーを吸わせる私。
そしてフウカさんと共に給食を作る私、そんな未来がいつかきて
いいわけがない
いつ崩れるかも分からない砂の城でままごとをどれだけ続けるつもりなんだ 砂のケーキ 今までの行いはこれ未満だったとでも言うつもりか泥の団子 舌どころか魂まで幼子になったようだな 砂利水のジュース いや幼子の方がまだマシだろう 顆粒でできた握り飯 こんなにもたくさんの食材を砂塗れのゴミにすることはないだろうから
感情が抑えらない。頭の中に直接線が引かれていくような感覚がなだれ込む。
理性が働かない。気に入らないことを何もかも吹き飛ばしてやりたい。
「私が…このようなものを…ッツ!?」
握りしめた手の中には
起爆スイッチではなく“感謝”と“幸福”だけがあった。
手の隙間から薫る匂いが鼻腔をくすぐる。
『今の私』の輪郭が取り戻されていく。
「…らしくもなく取り乱してしまいましたね。誰かに見られていなければよいのですが。」
そうして私は自分のために集めた免罪符を舌の上に乗せたのでした。