真新しい手記・52

真新しい手記・52


新作だー!\太陽万歳!/

執筆お疲れ様です…!


『バケモノ』


前回のあらすじ


・ロー達とドフィ達の合流


・ローより語られた『秘匿』の真実


・この夜の儀式の黒幕、明かされる


・真実は共有され、次のステージへ


今回も前回からの続き。

語り部は変わらずローが務めます。

参りましょう。



【己に出来ること、己が望むこと】

・ロー達はドフィに連れられ落ちた大橋を越え、ヘムウィックの墓地街に辿り着く。

かつてはカインハーストへ至る馬車が来ていたという辻を抜け、聖堂街を目指す。

…進む道すがらにて、彼らの耳は声を捉えた。


「おおかみさんを助けて!」


「狼?」


「わるいおおかみさんたちと戦ってるの!」


見違えるほど整備された墓地街の中心部に差し掛かった時、ロー達を呼び止めたのは幼い少女だった。


すりむき血の滲んだ膝もそのままに、涙を堪えてローのコートの裾を引く。


「あっち!」


「…悪い、少し寄っていく」


「どうせ通り道だ」


少女と目線を合わせてポンと頭に手を置いたエースは、アラバスタで見た軽やかな笑顔を浮かべた。


「知らせてくれてありがとうな、嬢ちゃん」

「あとはおれ達に任せてくれ」


エースが立ち上がるとほぼ同時に、進行方向に影が見えた。



【約束を守ったもの。違えたもの】

・捉えた影の気配は、よく見知った"喋る獣"のもので。


「"ゴムゴムのォ"…」


「"雁字搦め"」


「おお」


影を夜目の利く瞳で追ったドフィが、即座に獣を拘束する。

重なって見えた影は、三匹の獣として磔にされていた。


「返り血は獣のものだな」

「仲間割れはしねえもんだと思っていたが」


「……あいつ」


同胞共の始末をつけに行く。


ルフィにそう告げた男は、言葉の通りを実行に移したらしい。


本来獣は同族を襲わない。

おびただしい返り血は、男が真に人間性と呼べるものを取り戻した、あるいは獲得した証左だった。


「クソッ!!トラファルガー・ローか…!」


「もう少しで逃げ切れるところだったってのに…!!」


口々に叫んだ獣に、ドフィとエースが驚いた顔を見せる。


こいつらは自分の罪で、そして同時にひとつの探求の結実だった。


コラさんの報告書にあった神秘を纏う喋る獣。

その獣性がさらに"分解"されたものが、おれの研究成果だ。


「…おれ達を連れ戻しに来やがったのか」


「いや」


あの部屋の役目は終わった。かつて獣だった男が、それを証明してみせた。


「契約は破られた」

「てめェ等の行き先はインペルダウンだ」


やめろ、それだけは。

政府の奴に脅されて。


獣の喚き声を聞き流し、ローは"メス"で心臓を抜き出す。


能力は人命救助にしか使わねえつもりだったが、めでたくガワだけは人間に戻るんだ。

こいつらだって一応は適応対象だろう。


「気絶はしているが、イトはそのままにしておいてくれ」

「後で血を抜く」


「便利な能力だ」


自身を棚上げしたドフィが感心したように呟いた。

忘れたのかもしれねえが、あんたのも相当だぞ。


磔にされた連中をおいて、再び歩を進める。

街の中心部へ向かえば、案の定そこには喋る獣達の骸が並んでいた。


腕が立つ方だったとはいえ、獣化した連中相手の多対一だ。こうなることも、あの男は分かっていたのだろう。


それでもその意志の行先を、己の死に方を選んだ。


死に方どころか、生き方を選ぶことさえ知らなかった男が。


「…先を急ぐぞ」「"先生"?」


迷いなくあの男の死血を割り砕いたドフィは、おれを見下ろし口の端を吊り上げてみせた。



【合流。そして二人の『兄』の再会】

・進んだ道の先にて、ロー達は久方ぶりにルフィの仲間達と合流。


「ほ、ほんとにエースだ!」


「なにがどうなってんだ!?」


「エースさん…!」


エースと面識があるチョッパーとウソップ、そして付き合いのあったジンベエは、目を皿のようにしてロー達を迎えた。


ドフィとエースは海兵連中から捜索隊の話を聞き、欠けた記憶の補完を優先したと言っていた。

その頃湖の調査とおれの捜索をしていた組は、湖のほとりで鍵穴の空いた殻を見つけて首を傾げていたらしいが。


「エース」


「ん?」


歩み寄るシルクハットの男を、エースは不思議そうに振り向いた。


ありうべからざる再会を、赤い月が照らしている。


「兄貴の役目、お前ばかりに任せちまった」


「…サボ?」


「また、一緒に戦わせてくれ」


二人の兄は、ただそれだけの言葉で拳を合わせた。


「行こうぜ、兄弟」



【ココロといふもの。それは血も姿も超えるもの】

・二人の『兄』と一人の『弟』…久方ぶりに顔を揃え、負ける気など毛頭ない三兄弟にヤハグルへと引っ張られていったドフィを見送り、ローはチョッパーとモネと共に街を駆けていた。


雪に打ち捨てられて凍ったようになっていただろう仮面は、ドフィに拾われ仄かな熱を纏うまでになっている。


「持っていけ」

「奇跡の医療者にしか、救えねえもんがあるんだろう?」


そう手渡された仮面を身に着け、聖血を受け入れた患者達のもとへと急ぐ。


今頃モネのリストを元に、海兵連中も患者の状況を確認しているはずだ。

白猟屋の能力があれば、赤い月で獣化の兆候が出た者も傷付けず保護できる。


自分達は被害が出る前に、可能な限り多くの患者の血を抜かなければ。


「奇跡の医療者は、ローだったんだな」


「その正体は…他人の存在を搾り取って奇跡を起こすバケモノだったがな」


静かなチョッパーの言葉に、ローは自嘲混じりに答えた。


それでも、人を救える術があるだけ儲けもんだが。

人間になりたいと言ったこいつの気持ちが、今になってようやく分かったような気がする。


「ロー」


静かにローを呼んだチョッパーの声には、強い響きがあった。

その背に医療バッグを積めるだけ積んだチョッパーが、獣型のまま口を開く。


「おれは、人間になりたかった」


それなら、昔から知っている。


「青っ鼻のおれにも…仲間が欲しかったから」


おれだって、かつてはドフィやコラさんを"人間"にしたいと願っていた。

たとえそれが、生き物としての二人を致命的に捻じ曲げ歪めてしまうことだとしても。


その狂おしい誠実さも苛烈なまでの愛も、全て台無しにしてしまってでも隣にいてほしかった。


「おれは二本足で歩いて、トナカイで、モコモコで、チビで、デカくなって、バケモノで…」


「それは……」


「でも、それがおれなんだ!」


どこか暗い目をしていた弟弟子が、光を宿した瞳で言う。


そうだよトナカイだ!


でも、男だ!


ああ、

あの日海に出るチョッパーを見送った、ドクトリーヌの聞いた言葉の意味は。


「おれは、みんなの役に立てるバケモノになりたい」


喋る青っ鼻のトナカイは、晴れやかな顔でそう締めくくった。


なんだ、そうか。


人間じゃないチョッパーを、ヒルルクもドクトリーヌも息子と呼んで、ルフィ達は仲間と呼んだ。


おれは人間じゃないあの人達を愛して、あの人達は人間じゃないおれを愛した。


たったそれだけの、簡単な話だ。


「行きましょう」

「あなたはこの街に、奇跡を運んだ医療者よ」


「……モネ」


「私もシュガーも、そう信じているわ」


おそろしい月夜になお灯る家明かりは、遠くに滲んでおれを待っていた。



――景色を滲ませるのは、温かな涙か、或いは溢れそうなこの心か。



素敵な物語をありがとうございます…!


今回も見所たっぷり、ほろりと涙が滲んで落ちてしまいそうなエピソードが詰め込まれていたりと大変に良きお話でございました…!


ヘムウィックでの"喋る獣"達の顛末。

ローを「先生」と呼んだ彼は、やはり……

そしてローとの"契約"を破り逃亡しようとしたローの「探求」の一つの結実の形は、最後はドフィの手によりかつての獣達のように磔にされて……と、因果応報というべきか。中々に印象深い。

狩人兄上も兄上でちゃっかり"喋る獣"氏の遺志を拾い上げてるのもポイント高し。

後、何気にローの"メス"がお披露目されてたり、ローのドフィに対する「あんたの能力も大概」みたいな台詞にフフッ…ってなったり。

兄上は記憶の欠如があるけれど、能力は問題なく使えるんですな…覇気はどうなんだろ…?


エースとサボの再会。

原作ではついぞ叶わなかった夢のような景色が、目の前で広がっている…!

…たとえこの夜が明けたら、エースはまさしく『夢』のように凪の彼方に還る事になるとしても。

今は、今だけは。この『夢』に心を喜びに満たしていたい…

そしてコルボ山の三兄弟に連れられてったドフィよ…ドフィが三兄弟のツッコミ役になりそうな気配を感じるのは私だけだろうか…?

というかコルボ山三兄弟+兄上って、凄い兄率だな…弟ポジがルフィしかおらんやん…圧倒的お兄ちゃんパワーを感じる…!


そして最後のローとチョッパー、モネの会話……

チョッパーの「おれは、みんなの役に立てるバケモノになりたい」とか、

ローの『たったそれだけの、簡単な話だ』とか、

モネさんの「私もシュガーも、そう信じているわ」とか。

涙腺に畳み掛けるような台詞と描写に、暫くタオルが手放せませんでした…


ローの『おれは人間じゃないあの人達を愛して、あの人達は人間じゃないおれを愛した』って台詞がね、本当にね…

シンプルなその『答え』に、ローが辿り着けた事が本当に嬉しくて…!


まだまだ先の見えない夜だけれど、希望は確かに『ここ』にある。

そんな気持ちにさせてくれる、素敵な物語でした…!

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