【真実の断片:無人伝染病棟】
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――ザザッ
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【真実の断片:無人伝染病棟】
最初のきっかけは<住民たちの要求の暴走>だった。
投降を促した衛生部隊長は人心掌握やコントロールに長けており、住民たちもその指揮に従って規律正しく在れた。
だが、それまで不満を巧く躱していた彼が最前線へ転戦することになり、残された住民たちの箍が緩みだす。
ほどなくして侵略してきた敵国に水面下で反発していた<廃病院周辺の住民>たちは、戦後復興のための人手として『残っている兵士を労働力に寄越せ』と廃病院側に要求。
『拒否するようであれば、残された病院への安全は保障しない』という脅しも併せて知らされる。
さらに条件は細かく決められており、『怪我人は足手まといになるだろうから労働力に数えない』とも通達されていた。
これはほぼ奴隷労働と変わらない待遇になると廃病院側からは思われており、残された達筆の軍医他数名の残留医療組は悩まされてしまう。
そもそも病院という単位の部隊に置いて、心身ともに健康体であるのは医師看護師をはじめとした職員くらいのものだ。
肝心の医療技術者たちもすでに連れて行かれた以上、労働力に出来る人員などいるはずもない。
「ならばどうすればいいか?」
冷徹な結論を下せる軍医は決めた。
『――外傷患者がダメなら、内科患者を引き渡そう』
幸いと言ってはなんだが、病院に収容されている伝染病患者の大半は"呼吸苦"や"喉頭炎"が主症状。
少しばかり咳き込むことはあるが高熱などもなく、知識のない人間が見ただけでは分からない患者たちである。
当然だが完治していない彼らが労働力として連れ出されたとして、長くはもたないだろうと分かってはいた。
けれど、指揮官か外部の人間がこの地域に戻ってくるまで時間は稼げる。
住民たちが無理な労働を命じたとすれば、そのせいで命を縮めたのだろうと非難もできる。
良心が咎めなかったわけではない。
だから、伝染病棟の患者たちにこの案を直接相談することにした。
決死隊と同義語であるこの指示をどう思うだろうか?と。
「その任務、受けましょう」
残された患者たちにとって、選択肢はすでにほぼ無かった。
このままあてもなく病院に籠城を続けるか、絶望しかない外へ自ら足を踏み出すか。
せめて、病院に残される仲間たちが少しでも長く平穏に過ごせる日々の糧になりたい、と。
それ故の「●月×日 Dr.***よりENT(退院)指示」
快癒したとの記載もない、ただ人身御供として差し出しざるを得ない。
医師として書けないこと、人として書けないことどちらも多かったためにそっけなく記されたカルテ。
外に連れ出された"労働力"たちは、それから1月のうちに息を引き取ることになる。
時をほぼ同じくして、<廃病院周辺の住民>たちの間には伝染病が蔓延しはじめた。
ひとりまた一人と倒れていく町、次第に主を失った家が廃墟となっていく。
当初はただ戸惑う住民たちだったが、病院に潜入していた間諜からの情報でDr.***がなした真実を知る。
――その情報を最後に間諜からの連絡が途絶え、住民たちによる病院への報復行動がはじまった。
Why done it?――それは残された病院を守るため
How done it?――最小限で最大の効果を得るため
Who had done it?――Dr.***が決断を下した