無数vs適応

無数vs適応


宿儺と漏瑚の激闘が終わる間際、もう一つの戦いに決着が着こうとしていた──

「布留部由良由良──八握剣異戒神将魔虚羅」

伏黒恵が持つ術式、十種影法術は十種類の式神を用いる術式であり式神を得る為には調伏の儀を行い式神を打ち倒す必要がある、しかし調伏してないからと言って顕現させる事が不可能と言う訳ではない、前提として調伏の儀を行う為に一度呼ぶ為に使役下に置いていなくとも呼ぶ事が可能なのだ。

そしてその仕様を利用した戦術もある──否、とても戦術とは言えないだろう、何故ならば──

「おい、クソ野郎──先に逝く、せいぜい頑張れ」

直後に伏黒は自分で呼び出した式神に吹き飛ばされ仮死状態に陥る──そうその戦術とは自分でも調伏できない程の強い式神を呼んで敵諸共死を選ぶ自爆だったのだ、その調伏の儀に巻き込まれた呪詛師──重面春太は意味もなく伏黒に悪態を吐く、重面の死を以て伏黒の死が確定するが──。

間一髪の所で宿儺が合間に入り非常に不本意ながらも重面を救助する。

(仮死状態か‼︎このゴミを助けたのは正解だったな)

伏黒の状態を確認しながら反転術式を回し、そして状況を確認する。

in虎杖荘

「待て待て待て悠仁‼︎まだ戻るな‼︎」

「無理‼︎引っ張られてる‼︎」

in渋谷

(うるさ…)

中での騒がしさにうんざりしながらも式神──魔虚羅の攻撃をかわし斬撃を飛ばす宿儺、それが決め手になったのかとうとう肉体の持ち主が表に引き出される。

「え゛…うっそ⁉︎マジか‼︎」

突然の状況変化に戸惑いを隠せない虎杖だがその間に魔虚羅の状態が変化する。

──ガコン。

頭部に在る方陣が回転し宿儺に刻まれた肉体が再生している、何かしらの術が発動したのだろうと考え虎杖はいつでも動けるよう構える。

in虎杖荘

「「「なんか言う事あるか」」」

「この件に関しては俺は悪くないだろうが」

「呪いの王なんだったら悠仁の帰還をもう少し抑えろよ‼︎」

「…貴様等俺が外に出た時色々文句を垂れただろう、何故戻っても文句を言われなくてはならんのだ」

「あんな化け物に悠仁をぶつけるなって言ってんだよ」

「ふむ…アレか、伏黒恵が過去にアレを出そうとしてるのを別の指経由で見ていたが…布留の言だったな、そしてあの方陣、成程、あの式神は完全な調和…つまりはあらゆる事象への適応が能力か、中々の能力を持ってやがる」

「そこまで分かってるんなら尚更変わるなよ」

「アレを小僧が殺せば良いだけの話だ、慣れているんだろう?格上と戦うのは」

そう言う宿儺の言葉に思い起こされるのは今までの虎杖の戦歴だ、少年院の特級受胎(住民曰く呪力多量なだけの雑魚)から始まり特級呪霊の漏瑚(観戦)と真人、交流戦での花御、更には寝た際の虎杖の強制的な修行により虎杖の実力は既に同年代の術師は愚か既存の一級術師をも優に超えており特級術師の影に足を踏み入れている。

「貴様等は過保護が過ぎるのだ、獅子が我が子を千尋の谷に落とす様に、これを機に小僧を試すのも良かろう、貴様等の術式は刻まれているのだろう?ならばこの式神程度、難なく熟せる筈だ」

「堕天の言葉に頷くのは本当に癪だが…ここは悠仁を信じてみるのも悪くないのかもしれない、彼が殻を破るのは此処だと思う…それに──」

「それに?」

「本当に不味くなったら私が表に出て奴を消す」

「本当に頼むぞ天使‼︎悠仁が死ぬ様な事があってはならないんだ!」

「落ち着きなよ兄さん、確かに宿儺の言う通り私たちは少し悠仁に過保護な所があったかもしれない、過去の存在の私たちと違って悠仁は今を生きる人間なのだから……いつかは独り立ちするんだろう、そのきっかけが今来たに過ぎないよ」

「大変だな、大兄弟の長男ってのは、まぁ大丈夫だろ、俺たちも悠仁を生半可に鍛えちゃいねぇ、あの化け物は相当な代物だがな」

in渋谷

魔虚羅が剣を虎杖に向けて振りかぶる、本来なら目視するのも不可能な速度だが虎杖はそれを難なく回避する。

「うん、鹿紫雲兄ちゃんより遅いね、宿儺も、さっき戦ってた火山ももっと速かったしな、先ずはコイツの硬さを──知る‼︎」

虎杖は魔虚羅の目にも止まらぬ速度で懐に潜り込み自慢の拳に呪力を込めて全力で魔虚羅の腹を殴り付ける、するとまるで重機同士が最大速度でぶつかった様な重い音を響かせ、魔虚羅を十数m吹き飛ばした、更によく見ると魔虚羅の腹部に焦げ目が付き肉体が拳状に深く抉れていた、これは虎杖が元来持ち得た肉体に鹿紫雲の呪力特性の電気が乗った証拠であり電気によって発した熱が魔虚羅の肉体を焼いたのだ、そしてこの常人離れした威力、これは虎杖の中にいる術師の中でも最大の呪力出力を誇る(宿儺を除く)石流の特性を用いた物だ、虎杖の元来の肉体+鹿紫雲の呪力特性に石流の呪力放出が伴ったパンチは既に必殺の領域に昇華されていたのだ。

──ダメージ大。

それが魔虚羅の自律した思考が弾き出した自身の肉体の損傷度である、過去に幾度か呼び出された事があったが術式無しの攻撃で此処までのダメージを受けたのは魔虚羅が知る限りでは初である、だがそれも既に適応した、しかし傷の損傷が思ったより深い上に治りが遅い、どうやらこの呪力特性が回復を阻害しているらしい、こちらの適応はもう少し時間を要する。

だがそんな物を虎杖は待たない、虎杖は数々の格上と戦った際に知ったのだ。

──格上と戦う時、決して攻めの姿勢を崩さない事。

この事を指摘されてからの虎杖の動きは劇的に変わり──そして交流戦での東堂から授かった【黒閃】、それを幾度と無く経験した虎杖はこの人外魔境が蔓延る渋谷でも上から数えた方が早い程の実力を兼ね備えていた。

魔虚羅の猛攻をギリギリのところで回避する虎杖に頬から様々な声がする

『悠仁、コイツには同じ技が通用しにくい、あらゆる事象への適応が能力が備わってるから──』

「バカでもわかりやすく‼︎、後一人に絞って‼︎」

その指摘に真っ先に応えたのはやはり脹相だ。

『ようは後出しジャンケンがコイツの能力だ、攻略するなら初見の技で一撃で潰せ』

「OK‼︎分かりやすい‼︎」

脹相のアドバイスを貰い勇猛に攻める。

in虎杖荘

「ハァ…」

我先にとアドバイスを言い合う同居人を見て宿儺はため息を漏らす。

「助言くらいはいいだろ?」

「もう良い、好きにしろ」

in渋谷

(後出しジャンケンって事は…さっきのパンチと…あと宿儺の斬撃か、それが適応って言ってたな、確かに効き目が薄いし…)

「──兄ちゃん達の力使うしかねえか」

──魔虚羅の撃破方法、それは初見の技にて一撃で屠る、それを満たす術は虎杖には在る、乙骨憂太程では無いにせよ虎杖悠仁もまた無数の手札を持つ術師なのだ、無数の術式か、完全なる適応か、二つの異能がぶつかる──。

魔虚羅が急接近する、先程よりも速い動きだ、どうやら鹿紫雲の速度に適応し自身の速度を上げたらしい、虎杖は空中に跳び難を逃れる、即座に魔虚羅が剣を振るが──結果は空振り、虎杖は烏鷺の術式を用いて空を駆ける。

(適応は防御面だけじゃねえのか‼︎攻撃面でも性能が向上してる‼︎なら短期決着だな、手がつけられなくなる前に──)

「お前を──殺す‼︎」

(一撃で潰すなら万姉ちゃんの術式はダメだ、消耗が激し過ぎるし何より俺が物の構造をあんま分かってねえ、鹿紫雲兄ちゃんの術式は実質自爆だから呪力特性の電気反応、石流兄ちゃんの術式か、後は脹相兄ちゃんの術式か、折兄ちゃんの術式でもいけそうだな…呪力放出の高さ術式の威力にもろ影響すんだよな?今の俺は石流兄ちゃんの出力で術式が使えるから…あれ、もしかして逆に加減しないと渋谷がとんでも無いことになるんじゃ…)

「──なんて、考えてる暇も無え‼︎取り敢えず全力を尽くす、被害とかは後で考える‼︎最悪五条先生か黒幕に押し付けようそうしよう‼︎」

思考の底に落ちていた虎杖に魔虚羅の拳が迫り否が応でも現実に意識が引き戻される、自身が起こすであろう被害は全てこうなった原因の黒幕か五条悟に押し付ける事にした様だ。

in虎杖荘

「羂索に押し付けられてんじゃんウケる」

「そうだ悠仁、周りの事等気にするな、思い切り暴れたら良い、全ては事を起こした加茂憲倫が悪いんだお前は何も悪く無い」

「そもそもの話五条悟が封印されなかったら悠仁が出向く事もなかったからな半分くらいは五条悟に非がある」

どうやら誰も虎杖に非があるとは微塵も思ってない様だ。

in渋谷

魔虚羅の剣が迫る、虎杖は左手で虚空を掴み魔虚羅の剣ごと周りの空間を捻じ曲げる、そして返しの右手で殴り抜けるが当然魔虚羅も左手で防御に回る、そして虎杖の拳が魔虚羅の左手に当たると同時に大爆発が起こる、これは烏鷺の術式と黄櫨の術式である。

本来二つ以上の術式を持つのは不可能だ、仮に持ち得たとしても同時使用は不可能である、何故ならそれは右を見ながら左を見る様な行いに等しい、もし術式の使用を極めたら──それこそ呪いの王たる宿儺以上に練度を高めたらそれも可能なのかもしれない、だが今の虎杖にそれはできない、では何故二つの術式を使用できたか、その問いは単純で虎杖はこの攻撃では烏鷺の術式しか使用していない、だが事前に黄櫨の術式の爆弾を生成しておき強い呪力衝撃で爆破する様に設定していたのだ、そしてその威力は外部から注入される呪力量と与えられた衝撃によって変動する。

常人ならざる頑強さを持つ虎杖の身体であっても流石に今の爆発には耐えられない、右手は吹き飛び全身に傷が走る、通常ならばこれで戦闘不能だ、しかし黄櫨由来の高練度の反転術式によって右手を生やし全身の傷を癒す荒業をしてのけた、本来の術式の持ち主である黄櫨には不可能な戦法だ、この戦法は虎杖悠仁の肉体と、石流の呪力放出があって且つ自身の肉体の欠損をも厭わない精神性があって成立する。

魔虚羅の左手から肩に至るまで消し飛んでいるがこれでも最強の式神は倒れない、方陣が回る、今の攻撃にも適応され魔虚羅の再生が完了した。

「お前本ッ当に面倒くさいな‼︎今ので死ねよ‼︎」

人間の心臓に当たる部分まで消し飛ばした筈だが難なく再生している辺りそもそも人間と身体の構造が違うらしい、ならば狙う場所はただ一つ。

「だったら頭を吹き飛ばすか…綺麗さっぱり全身を消し飛ばすの二択、だな」

in虎杖荘

「今のは良い線行ってたな、次の攻撃で殺せるか?」

「厳しいな、今のでアイツの攻撃性能がさらに上昇した、お前の出力で俺の特性を回してるから今はまだ速度で上回ってるが…」

「それも時間の問題…ってわけね」

「攻撃面だけじゃ無い、見ろ、防御面も遥かに上昇している、宿儺が一回、悠仁が二回…計三回転してる所を見るにあいつの硬さはあの花の呪霊を超えてるだろう、そろそろ決めに行かないと不味いぞ」

「…悠仁は何を狙ってる?万の構築やレジィの再契象で搦手を用いながらも攻め続けてるがそれだと適応させてるだけだぞ」

天使は虎杖の戦法に疑問を感じているがその真意に最初に気付いたのは宿儺だった。

(──成程な、アレの適応は時間による物…小僧は無意識にそれに気付いたのだろう、だから他の奴の術式で間髪入れずに攻める事で本命の適応を遅らせているな…物を作る術式はそう言う使い方をするならば一気に化ける…即座に消滅する縛りでも構築したか?一度の術式使用による呪力効率を極限にまで上げている…故に早々に呪力切れが起こる事は無いが…)

「時間の問題だな、焦れよ小僧」

「貴方の術式が使えるなら決着が着くでしょう?」

「ただでさえ押さえ付けられて不愉快な所に何故あいつに俺の術式を刻まねばならん、それに──」

「それに?」

「俺の術式等なくとも小僧はアレに勝つだろう、業腹だがな」

「素直じゃ無いのね、照れ隠しって奴かしら?もっと素直になって生きても──キン」

「少し黙れ」

哀れ万は宿儺に切られてしまったが直ぐに復活するので問題ないだろう、他の面々も気にした様子はない。

in渋谷

「ふう…そろそろ決めねえとな、敵はコイツだけじゃねえんだ、真人も夏油も残ってる、残り呪力を考えて次で決める、それに──そろそろだ」

虎杖はこの戦いが始まる前にある仕掛けをしていた、過去に鹿紫雲から教わった戦法──物に蓄電させ対象を蓄電させた物と自身の間に挟み込むことで成立する帰還電気による攻撃である。

──石流の出力と鹿紫雲の特性による合わせ技、そして最大限に溜めが完了されたその威力は鹿紫雲の術式による電磁波をも上回る

背後からの電磁波により魔虚羅の下半身が消し飛ぶ、従って魔虚羅は地に屈する事になるがそれでも攻撃を停止しない、それを喰らって尚健在なのはやはり適応による耐性の会得が大きいだろう、今回の攻撃が通ったのは最大まで溜まっていたからだ、しかし虎杖はそれをも予感し石流の術式を解放する、先程の攻撃はあくまで呪力特性を使用した攻撃の為術式の使用を可能とする。

「最大出力──【グラニテブラスト】‼︎」

攻撃を予感した魔虚羅は器用に身を捻り大砲を左を犠牲に右に回避した当然左半身が消し飛ぶが魔虚羅は方陣と頭部が無事な限り何度でも再生する。

放射が終わり魔虚羅の方陣が回る、そして魔虚羅の再生が始まろうとしていた──しかしそれより先に動いた虎杖は拳を振りかぶる。

──無問題、これが自律思考により弾き出した魔虚羅の答えだ、既に虎杖の呪力特性と放出による拳による攻撃は適応済みであり防御の必要はないと判断し、受けても問題無いと魔虚羅は思考した、それが最大の悪手であった、虎杖の顔に赤い刺青があるのを知らずに。

──虎杖は脹相の赤血操術を使用していた、赤血操術の最大技は穿血なのは周知の事実だ、故に対策は練りに練られている、だからこそ虎杖は飛び道具としての赤血操術の使用を縛った、赤血操術の強みである近距離〜遠距離の汎用性の高さを制限し使用する技を一つだけにする事でその技の出力を最大限に引き上げていた、その技は──赤燐躍動。

赤血操術──赤燐躍動は血液の巡りを加速させ自身の身体能力を底上げする術だ、これにより元から高い虎杖の身体能力が向上された、そして当然術式なので呪力放出の影響を受ける。

即ち今の虎杖悠仁は石流の呪力放出の呪力による肉体強化+赤燐躍動+鹿紫雲の呪力特性による電気信号による身体能力向上が発動しており、この状態の虎杖悠仁の肉弾戦はかの呪いの王にすら匹敵する。

その状態の虎杖悠仁の攻撃に加えて、虎杖悠仁は──黒い火花に愛されている。

──極限下の集中力、幾多の格上との戦闘、そして今再び、黒い火花が迸る‼︎

【黒閃】

打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に生じる空間の歪みの現象、これが起きた際暗く光った呪力が稲妻の様に迸りその際の攻撃の威力は通常の攻撃の2.5乗の威力となる。


あらゆる攻撃力上昇を掲げた虎杖悠仁の攻撃に魔虚羅は無防備に受けてしまう、自律思考故の弊害がここに出てしまい、魔虚羅の適応が裏目に出た形となる、もし魔虚羅が事前に黒閃を知っていたら、赤血操術の存在を知っていたらまた形は変わっていただろう、然し此度の顕現ではそうならなかった、魔虚羅は虎杖の黒閃をうけなす術もなく消し飛んだ、魔虚羅の消えゆく思考の中で思い描いたのは

──初の敗北だった。

過去歴代の十種影法術の使い手の誰もが調伏出来なかった最強の式神を──

五条悟と同じ六眼と無下限呪術の抱き合わせの術師をも屠った最強の怪物を──

僅か15歳の少年が屠ったのだ、これは呪術史に残る大快挙である。

虎杖悠仁──五条悟、乙骨憂太に次ぐ──【現代の異能】

魔虚羅vs虎杖悠仁──勝者:虎杖

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