目覚め

目覚め



※暴力、性的表現有りなので閲覧にはご注意を

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「うっ、ぐ、これは、中々、厳しいな…」


 へまを、してしまった。傭兵として働いているのだ。雇い主にとっては都合のいい駒だと、いつでも切れる存在だと、分かっていた筈なのに。


「気の毒だよなお前ら。」

「なー。うちのボスにいいように使われた挙げ句最後はこれだ。」


 滑稽そのものだ。払いのいい雇い主に、信頼を寄せてしまったばかりに……騙し討ちを食らい、こうして追い詰められている。押さえている脇腹から、液体が漏れる感覚がする。深傷だなこれは……


「後こいつだけだし、さっさと終わらせちまおうぜ。」


 オートマタの銃口が向けられる。これはもう、無理だな。思えば一番新しい記憶からしてみてもいつ壊れてもおかしくない生き方をしていた。長く、生きた方だ。でも、そうだな……心残りが有るとすれば……


「ごめん、な…ククラ……」

「目線、切ってんじゃ、ない…!」


 だが、まだ私に生きる道が残されていたらしい。倒れていたアリス、傭兵をしている中で一番付き合いが長いガンマン……あいつが、マクリーが起き上がったのだ。

 そこから凄まじい早撃ち。あっという間にその場にいた三人を撃ち抜いた。本当に、頼りになる……


「リウ、さん……動け、そうか?」

「なんとか…ギリギリ、な。」


 どうにか立ち上がると、マクリーが此方に近付き肩を貸してくれた。こいつもボロボロで、私より体が小さいというのによくやる……


「生きてる、奴は…?」

「残念ですが、私達以外は……」


 その言葉に私は、頷くしかなかった。騙し討ちで後頭部から撃ち抜かれ片目へと弾丸が突き抜けたやつ、顔面を何度も銃床で殴打されたやつ。他にも……


「帰り、ましょう……あなたは、生きて、帰らないと……」


 そうだ、私は帰らなくては。ククラが、待っているんだ……ん?いや、待てよ?


「……不味い。」

「え?」

「私達を騙し討ちした奴らだ。帰る場所を、残すか…?」

「! まさか。」


 間違いない。あいつらの目的が私達を全滅させることなら、拠点にしていて家でもある彼処に手を出さない筈がない。不味い……!


「急ぎますか?」

「あぁ…行くぞ。ククラが、危ない…!」


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 そうして応急手当をした後、急いで向かった私達二人の五感に飛び込んできたのは……火薬の匂いと、流れ出る燃料の匂い、そして……無数の壊れた、 同じ、ニセモノのアリスだった。


「チィッ……マクリー。お前は、生き残ってる奴らを探せ……」

「了解…リウさんは?」

「ククラを、助ける…!」


 短い会話の後、私達は別れてマンションの中へと入る。マクリーがこの状況下であっても生き残っている同胞を助けに行く。私は、私がククラと同棲していた部屋へと向かう。


「こんなもんかー?」

「……(他に気付かせる訳には行かん)」


 向かっている廊下には、当然ながらあのクソ野郎の兵隊が居やがる。だが銃は駄目だ。大きな音が鳴れば他の奴らも集まってくる。それならやり方は決まっている……三人か。


「邪魔だ。」

「かはっ!」


 まず、一番近かった奴の首をへし折る。こういう技は、とっくに壊れて損失している筈の昔の嫌な記憶が思い出されそうで使いたくないんだが……この状況だ、そうも言ってられん。


「なんだテメ」

「やるならさっさと撃てよ。」

「まだ生き残ってるのが居たか!」

「退けって言ってんだ。」


 二人目は頭と体を繋いでいる首のコードを、三人目はまずは引き金に掛かっている指を落としてから胸の重要部位を一突きだ。ナイフを使うのも、久しぶりだ。とはいっても、この黒塗りのダガーナイフは手によく馴染んでいるから、問題はないんだがな。


「よし、此処だな……」


 そこからはあっという間だった。既に大半の掃討は終わっていたらしく、数自体も少なかった。そうこうしている内に私とククラが住んでいた部屋に辿り着く。部屋の前には守ろうと抵抗してくれたのだろう同胞が、壁にもたれかかって倒れていた。ドアは、空いている……嫌な、予感がする。


 気配を殺して部屋に入る。足音を立てぬように少しずつ、進んでいく。部屋の中には幾つか気配がある。間違いない、オートマタだ。


「中々良かったなこいつは。」

「やっぱ正規品は違うなー。」


「!」


 視界に入ってきたのは下卑た会話をしているオートマタが四人。そして……


「う、あ…」


 服は切り裂かれてボロボロになり、虚ろな目でうわ言を呟いているククラだった。


 この感覚……懐かしいような、初めての体験であるような。マグマのように煮え滾る感情に、頭の中が支配されていくような感覚。視界が、血よりも赤く、血よりもドス黒く染まっていく感覚。


 あぁ、そうか。これが感情か。これが、怒りか。


 これが、殺意か。


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『アリスネットワークにて』

『深夜』

XXX:たすけて

XXX:たすけて、ください

XXX:リウが、マクリーが、みんながボロボロになって

XXX:だれか、たすけて


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『ミレニアムセミナー保安部報告書』

 アリスネットワークに書き込まれた緊急性が高いと判断された書き込みを受け、位置情報を確認した上で完全武装の一個小隊が出動。書き込みを行った正規品アリスと海賊版アリス二十五体を保護。

 証言を受けて向かった廃マンションには破壊され機能停止した海賊版アリス凡そ百体以上を発見。

 正規品アリスと、海賊版アリスのリーダー格は以前優先保護対象アリスに認定されていた個体、「ククラ」と「リウ」であると確認。

 ククラはナンバー鑑定を行ったところ行方不明となっていたNo.999と判明。声帯、両腕のパーツが非正規品に改造。現在は修理及び換装中。本人は量産型アリスの修理を行いたいとの意思を示している。

 海賊版アリスはその全員が重度の損壊。特にリウは損傷が酷かったが先日目を覚まし、現在は他のアリス達と共に正規品パーツを使用して修理中。


『特筆事項』

・リウにはヘイローが確認されている。証言から、廃マンション襲撃の際に発現したものと考えられ。

・ヘイロー形状:黄色いカサブランカ、黒いユリの花弁が重なっている

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