目一杯の祝福を君に

目一杯の祝福を君に

あなた達の未来に、祝福があらんこと。



あのね、ふわふわの服を着た妹は僕のみみに口を近づける。どうしたの?ときけば「どきどきしてる」と僕の手をにぎった。僕たちの手には大きなカゴが2つ。その中にはきらきらひかるものが1つ。それはいろんなふわふわしたお花にかこまれているのに、とてとぴかぴか光ってきれいだとおもった。

「どきどきしてるの?」

「うん、どきどきしてる」

「じつはぼくも、どきどきしてる」

同じだね、といえば妹は目を輝かせてぴょんぴょん跳ねた。いつもは大人しい妹がこんなにはしゃぐのを僕は初めて見て、近くにいる大人に叱られないように2人でぴょんぴょんはねた。妹の、父さんに似た色の髪が太陽にて去られてきらきらひかる。でもふわふわしてる髪は母さん似だ。逆に僕は母さんに髪色は似てて、父さんみたいにすとんとしてる。でも今日は妹もぼくもきちんと髪を手入れされ、妹も僕も横髪に編み込みを入れてもらっているのだ。服だって僕と妹はペア服、と言うやつだった。妹は赤色のドレス、僕は赤茶色のスーツ。どっちも僕らのおうちのメインカラーだ。妹の服はふわふわなドレスだけど、僕は父さんが普段着ている服をちょっと子供用にしたものだった。父さんに近づけたようで少し誇らしくてにまにましてしまう。

「跳ねるとお洋服が崩れちゃうよ?」

黒い服を着たお姉さんがそう僕らを宥める。ふたりでぎゅぅっと手握りながら、僕らははねるのを辞めた。だってお洋服が崩れたらまたあの広いお部屋に連れていかれておけしょうされるんだ。それは困る。

「ねぇ、まだはいっちゃだめなんですか?」

「あと少しですよ」

「あとすこし?」

「ええ、あとすこし」

僕は頬を膨らませた。ぴたりとドアに耳を当てながら唇をとがらせる。中の音はよく聞こえないけど、誰かが歌ってるのは聞こえる。こーらすってやつだ!妹はかごの中の花を手に持ってはくんくんと匂っていた。

「いいにおいする?」

「わかんない」

「わかんないか」

くふふ、と顔を合わせて笑い合う。黒服のお姉さんはこっちを見てはそろそろだよ、と僕たちに話しかけた。

「いい?中に入ってるお花を巻きながら歩いてね?」

「うん」

「このきらきらしたのはさわっちゃダメだよ?」

「なげちゃダメ?」

「だーめ」

ぶぶ!とお姉さんが顔の前で手をクロスする。それがおかしくてくふくふ笑いながら僕らは腕を組んでドアの前にたった。


ゆっくりとドアが、開く。


長く長い、赤いカーペット。その先には、真っ白な服に身を包んだ父さんと母さんが立っている。わぁ、と声が漏れて、そっと背中を押され僕たちは歩き出した。言われた通り、中に入った花をまいて、まいて、まいて。

2人の前に来た時、余りのふだんの2人とのちがいにむねがばくばくした。いまにもはじけちゃうんじゃないか!て、病気になっちゃった!て思うぐらいばくばくする胸に、妹もそうだったのか僕にぎゅっと抱きついて顔をまっかにしていた。

父さんが僕らの前でしゃがむ。優しい声で名前を呼ばれ、僕は父さんにそっとカゴを渡した。母さんも妹の名前を呼び、妹はあわてて母さんの方に行っては僕と同じようにカゴを差し出した。

「おひめさまみたい」

妹の言葉に顔を白いもので隠した母さんがくすりと笑う。

「今日は父さんのお姫様なんだよ」

ひゃー、と妹がひめいをあげた。ふたりはかごの中からきらきらひかる丸い輪っかを取り出す。真ん中にいたおじいさんが「指輪の交換を」と言うと、父さんは母さんの白い手袋をぬがし、その指に丸い輪っかを嵌める。母さんもそれを返すように、父さんの指に輪っかを嵌めた。

「誓のキスを」

父さんは母さんの顔にかかった白い布を上げる。隠れていた僕とお揃いの青い目が、多分父さんを見ている。父も、妹とお揃いの金色の目で母さんをみている。妹がぽかりとしながら二人を見あげている。多分、僕も同じ顔をしてるんだ。

「…グエル」

「…ラウダ」

2人の顔が近づいて、口と口がくっついて。いつも見ている光景なのに。光に照らされ、まるで祝福されているような歌声、そして、拍手。

「「きれい…」」

双子の僕らは、全く同じ言葉を呟いてはそれを見ていた。




「今思うとこれ、見惚れてたよな」

「宗教画みたいで綺麗だったよね」

ソファに座りながらDVDを再生する俺たちに父さんも母さんももうやめろと言わんばかりに顔を真っ赤にしている。

「この後シャディクおじさんが泣き出すところまでが最高なんだよ」

「あーわかる。綺麗な男泣きだったよね」

「シャディク泣いてるの映ってるのか?」

「映ってるよ、スタッフの人優秀」

「ほんとに泣いてる…」

画面の中ではシャディクおじさんが声もなく泣いている姿が映っており、俺たちはくすくすと笑い合う。

両親は悪趣味だぞ、と呆れながらも同じようにDVDを眺める。そんな姿を確認しては、俺と妹は目を合わせ、そっとソファの後ろに隠していた大きな袋を取りだし、立ち上がってはソファに座る両親の前にたった。

「父さん」

「母さん」

「「結婚記念日、おめでとう!」」

きょとりとしたふたりは、俺たちの腕を引いてはそのまま強く抱き締める。おぎゃー!と悲鳴を上げる俺たちを無視し、父さんも母さんも俺たちを巻き込みながら団子のようにむぎゅむぎゅ。小さい母さんが潰れないかが不安だったが、母さんは意外とタフで潰れてなかった。流石だ。逆にあまり体力のない妹は死にそうな声で助けを求めていた。

「ど、さ…か、さ…ぐるじ…」

「はっ!」

力が緩まったお陰か、妹が息を吐く。手に持っていた袋が潰れなくてよかった、とほっと胸を撫で下ろしながら2人を見れば、はらはらと泣きながら精一杯の笑顔を浮かべている。

「ありがとう」

「ありがとうな、2人とも」

今度は俺たちから手を伸ばして2人を抱きしめる。プレゼントは避難させた。妹は気遣いの鬼なのでそういうができる。さすがだ。

「じつはケーキ作ったんだ、後でみんなで食べよう?」

「そうか、ケーキ作れたのか」

「そんでさ、今日だけ外でキャンプしよーぜ、テントの張り方覚えたんだよ」

「そうか、そうか」

「4人でさ、小さい時みたいに寝ようね」

「「ああ、そうだな」」


「とうさん」「かあさん」

「「ずっと大好きだよ」」


僕達もだよ、そんな言葉を聞いては俺と妹は精一杯2人を抱きしめ続けた。


因みにプレゼントなのだが、俺はパジャマ、妹は何故か腹筋ローラーだった。何故?と聞けば「直感」と言っていたので今度の記念日は一緒に探してプレゼント買うことを決めた。


Report Page