百鬼夜行連合学院砂糖堕ち概念

百鬼夜行連合学院砂糖堕ち概念

概念不法投棄の人


 毎年、D.Uで行われる、『キヴォトスふるさと物産展』


 キヴォトスの幾多の自治区が地元の特産品を並べて展示販売をするイベントで、来場したお客様のアンケート審査と売り上げでその年の名産品のNo.1王者を決めるコンテストも開かれていて、ここ数年は百鬼夜行連合の百夜堂が連覇優勝していました。

 百夜堂の素材の風味と色合いをふんだんに生かした純和風の地元伝統料理品から他の自治区の人にも親しみやすい各自治区の風土を取り込んだ最新トレンド和洋折衷の和菓子まで温故知新のレパートリーで会場を沸かせてました。

 さて、今年も余裕で優勝でしょう♪と意気込んで臨んだところ、まさかの閑古鳥……までは行かないものの、明らかに例年に比べ売り上げが少ないのです。熱心なファンの方も来られるのですが何かイマイチ反応が薄い。

 焦る彼女達をよそに、物産展で異様に盛り上がっているブースがありました。


「いらっしゃい!いらっしゃい!遥か遠く砂漠の国、アビドスのスイーツパラダイスだよ!砂漠に浮かぶオアシスのような皆様の心を癒しお腹を満たす、幸せスイーツが目白押しだよぉ~」


 十数年ぶりに参加するアビドス自治区の物産展ブース、そこには今まで見た事の無い様な人だかりができていました。

 砂漠の、それこそ砂しか無い様な寂れた自治区のブースとは思えない長蛇の列は見る見る伸びて百鬼夜行連合の百夜堂のブースの目の前まで到達していました。


 砂と借金に埋もれ、ヘルメット団程度にすら容易く甚振られ連邦生徒会すら見捨てた弱小自治区。シャーレの先生が救いの手を伸ばさなければとっくに消滅していたはずの学校が息を吹き返し、物産展のトップに立とうとしている。

 何か仕掛けがあるのかもしれないと不審に思った彼女らはブースのお手伝い兼動画配信しに来ていた忍術研究部の3人に敵情視察を命じます。しばらくして肩を落とした3人が帰ってきます。「待機列が長くてアビドススイーツ買えなかった」律儀にも列に並んで購入しようとしていたようです。

 物産展が終わり、百鬼夜行連合の連覇記録が止まり、アビドス自治区が過去最高支持率を叩き出して優勝したころ、彼女たちはアビドス自治区のブースへと向かいます。百鬼夜行連合の伝統儀式「道場破り」です。


「たのもーーー!!」


 片付けの進んでいるブースの前で叫びそのまま無遠慮に中へと入っていく彼女達を小柄の桃色の髪の少女が出迎えます。

 アビドス高校の責任者である自らを"おじさん"と呼ぶ少女は突然の闖入者たちである彼女達を手厚くもてなします。


「アビドススイーツの秘密を教えて欲しい」大胆かつ単刀直入のなりふり構わずな百夜堂の主の彼女にホシノと名乗るおじさん少女は「まずはこれを食べて欲しい。賄い品だけど」とスイーツを配ります。

「ミゼラブル」と呼ばれるスポンジケーキと何故か甘そうな香りのコーヒーが一人に一セットずつ配られます。

 あれだけ物産展を沸かせたのだからと期待していた予想とは違いごく普通の洋菓子に拍子抜けしてしまい、こんな普遍的なお菓子に負けてしまったのかと悔しさを滲ませつつ口の運ぶ少女たち。


「食べながら聞いて欲しいんだ。うちが今回優勝できたのは、今日の物産展の為に頑張ってくれた大切な仲間達と……」


パクンッ


「……この砂糖のおかげなんだ」


パチパチ……パチパチ……


 口に入れた瞬間、何かが口の中で暴れ身体中の神経を巡り五臓六腑を激しく犯し、脳まで到達したナニかが盛大に弾けます。目の前で星が飛び七色の眩い光に包まれたような多幸感と感じた事のない甘さが広がり脳を揺さぶります。


「こんな――こんなお菓子食べた事無い!!」


 気が付けば我を忘れ貪るように食べます。次はとなりにあるコーヒーをグイッと煽る様に飲み干します。

甘い食べ物には無糖か精々微糖のコーヒーを付け合せるのが普通、なのにそのコーヒーはまるでキヴォトス外のシャーレの先生の居た世界で黄色い細長い缶にはいってそうなコーヒーにように濃厚な甘みのあるコーヒーでした。

 ヒトの味覚を一瞬で破壊するレベルの甘みと甘みの暴力。通常なら料理を台無しにするぶつかり合う甘みが見事に調和し溶け合っていたのです。

 脳を焼かれ、口元がベトベトになるのも構わず貪り続ける彼女たちを優しく見守るホシノ。

 すべてを終えた少女達は足元に縋りつくように懇願します。


 この砂糖が欲しい――、この砂糖を自分達も使いたいと――。


 


 物産展からの帰り道。少女達は逸る気持ちを抑えきれないと言った感じで足を進めます。

 あの哀願をホシノと言う少女は嫌な顔一つせず快く認めてくれました。

 それどこか「試供品だよ~」と一人に一袋ずつ砂糖の入った袋を配ってくれました。


「もし良かったたらこれから取引しようよ。百鬼夜行の皆が気に入ってくれるなら、友好の証にお安くしてあげるよ」


 彼女と連絡先を交換し、これから望めばいつでもいくらでもあの砂糖が食べられる!!

 そう思うと肩に担いだ30kg入りの分厚い紙袋も全然重たくありません。

 今日帰ってからこの砂糖でどんなものを作り食べようか、もうそれしか頭にありません。

 きっとこの砂糖が自分達を、地元の皆を、学院の皆も幸せにしてくれるだろうと疑いもしません。


 いつもよりも遠く長く感じる、でもウキウキが止まらない明るい帰り道。

 この道の先に夢と希望が溢れた明日が待っていると信じて疑わない家路。

 

 しかし彼女たちは知りませんでした、これが自分達と百鬼夜行の地を絶望と地獄の底へ叩き落す破滅の道へとなっている事を。


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