百鬼夜行ノ章─プロローグ

百鬼夜行ノ章─プロローグ




 

 百鬼夜行連合学院。

その自治区はキヴォトスの中でも屈指の観光地として活発であり、多様な店が立ち並び、毎日何かしらの祭りで人が溢れている。

古風な建物や観光名所───いわゆる和風の雰囲気が特徴であり、この地域のデザインを好む者も多いとか。

そんなこの学園の生徒は、それぞれ独自の在り方を持っている組織や団体が連合を組み、地域での活動に尽力している。


 ───さて、キヴォトスで生きているなら当然の知識をおさらいするのはこれぐらいにして。

そんな伝統深いとも言える地域においても、先の一件───『量産型アリス』の生産及び販売。そこから始まった様々な社会の変化。それらの影響は大きく受けたわけである。

もちろん好意的な結果も見られるが…そうではない意見も見られるし、きっと文面や噂では判断しきれないような事例が無数にあるだろう。

『私』は、それを知りたい。そして受け止めて、よりよくしたい。治安維持組織の一員として。あるいは───


───人と一緒に生きていく、1人のアリスとして。


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 ─百鬼夜行ノ章─


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[百鬼夜行自治区 大通り]
 

 日が落ちきり、夜に差し掛かろうとしたところ。

トンッ。

人混みの中で、ある生徒と黒いフードをかぶった少女がぶつかった。

一般生徒A「きゃっ!なに……?」

???「あ、ごめんなさい。前をよく見てなくて…」

一般生徒A「あぁ、こちらこそ……」

タッタッタッ、とそのまま少女は立ち去る。

一般生徒B「大丈夫だった?」

一般生徒A「うん。でも、あんな不思議な見た目の子初めて見たかも」

一般生徒B「そう?わりといるでしょ、ヘンな見た目の人」

一般生徒A「まあ、言えてるー」


 そんな他愛のない会話の中、叫ぶように声が聞こえた。

通行人「おい!この大通りの中に『スリ』がいるぞ!探してくれ!私の財布がないんだ!」

すぐに、道行く人々が騒ぎ始める。

「俺の財布もない!」「嘘だろ…いつの間に!」「私カード盗られた!」

現場が大混乱に陥るのはすぐだった。

一般生徒B「……!ねえ、もしかして!」

そう言われ、彼女の脳裏に先程の少女がよぎる。急いでバッグの中身を漁る。

一般生徒A「………ない、私の、財布」

一般生徒B「……まじかぁ」


 観光地であるため、普段から窃盗などには気を配っている人も多い。それを掻い潜るということは、それに慣れている「エキスパート」であるということ。

一般生徒B「どうする?警察に通報?」

一般生徒A「でも、そうこうしてる間に私のお金が───」

混乱が限界に達しそうだった、そのとき。


 からん、からん。

特徴的な音と共に、数人が駆け走ってくる。

その人らは誰もが、青々とした羽織を身に着けていた。

一般生徒A「あれは───」

一般生徒B「うん、『百花繚乱』だ」


 グループのリーダーと見られる一本角の少女が声を張って指示を出す。

 

???「直近にここを通ったのは確かだ!アタシは正面、ミクとアリス、マワリはそっちの分かれ道を探して!ナノハとユカリはここの人たちを頼む!」

「「「「了解!」〜」だわ!」ですわ!」

瞬時に散らばり行動し始めた。指示を受けたと思われる2人が、辺りの人に大声で呼びかける。

 

???「皆さ〜ん、事情は既に把握してます〜。窃盗の被害が短時間に相次いでいるので、現在百花繚乱が警察と協力して全域を捜査中で〜す」

 

???「犯人の特定のため、ご移動はなるべく控えてくださると助かりますわ!情報提供がありましたら身共たちに名乗り上げてくださいませー!」


 一般生徒B「すごい手慣れてる…流石だねー」

一般生徒A「うん……あっ!」

からん、からん。

 

彼女たちが対応に見とれているところを、2人の百花繚乱の部員が横切ろうとしていた。

一般生徒A「あっ、あの!」

???「っと。はい、どうかしましたか?」

音を鳴らしていた部員が、立ち止まって声をかける。その声は、最近様々なところで聞く声だ。

一般生徒B「…!もしかして『アリス』?」

と、彼女たちは思ったのだが。

 

???「うん、そうだよー!なんでも言ってねー!」

全く違う声で同じ体から肯定される。

一般生徒B「えっ……あ、そう、なんだ……」

一般生徒A「????」

もう1人の生徒とともに困惑に苛まれる。

しかし、それをかき消すようにもう1人の部員が駆けつけた。


 

 ???「どうかしたかしら、ミク、アリス?」

???「あっ、マワリ様!なんかこの人が話したいことがあるみたい!」

一般生徒A「あっ…えっと、私、犯人を見たかもしれなくて!黒いフードをかけた、私よりちょっと背が低い女の子…?です!」

その発言に、目の前の2人……いや、3人?は目を丸くした。

???「!本当ですか!?」

一般生徒B「あっ!はい!その人が通ってから明らかに様子がおかしくなったので、間違いないです!私も保証します!」

???「どの方向に向かったかとかって、わかる?」

一般生徒A「あっちです!」

???「……了解です。アリスちゃん、記録は?」「バッチリやってるよ!」「ありがとうございます、手伝いますね」

彼女が指を指すと、目の前の人───どうやら2人分の意識があるらしい人は、素早く何かを操作した。

???「……よし!レンゲにも伝えられたわ!ワタシたちも追うのだわ、2人とも!」

???「「了解!」」


 そうして走り出す前に、その人は振り向いて言った。

???「少しだけ待っていてくださいね」「絶対取り返してくるよ!」

一般生徒A「は、はい…お願いします!」

そう応えると彼女たちは笑顔で返し、目にも留まらぬ速さで駆けていった。


 一般生徒B「……不思議な人たち、だったね」

一般生徒A「う、うん………」

先程の嵐のようにやってきた人たちを、全員変わった人たちだな、と思い返す。

一般生徒A「………でも」

一般生徒B「……でも?」

一般生徒A「すごくかっこよかった」

一般生徒B「わかる」

百花繚乱の奮闘を願いつつ、彼女たちは待つことにした。


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[百鬼夜行自治区 裏通り]

 ???「お疲れ様だわ、2人とも!」

任務を一通り終えた私たちを労うように、百花繚乱所属の2年生、マワリ様が飲み物を抱えて話しかける。

ミク「マワリ様こそ、お疲れ様です」

アリス「逃走ルートを片っ端から塞ぐなんて私もそうそうできないよー?流石先輩だね!」

マワリ「いやいや、建物の屋根を伝って追跡する、なんて無茶をやってのけた2人のおかげなのだわ!」


 ユカリ「ミクさーん!アリスさーん!マワリせんぱーい!」

???「おつかれさまー」

同じく2年生のナノハ様と既に馴染みのあるユカリ様が、通行人の誘導を終えてやってきた。

ユカリ「相変わらずテキパキとした誘導でしたわ、ナノハ先輩!」

ナノハ「まー、これぐらいしか得意なことないからね〜」

マワリ「それ、ワタシの前でよく言えるのだわ……」

マワリ様とナノハ様は、前にあった百花繚乱の解散宣言の前からバディを組んで活動しているらしい。優しくて仕事のできる、尊敬すべき先輩たちだ。最近よく一緒に活動させてもらっている。


 レンゲ「……っよし、これで最後、かっ!」ドサッ。

レンゲ様が何かを布にくるんで背負ってきた。中を覗くと、黒いフードをかぶった、うり二つの少女たちが見えた。全員気絶している。

ミク「……あの、もうちょっと丁寧に運んだりとか……」

レンゲ「あっ、ごめんごめん!なるべく傷つけないようにはしたからさ!」

マワリ「相変わらずなのだわ、レンゲ……」

ナノハ「ぶきよー……」

レンゲ「も、もうやめてってば!」


 レンゲ「はあ…それで、今ので全員確保できた、ってことでいいんだな?」

ミク「はい。私たちが感知できた範囲では」

アリス「だいぶ広範囲に調べたから、少なくとも実行犯はこれで全員だと思うよ!」

ユカリ「さすがですわ!……しかし、ミクさんとアリスさんが『感知』できたということは───」

アリス「その話なんだけど……思ったより深刻かも」


 レンゲ「ん、なんだ?いわゆる『野良アリス』ってやつらじゃないのか?」

ミク「それはそう…かもしれませんが、厳密にはもっと複雑かと───とりあえず、こちらを」

そう言って私たちは並べて横にされているアリスたちの内、何体かのフードをめくった。

ミク「例えば、この目のパーツ…瞳孔の元の大きさが全く違います。あと肌質も…触ってもらうと分かりますけど、1人1人全然違うんですよ」

ナノハ「でも、いくら高性能って言っても、パーツの買い替えとか修理があるんでしょ?アリスごとの個性みたいなものじゃないー?」

ミク「……その範疇に収まらないほど、エンジニア部の方々が造ったパーツにしては誤差が大きすぎるように見えて。まるで『製造段階から素材が1人1人別である』かのようなんです」

アリス「でも、そういう要素がないと私たちでも見分けがつかないぐらいにはそっくりなんだよね!つまり、『正規品にしては粗いけれど、模造品にしては精巧すぎる』ってこと!」


 マワリ「……もしかして……」

アリス「うん、怪しいと思ってこの子たちの製造情報を直接抜き取らせてもらって、ミレニアムの人たちに解析してもらったの!」

ミク「その結果、このアリスたちは全員、『正しい製造方法』で『非正規』に造られた───判断基準に基づくなら、『海賊版アリス』に該当するアリスたちです。

───さっきレンゲ様が運んできたアリスたちも、そうである可能性が高いです」


 ガサッ。

そこまで話したとき、背後から雑音が響いた。振り返ると、気絶していたアリスのうちの1体が再び動こうとしている。

ミク「……!?想定よりずっと早い…!」

レンゲ「海賊版、ってことは造った奴らが何か改造でもしたんだろ。戦闘の心得もあるみたいだし。下がってて、私がやる!」

それぞれが臨戦態勢をとる。

海賊版アリス「………くっ」

それを見て、相手も敵意を露わにしていた。



 ────が。

海賊版アリス「……え?まさか───」

彼女が私の顔を見るなり、一気に雰囲気が変わる。

ダッ!

レンゲ「っ、まずい!ミク、アリス!」

そして一気にこちらへ駆け出してきて───


 ガシッ!

手を握られる。

海賊版アリス「あ、あのっ!もしかして、あなたも『アリス』ですか!?」

ミク「えっ…!?は、はい……?」

海賊版アリス「正規品の!?」

アリス「……うん、見た目はアレだけど正規品だよ?証拠も出せるけど、いる?」

そう答えると、彼女の体から安堵したかのように力が抜けていく。咄嗟に体を受け止めた。

39号「「…!大丈夫!?」」

海賊版アリス「…………おねがい、です……みんなを、たすけ……て………」

と、声が途切れていき、やがて動かなくなる。

ユカリ「あ、あの!その方はご無事なのでしょうか!」

アリス「……うん、システムが緊急停止しただけみたい。損傷した箇所を直せば問題ないはず!」

マワリ「よ、良かったわ……」


 レンゲ「……うーん、どうする?本来の任務は犯人を捕らえて引き渡すことだけど───」

ナノハ「『アリス』の話となれば、事情も違いそうだね〜。ミクとアリスもいるし、介入できそうではあるよー」

ミク「……………」

ここで彼女たちを引き渡して、後を任せることもできる。だけど。

ミク「『たすけて』と、お願いされました。一度この子たちを保護して、話を聞きたいです」

アリス「うん!やろうやろう!」

そう言うと、皆さんが笑顔を返した。

レンゲ「よし!アタシも同じ意見だ!マワリ、報告を頼むよ!ユカリとナノハは盗難物の管理をお願い!アタシたちはこの子たちを運ぶ!」

「「「「了解!」〜」だわ!」ですわ!」





To be continued…




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