百花繚乱・花盗人

百花繚乱・花盗人


・安定の捏造

・最後にちょっと香る程度のホラー?(怖くない)

・何でも許せる人向け



それは、夕食後の食堂でタブレットを見ていた潔世一を見つけた剣城斬鉄が話しかけたことが切っ掛けになった。

「楽しそうに何を見ているんだ?」

「ん?ああ、この時の蜂楽のサッカーをな」

「ふむ。良かったら、彼の何処が好きなのか教えてくれ。よければ、他の選手のも」

「俺の解釈でよければ。本当に合ってるかはわからないよ」

「お前の意見を聞きたいし、お前が見ている世界を知りたい」

2人でタブレットを覗きつつ潔世一が此処が好きだと話し、斬鉄が解説を求め更に詳しく説明されるという素直と天然のコンビネーションによって凄まじい破壊力を産んだ。机に突っ伏す者、顔を覆う者、純粋に喜ぶ者、逆ギレのように睨む者、観察眼に感心する者と反応は様々だが、まさに墓場、死屍累々の様相を呈している。勿論自分の出番が来る前に止めようとした者達もいるが、聖域とみて見守る者、潔世一の自分への評価を聞きたがる者、死なば諸共と道連れにする者達の無言の連携であるディフェンスを突破できなかったのだ。その協力と連携を試合でやれよツッコミを入れる者はいなかった。

潔世一の声色が、愛おしむ様に口にするその様が、何処か睦ごとを想起させるような、はたまた、普段はひっそりと仕舞い込んでいる宝物を自慢する様で聞いている者達は凄くくすぐったく感じたのも原因だろう。

「蜂楽はドリブルが凄い!本当にボールと一体化してるんだぜ。自分の外にあるイメージと自分の体の大きさがぴったり一致しているんだろうな、だから見てなくともボールを自由自在に操れる」

「千切は何といっても足が速いんだけどそれだけじゃなくて、勝負所の嗅覚も良いし、本が好きって言ってるだけあって客観的に言語化するのが上手い!それに勝負には須らく全力なのもすげえ良い!」

「國神は筋肉が生きてる。本当に力の伝わり方が滑らかで、まるで筋の一本一本が全て連動している様なんだ。相手の武器に合わせたアドバイスもできるから、筋肉を動かすイメージでは深い理解があるんだと思う」

「雷市はすっげえ真面目で責任感がある所が本当に頼りになる。自分の仕事を投げ出すことはしないし、冷静で周囲をよく見て自分ができることを冷静に判断してる」

「我牙丸は全身がバネだし、反射が速い。國神とはまた別の意味で体の使い方を熟知しているというか、フィールドや状況に合わせた体の使い方が上手い」

「イガグリは真っ直ぐだし、何だかんだですげえ精神的に安定してる。アイツのマリーシアはオレでも再現は難しいし、ぶつかってこられた時の流し方と見せ方が上手いんだろうな」

「馬狼はマジで王!って感じ。真面目でやることはやるけど、定型に収まることはなくて向上心の塊だし、新たなことをやるときに周囲が信頼を持ってついてくるのは一つの求心力の形だよな」

「二子は眼が良いし、プレーも頭脳派だ。年齢的に小柄なのは仕方ないなんて言い訳させない武器の使い方が出来てる。イタリアチームでDFでスタメン勝ち取ってんだぜ?」

「鰐間は得点力が高い。コンビネーションプレイも上手いから、動きが合う相手と組まれると厄介だ」

「凪はマジで天才なんだろうな。トラップは一番だと思う。動きに無駄がない。蜂楽とはまた違った意味で自分の体を理解しているんだろうな。ボールと自分の体の位置を正確に把握できている」

「玲王は視野が広いっつーの?主観と客観を両立できてる。これだけでも、すごく難しいのに、そこから得た情報の処理が速くて正確だ」

「斬鉄は足の速さもだけど、加速に至れる反射が速い。誠実で全力だからこそ、油断がないから抜くのは大変」

「凛は本当に綺麗。あのシュートの放物線もだけど、相手の全力を出させて勝負するって言うのは全部の実力が均等に高くないと出来ないことだからな」

「時光はスタミナとフィジカルかな。クイックネスが桁違い。走り回れてチャージやれるって試合の後半になればなるほど強くなっていくから」

「オシャは空中戦が強い。手足のリーチが長いんだけど、それらの使い方を体で覚えているって感じ。無駄な力が削ぎ落された美しさって言うのかな?」

「士道はオーバーヘッドとかの動きや脚の振り上げとかを見てたら、重力に対する動きってのが分かってる気がする。足首の角度とボールの回転を捕らえて正しく力を伝えられるからPA内のシュートが段違いなんだろうな」

「烏はハンドワークとフェイント技術。後、玲王とは別の意味で視野が広い。フィールド上の全員の動きを把握してどこに動くべきかを判断できる。声出しして意図を明示するのも凄いタイミングとか上手いから、動きを時間軸でとらえるのも上手いんだろうな」

「乙夜はオフ・ザ・ボールがすげえいやらしい。忍者だからかな?意識の外や端を突くのが上手いって言うの?」

「雪宮はドリブルが上手い。相手を抜いていく突破力って言うのかな。ジャイロシュートも上手いから足首使い方が士道とは別技能で分かってるんだろうな」

「黒名は動きが良い。パスコースと敵味方の位置を読んで必要とされるところに動く能力が高いから、パスが通りやすい」

「氷織は視界とパスが繊細で鋭い。俺と視界が合うって言うのかな?パスコースの道中やその先を読む力が精確なんだと思う」

「七星は恐れが少ないって言うのかな?斬鉄とは別の意味で誠実だからこそ、相手を良く見て喰らい付こうとしている」

この動きやあの動き、これはコイツがアイツからパスを受け取った所で此処に他の選手がいることを把握できているからこの動きになってと、一人づつの動きの前後を短く解説しつつ褒めちぎっていく。

「流石俺の相棒!オレの事よくわかってんじゃん!」「後でよしよししてやらねえとな」「あれはアイツのために言ったんじゃねえ…」「オレのセクシーさはどうしたんだよ!」「山の動きを褒められるのは嬉しい」「南無三!沈まれ俺の煩悩!」「あんの下手くそが…!!言いたい放題言いやがって」「小柄を言い訳にはさせませんから」「…」「俺、そうなんだ?考えたこともなかった」「情報収集と判断はビジネスでも重要な武器なんだぜ?」「難しいが、褒められるのは嬉しいな」「ふん。ぬりい」「お、オレ、そんなことないよ」「ふむ。実にオシャ」「潔ちゃーん!よくわかってんじゃーん!!」「凡やのに…凡の癖に…」「忍者の本領発揮ってね」「ふふ、潔君は本当に良く視てるね」「恐悦至極。光栄、光栄」「読みあっての僕らやからね」「嬉しいべ!」

話題に出たものを揶揄いつつ、自分の話題に撃沈しつつ、からかわれたものがそれを見て反撃しつつ、止める者はいなかった。一通りの解説が終わったところで、斬鉄が更なる爆弾を投げる。

「うむ。潔は凄く人の事を良く視ているな。元U-20の選手達やマスター達、海外の選手はどうだ?」

感心したように解説を聞いていた海外組や元U-20の選手達が急に放たれたキラーパスに慌てふためく。気恥ずかしいのは避けたいが、名を挙げられたBLメンバーを羨ましいと思っていたことも事実だったので二律背反に自縛されて動けない。そもそも、ここで動けるようなら初めから話を聞いていないので、ある意味自業自得である。順番が回ってきたといったところだ。

一刻も経たずに灰塵と化した食堂で、己が屍を潔世一にはみられたくないと根性で場から辞した者達を見送りつつ、二子が斬鉄を迎えに行く。潔世一はドイツ棟のブルーロックスが鉄壁のスクラムを組んで横やりを入れさせる予兆すら許さずに連れて帰った。だからその連携を試合でやれ。

「斬鉄君、潔君の事どう思います?」

「ああ。本当に人を良く視ている」

「ええ、凄いd」

「人でなしだな」

「え」

まさか、斬鉄からそのような評価が出るとは想像も出来ず、二子は固まる。だが、言葉の意味の強さとは裏腹に、斬鉄はそれを悪い意味で使っていないような口調だった。

「その場に生きていながら、そこにいない。いつでも其処に返ることができるから、未来の変容を見据えている」

「斬鉄君、何の動画を見たんですか?」

「動画はみていないぞ?全部写真だ」

意味を理解して、二子はぞっとした。全ての写真の、前後を時間軸と空間軸で記憶しているというのか、潔世一は。いつでも頭の中で、過去を立体的に、自分がその場にいるようにシミュレーションできるのか。

「サッカーにおいては、過去の自分を超えない限り潔世一の中の自分は更新されない。ずっと最高地点でしか認識されない。完全にピッチの内外で、サッカーに関わらない項目は背景でも性格でも人格でも全て完全に別けて評価している。己の感情すら斟酌せず」

「…それは確かに人でなしですね」

何時までも綺麗な自分が彼の中にいると言えば聞こえはいいが、過去の自分を見られて今の自分をスルーされているという事である。自分達にもプライドがあり、自分を含めたブルーロックスが己を絶え間なく磨いている理由はそれぞれ己が主軸で、彼が全てなどと宣うつもり毛頭はない。しかし、確かに原動力の一つである彼に向ける執着はこういった部分を本能的に感じ取っているからなのかもしれない。

ふと、二子はいつぞやに耳にした潔世一の誕生日について思いを馳せる。そして、有名なフレーズが頭に思い浮かんだ。

 

(彼は春の生まれでしたね。春と言えば桜)

 

満開の桜の木の下には死体が眠っているという。

なれば、芽吹いた才能である潔世一の瞼の下には------何が眠っているのだろうか。

 


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