白と紅
四月。
自分のクラスはどこだろうかと掲示板へ向かうと、当然だが先客がいた。
ふわふわくるくるとした長い金髪の女子生徒。染めているのだろうか。少なくとも、自分とは関わることはないだろう人間。
その金髪が不意に振り向いた時、バチリと目が合う。
「あっ、ごめんなさい」
訛りのある言葉。彼女はそっと掲示板の左端から右へと体を避けた。
とりあえずその隣に立って、一組から自分の名前を探していると、金髪の女子生徒があっ、と声を上げた。
「みーっけた! 三組……」
思わずそちらを見ると、また目が合った。自分の名前を見つけただろう金髪の女子生徒は、こちらに少し会釈してから校舎へと消えていった。
それから名前探しを再開して、自分のクラスを見つけた。
「……三組」
奇しくも、先程の金髪と同じクラスだった。
**
まさか入学早々席替えをするとは思わなかった。出席番号順に呼ばれてクジを引き、席を移動する。
「あ、あン時の」
そして隣の席になったのは、あの時の金髪の少女だった。向こうも掲示板前でのことは覚えているようだ。
「ヨロシク」
「ああ……どうも」
苦手なタイプだと思う。隣席になったからといって何かあるわけでもない。
ふと、隣席をチラリと見る。
——へぇ。
机の上に置いてあったノートの表紙に記されている彼女が書いたものと思しき文字は、綺麗で整った文字だった。
——意外と綺麗な字だ。
——平子、撫子……。
そっと視線を戻す。どうせこれから話すこともないだろう。
そうして、一学期が始まった。
**
このクラスには霊力が強い生徒が多い。黒崎一護という生徒は特に。
しかし、隣席の平子撫子という生徒は真逆だ。確かな強い霊力を感じるのに、不自然な程に抑えられているようだ。
霊絡を視ると、その色は白い。
——霊力が少し不自然だけど……彼女は人間だ。
合わないタイプの人間かと思えば、そうでもなかった。
勉強が凄くできるタイプとは言えないが頭の回転が速く、教えればすぐ理解する。元々聡いのだろう。ただ、時折知識が古いことがある。
そんな彼女と話すのは意外と楽しかった。
最も、話す頻度はそう多くない。授業のことで分からない箇所を訊かれたり、他愛もない話を少しするだけ。
視界の端で金色が翻る。
「ごめん石田くん、さっきの授業のなんやけど——」
**
下校中、虚の霊圧を感じてそこに向かうと、見知った金色が歩いていた。
平子さん。
——まずい……!
平子さんの歩いている先に、虚が居た。
霊力で弓を構築しようとする。ただの人間に虚は脅威だ。そして、その虚の狙いは明らかに平子さんだった。
そのまま虚に気づかずに平子さんは——いや。
——! 止まった!? まさか見えているのか!?
歩を止めた平子さんは虚を見上げて、右手を虚に向けた。すると、平子さんの霊絡が白から紅へと変化していく。
——霊絡が、紅く……!?
「破道の三十三、蒼火墜」
平子さんの右手から放たれた炎は、虚を焼き尽くした。
虚が消えると、平子さんは何事もなかったかのようにそのまま歩き出し、この場から去った。
彼女の霊絡は、白だったはずだ。
けれど今、確かに死神と同じ紅に染まった霊絡を視た。
一体何者なのかと、疑念が心に残った。
娘ちゃんは見られていたことにギリ気付いてない