男同士の約束
アラバスタ民空が夕焼けに染まり、国の周辺を覆う砂漠もオレンジ色に映る時間帯
アラバスタの兵士であるルフィは街の外れである男に呼び出されていた。突然の連絡であったためしばし戸惑ったが、この後さして予定もなかったため、男の呼びかけに応じることにしたのだ。男は、神妙な顔つきで待ち伏せていた。
「突然呼び出してすまなかったな。初めまして、麦わらのルフィ」
「.....別にいいけどよ、お前誰だ?」
「おれはコーザ。この国の役人をやっている。元反乱軍のリーダーでビビとは昔からの........友達だ」
「おぉビビの友達か!あん時は会う機会がなかったからなー。事情があってあんまりこの国に長くはいられないけど、これからよろしくな!」
「.......その前に言っておきたいことがある。悪いとは思うが、歯を食いしばれ」
「?」
瞬間、コーザはルフィの頬を思い切り殴りつけた。ゴム人間であるルフィには常人の殴打などさして効果はないが、唐突であったため大きくよろめいてしまう。
「どの面下げてアラバスタに来たんだ?仲間も連れずにたった一人で。返答次第ではおれはお前を決して許さない」
「.......仲間を失くして、色々あって兄ちゃんを亡くして.......、ビビに無性に会いたくなって死ぬ覚悟でここに来た。久しぶりに会ったらお腹におれとの子供がいるって聞いてよ.......だから、ビビとその子を守るためにコブラのおっさんに頼み込んで、兵士になったんだ」
「.......そうか。やっぱりお前だったのか。あの時国を救ってくれたのも、あいつがしばらく乗ってたっていう海賊船の船長も、..............あいつが惚れた男も」
「..............」
「あの戦いの後、国王と和解しようやく国が復興してきたところで、ビビが妊娠したって話を聞いて.......相手は誰だと聞いたら世間を賑わしてる億越えの賞金首っていうじゃないか。おれは今すぐそいつを八つ裂きにしてやりたいと思ったが、止めたのは他でもないビビだった」
「お前、お腹の子のためにもどっかの国の王子と婚約しようって話が立ち上がったときあいつがなんて言ったか知ってるか?「彼以外を夫に選ぶなら、私は死を選ぶわ」って言いきったんだよ」
「ビビ.......」
「なあ!?お前にわかるのか!?十年以上惚れていた.......大切に思っていた親友をどこの誰ともわからない奴にかっさらわれた気持ちが!!
あいつやこの国にとって、おれ達にとってもお前は恩人だし、おれの言うことがただの八つ当たりだってのもわかってる!!でもおれは..............はいそうですかと割り切れないんだよ!!!」
「..............お前の言うことも、少しはわかるよ」
「何を.......」
「おれにも昔、よく遊んでた女の友達がいてさ。そいつとは訳あって離れ離れになっちまって、今はどうしてるのかもわかんねぇけど、もし知らねぇ誰かに手を出されたなんて話を聞いたら、おれもお前みたいになるかもしれねぇよ」
「麦わら.......」
「それにおれは海賊だからな。今のままじゃどうあってもビビと一緒になることはできねえし、それが許される立場でもねぇ」
「じゃあ海賊をやめて、ずっとここで兵士をやればいいだろ」
「それもできねぇ。仲間達をおいておれだけ逃げるわけにはいかねぇよ」
「仲間と惚れた女どっちが大事なんだ!」
「両方に決まってんだろ!どっちも守り抜くために、おれはいずれここを出て海賊王になるんだよ!それがビビとの約束でもあるしな」
「.......なんだよそれ。随分と勝手な奴だ」
「だからこの先おれがいなくなった後、お前もビビ達のことをを守ってくれねえか?ビビと長年の友達だったなら、こんなに信じられる奴はいねえよ。約束してくれ!そのためならおれは何でもする!」
「..............ったく。それでおれが断れる訳ないだろ.......本当に身勝手な奴だ」
「おぉ!!ありがとな!!コーザ!」
「だがおれとも一つ約束しろ。そこまでいうなら絶対に海賊王になって、再びこの国に来る日まで死ぬな。もしくだらねぇ死に方したらおれは一生お前を許さねぇからな」
「わかった!男同士の約束だ!絶対に果たす!」
こうしてのちの海賊王とアラバスタ王国環境大臣との間に、一つの奇妙な絆が芽生えたのであった。