産卵鰐と僅かな感傷

産卵鰐と僅かな感傷


※直接的な性描写はないけど特殊性癖(産卵)のため閲覧注意

※過去捏造(昔の男がいる描写)あり。右手の薬指だけ指輪してないのが悪いよ

※なんでも許せる方向け


それはサー・クロコダイルがミホークやバギーとクロスギルドを設立してからしばらくしたある日の昼下がりのこと、彼は数ヶ月ぶりに嫌な感覚を覚えた。何かが身体の内側を圧迫しているような不快感、下腹部をぎりぎりと締め付けられるような鈍い痛み…並の人間なら思わず顔をしかめその場から動けなくなってしまうことだろう、しかし彼は元王下七武海にして現在は20億ベリー近い懸賞金をかけられた(不本意ながら)現四皇最高幹部であり、インペルダウンの”地獄のぬるま湯”でも顔色一つ変えなかった男である。近くを歩いていたクロスギルドの構成員(バギーの部下と同義である)にこれからやる予定の話し合いは後日にすると鷹の目とバギーに伝えておけと伝言を残し、傍目からは何も変わりなく見える様子で自室へと引き返した。


しばらく歩いて自室に戻る頃には腹痛はより酷くなっていた。流石のクロコダイルといえど既に平常を装うのは厳しくなったとみえ、部屋に滑り込むやいなや腹を押さえて覚束ない足取りでベッドに倒れ込んだ。

「はァ…ッ……クソッ……」

このふざけた体質と付き合いだしてからもう何年になるだろうか。このせいで何度下劣なからかいを受けたことか。身体の苦しさに加え、過去の忌々しい記憶まで思い出してしまったせいで思わず眉間に深い皺を寄せながらも彼は襟を緩めて首元を楽にしつつ、ベッドの上で履いていたものを脱ぎ下半身を露わにした。普段は一分の隙も無い着こなしで隠されているその引き締まった腹は、服越しからではまず気付かないほど微かに膨らんでいる。

驚くべきことに、今の彼の腹の中には卵殻を備えた卵が入っている。宿命と言うべきか呪いと言うべきか、クロコダイル……すなわち鰐という卵生動物の名を持ってしまったが故に、れっきとした人間であり男である彼の体内では定期的に卵が作られそれを産まねばならない羽目になってしまったのである。


苦しみながらもシーツを汚さないようタオルを敷いて座り込むと、クロコダイルは自分の身を苛む苦痛から解放されるべく足を開いて下腹部に力を込めた。途端に激痛が走る。

「~~~~~ッぐ、ぅ」

卵が卵管を通る時の、大きく固いものが内臓を押しつぶすようなこの痛みは何度やっても慣れない。しかし産まないことには苦しみは減るどころか増えるばかりである。身体にも悪い。苦しさに顔を歪めながらも腹の中のそれを体外に押し出さんとした。

「……ッうぅ……はァ…ッ痛……ッ!!!」

みちり、と卵が出口をこじ開けんとする。クロコダイルはあまりの痛さに思わずうめき声をあげ、シーツをぎゅっと掴んだ。身長253cmの巨躯を持つ彼が産む卵は一般的な鳥や爬虫類のそれより遥かに大きい。そんなものを身体から出そうとするのだから痛いのは至極当然である。卵はぎちぎちと小さな穴を押し広げて外へと産み落とされんとし、彼は悲鳴にも近い声をあげてしまう。


1時間近くにも及ぶ死闘の末やがてぬるり、と卵が外に出きるとクロコダイルは脱力してぐったりとベッドに横たわった。先程までの痛みから解放され少しぼんやりとしつつ、彼はたった今産み落としたばかりの卵を手に取った。ほんの少し前まで自らの腹の中にあったそれは体液でねっとりと濡れている。右手で触れると水気が消え表面はさらりと乾いた。そのまま右手で卵を掴んで胸元近くまで持っていき、両腕で抱えるようにしながら再び彼はベッドに寝転んだ。


卵を産んだ後、いつもクロコダイルは身体の怠さを覚えながらしばらくの間卵を温めるようにして眠る。そうする理由は彼自身もよくわからない。無精卵(まぐわっていないのだから当然だ)など温めても何の意味もないことは頭ではわかっているし、仮に有精卵だったところで温めて孵しても面倒なことになるのはわかりきっているのでどっちみち本来は温める理由など無い。それなのにいつも温めてしまうのはきっと理屈を超えた本能のようなものなのだろう、となんとなく結論づけている。


いや、と彼は思い直した。もしこれが”アイツ”との間にできた卵だとしたら、それでも本当におれは孵さないという選択肢を取れただろうか。もしかしたらこのまま卵を抱き続けて温めて孵してしまうこともありえたのではないか。薬指だけ指輪を嵌めていない右手で白く固い卵を撫でながら考える。しかしすぐにそれは下らない感傷だと切り捨てた。終わったことを考えたところで何になる。くは、と一瞬でもつまらない考えに浸った自分を笑いながら、クロコダイルは卵を一握りの砂に変えて窓の外に飛ばした。


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