現実も大事
「ウタ…んっ」
そう短く言って、ベッドの上に座って両手を広げているルフィに、作曲もキリよく進んだのでペンを置いてなんの警戒もなくウタは近寄った。
「?なに?」
「いいから、ほら」
「ええ…」
そうもう一度腕を広げられたので、よく分からないが素直にウタもベッドに上がり、ルフィの膝上に乗ると、そのままルフィはウタを抱える様に腕を閉じた。
「急にどうしたの?なんだか甘えたくなったとか?」
「んー、ちょっとした検証ってやつだ」
「検証?何を試すのよ?」
「最近お前、羽触ると気持ちよくなってたりしただろ?」
「ゔ…そうだけど、あれはもう、そういうものじゃないの?」
ルフィが触り心地を気に入った事でよく触る様になったウタワールド内でウタが生やしている羽……今では、すっかり一種の性感帯の様に敏感な場所である事が分かってしまってるのだが、自分で触るのは難しい上に触れてもルフィに触られた時とは何か違って物足りない為に、ウタの方からルフィに疼きを鎮めてもらう事もあった。
「チョッパーの本で偶々見ただけなんだけどな。よいしょっと」
「え!?ちょ…なにも見えないよ…?」
「そりゃ目隠ししてるからな」
シュル…と布の擦れる音と共に視界が塞がれる。ルフィに変わらず抱えられたままである為、恐怖はさほどではないが、これから一体何をされるのだと不安は鎌首をもたげていた。
「い、痛いのとか、やだよ?」
「そんな事しねェって……ウタ、今から触るところどこか分かるか?」
「え、ひゃっ…か、肩…?」
冷気に晒された肌に触れられた部分に熱と普段は気にもしない様なルフィの手の細かな感触に大袈裟に肩を跳ねさせてウタはそれから、されるがままにルフィの質問に答えていった。というか、こうなったらルフィの好きにさせる他ないと抵抗を諦めたというのが正しい。
「ね、え…ぅ…擽ったい……」
「まあもうちょっと待てって」
とはいえ、肩以外に頸、肘、手首に指先…なんともない場所とはいえ、目隠しをされていると集中して感覚を拾ってしまうからか擽ったくて堪らず身を捩ってしまう。
その為触りにくいとでも思われてしまったか、ルフィのゴムの腕をお腹の辺りにぐるぐると巻かれて逃げられなくされてしまったが、擽ったいものは仕方ないじゃないかとウタはムズムズとした感覚を蓄積させていくしかなかった。それから少しして、ルフィが触れるのは背中の辺りに移行する。
「ここは?」
「ふ、くっ…ん……ろ、肋骨?」
脇腹、というには上で、脇というには下過ぎる位置だ。その場所を、まるで上から骨と骨の隙間でも撫でる様にスルリと動くルフィの手に思わず身体を丸めてしまう。
「ふひゃ、ま、や……それ、や…だ」
「もうちょいな…ここは?」
「くんっ…や、せな、か…や、ぁ…」
指の背で下から上へとゆっくり撫で上げられる様に触られて、ゾワゾワする。不思議とこの感覚を知っている。でもそれは…現実世界ではなかったはずのものだ。
「ね、ぇ……ルフィ…も、いいでしょ…?そろそっ、ろぉ…!やめ、てぇ…!」
「ウタ」
嫌な予感がする。そう思う程その声はあまりにいつも通りなのに、何故か部屋によく響いた。
「ここ、分かるか」
「ッ!?」
グリ、と軽く親指で押された感覚…目隠しされているのに確実に目の前を走ったスパーク。間違いなく、最近よく知るもので…でもそれはあり得なくて…
「にゃ、で…な、んでェ…?」
「分かるか?ウタ、なあ?」
「ひっ、アッ!?な、なん…!…そんなっおか、ひ…ぅあ!?」
信じられない。そう思うのに間違えようのない感覚がルフィの指が動く度に確信になって、余計に鋭敏にその場所の熱を拾い上げていく。
「言えないか?」
「っ…ね…つけ、ねぇ…!はねの、つけねのとこぉ…!!あ、ぅ、なんれぇ…!?」
ここは現実だ、ウタワールドじゃない。だから当たり前だが羽なんかない。なのにその快感は確かにウタワールドの自分が善がって鳴いてしまっていたもので…
なんで?なんで?と頭に疑問符ばかり浮かんでは強制的に漂白される。
「あー、やっぱりか」
「や、わり…っ?にゃにが…ぁ…ぅんっ」
「検証…とりあえずは終わった!…で、ウタ、多分物足んなくなっちまっただろ?」
このまましてやるよ
吐息に期待が混ざってしまうが、ゾクリと寒気が走ったのも事実だった。
「やだ…!やぁ、まっへ…あ゛、こんな…おかし…って!へん、ら…ぅ…よぉ…!」
「大丈夫だ、おかしくはねェ…ほらウタ、これ好きだろ」
「んぁああっ…♡な、へ…?ぁんっ、うそ…で、しょ…?!」
おかしい、おかしい、なんで?能力なんて使ってない。なのに無い羽の感覚がして、気持ちいい。
普段のウタワールドと現実のリンクで二つ分の気持ちよさを味わっている時とは違って目隠しをして、その分情報が快楽に集中していて…遜色なく暴力的な熱が燃え上がって来ているのは事実だ。だけど…
「やらっやらぁ…!♡るふぃっ、これ、やあ…!♡」
「大丈夫、ちゃんと気持ちよくすっから」
「そういうっ…こと、じゃ、にゃ…!ぅあんっ♡…やなの、これ…♡だって、へん、だよぉ…!ないばしょ、で…ぁ!♡こんら…あぅ、んー…!♡」
逃げたい。今すぐ振り切りたい。なのにルフィの腕が巻き付いてて逃げられない。手を使って退かそうとしてもゴムの柔らかい腕をいくら引っ張っても意味はない。
しかし抵抗がよくなかったか、腕までぐるぐる巻きにされてしまう。とうとう対抗手段が無くなった。
子供みたいに、いやいやと首を横に振って声を出さない様にしても、我慢出来ない。というか、ウタワールドで誰も聞いてないのを良いことに我慢しないで声を出していた分、上手く制御出来ない。
目隠しの布が、涙を吸って気持ち悪い。でもそれ以上に身体中熱くて気持ちよくてどうしようもない。
ルフィの狭い腕の中で、喘いで、跳ねて、のけ反って…きっと側から見たらすごい滑稽な事になっている。
でも無理だ…頭がぷちんと上手く動かなくなって、飛んでるみたいにフワフワして…
「ぁ、あー…♡…しょっ、それ、ひゅき…も、ろ…!つよ、くっ、んああっ♡」
もう自分から乞うている。ダメだ、何も出来ない。
何も見えない、動けない、防音の効いたこの部屋じゃ、ルフィと自分の出す音と声しか聞こえない。
あまりに不自由で、ウタワールドとは正反対なのに、あまりに幸福で…そんな思考のバグの様なものを修正する事も出来なくなって……
「ぁ、ふ、あー…♡…また、あっ……も、む、り…♡…る、ひ…!る、ふぃ…!♡」
「よーし、よし、大丈夫だからな。安心していいぞー…そのままいつも通りで良いからな…ウタはなぁんにも悪くないぞ」
そうか、別に自分は悪くないのか…安心していいのか。こんな風に説得力なんか無いおかしな状況でもそう言われると確かに安心する…思考の断絶の様なものが強くなってきた。多分、このまま……
「あ゛、ああっ♡…─────ッッッ♡」
そうして彼の腕の中というあまりに狭い牢の中、目隠しとは違う理由で、目の前が暗くなって、ウタは意識を失った。
「ぐすっ…ひぐ……うぇえ…」
「ウタァ…ウタさーん…」
「びぇぇえ…っ!」
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
部屋のベッドの上にはウタ…が毛布に包まって饅頭の様に丸まって泣いていた。
ルフィはベッドから降りてはいないが、饅頭になってるウタからは見えないにも関わらず深々と頭を下げて謝っていた。
「嫌って言ったァ…!!」
「はい」
「怖かったァ…!!」
「はい、はい…申し訳なく…」
「無い羽でイッたァ…もうお嫁いけない…うわぁぁん!!」
「そ、それはこちらでいつかプロポーズ付きでキチンとお迎えさせて頂きます…」
「…………………ぐすっ」
とりあえず嫁の貰い手が出来たので少し落ち着いたか、白い毛布からほんの少しだけ顔を出してきた。目隠しという蓋がなくなった為に止め処なく出たであろう涙のせいで真っ赤な目も相まってウサギの様だ。
「えっとですね…今回の事をご説明させていただきたく…」
「……ん」
発言許可も得たので、改めてルフィはちゃんと話した。
所謂【幻肢痛】と呼ばれるものをチョッパーの読んでる本を偶々覗き見した時に興味を持ってチョッパーにその場で聞いた事。
その【幻肢痛】で痛む「無くなってしまった四肢」が痛む時に宥めてあげられる技術の様なものがある事。
そしてウタがここ最近羽での行為にハマっているのに「もしこのままウタがウタワールドに入り浸ってしまう様になったらどうしよう」と原因となってしまったルフィなりに自責の念を感じて現実でも気持ちよくさせてあげられないかと試してみた事。
「…じゃあアレ、やっぱり羽はなかったんだよね?どうやったの?」
「それ話すと効き目悪くなるらしいから言わねェ」
「え゛…まさか、またやる気…?」
「ち、ちがっ…!!いや、ウタがあまりにもハマり過ぎてたら止める為の手段としては…うん」
そう気まずそうに目を逸らすルフィに対して、包まったままなので必然と上目遣いのまま、ウタは聞いた。
「もうウタワールドでも羽触ってくれないの…?」
「い、や…それは……おれとしても、触り心地良いからウタの羽触るの好きだし…その、節度!節度を守ろうってだけだ!」
「ほんと?また触ってくれる?」
「うん、だからそんな顔しないでくれ…本当に悪かったから」
そう改めて頭を下げるルフィにモゾモゾと饅頭みたいな形態から動いてルフィに近寄る。毛布から手を離して彼の首に手を回してキスをしてみた。
「ん、む…!」
「…はっ、ねぇ、ルフィ。私もね、別にルフィとただするのが嫌って訳でもないよ」
「…と、申しますと」
「いい加減敬語やめなよ…ふふ」
久しぶりに普通にシよっか。そう言われてすぐに手放した毛布の上にポフっと沈む。正直言うと、一度既に気をやってるので既に心地よく疲労感もあってこのまま寝てもおかしくないのだが…
最近は沢山触れてくれたから、今度は自分が彼に沢山触れないと
そうして羽を触られてる時は出来なかった真剣な彼の顔を眺める事をしながら、正面から抱きしめつつ、もう少し、歌わず夢の中に沈むまで彼の好きにさせてあげる事にしたのだった。