現パロ 学パロの十年後 番外編1
※会話劇。なんでも許せる方だけどうぞ。ちょっと絡むシーンが後半にあります
新年の集まり 実家に帰っている新田殿は欠席
新田殿の弟登場、楠木殿の弟の話がちらり
※新年一月二日正午ごろ、足利邸。
尊氏・直義・師泰は箱根駅伝を観戦中。
楠木「…師直殿には本当に悪いことをしたでござる」
師直「(心底嫌そうな顔)」
楠木「別に悪気があってやったわけではないのだが」
師直「悪気しかないだろうが、あれは…」
楠木「ああいう感じに出来るのが、師直殿しか居なくて。あのキャラは主人公との対比で
絶対に必要だったので」
師直「それは自分のキャラでやれ」
楠木「無理でござる」
師直「は?」
楠木「拙者のこの顔で凄むところを想像してもしっくりこない。そこまで体格も良くないし」
師直「…新田なら体格も良いし、割と精悍な顔だが」
楠木「師直殿は想像できるでござるか?義貞殿がああいう動きをするところ」
師直「……そんな頭があるとは…」
楠木「同じような感じで師泰殿も無理でござった。残るのは師直殿だけ」
師直「いや、そもそも人をモデルにしてないで一から自分で作れ」
楠木「…拙者はデビューしたときからトリックの評判は良かったが、登場人物の評判は
良くなくて。よく機械みたいと言われていた」
師直「(確かに人間味は薄かった気はするが)」
楠木「謎解きを出したい気持ちが強すぎて、人物描写がおざなりで。でも、あの青春小説は
人物の評判が良かった。きっと皆をモデルにしたから人間味が出たでござる。実物の人間の
要素を少し足すだけで、キャラが生き生きとする」
師直「それに味をしめたわけか」
楠木「しめたでござる。実際今回の話は筆が進みすぎて、過去最速の仕上がりだった」
師直「(こいつ本当にいい性格をしている)」
楠木「悪いが役者みたいなものと思ってはくれぬか。師直殿は器用だから、悪役でも
上手くこなせるでござる」
師直「あそこまでをこなせる気はしない…」
楠木「…ところで、思っていたより怒っていないようでござるな」
師直「何?怒っていないように見えるのか?」
楠木「正直会ったら即、山に埋められると思っていた」
師直「尊氏様がお前を招いたのに、そんなことが出来るわけなかろう」
楠木「本が届いた日、尊氏殿が『かなり怒っている』と話していたのでな」
師直「それは…」
楠木「だから次の日に電話が来た時は覚悟をしていたのだが…尊氏殿と直義殿の
キャラの話しかしない。あれ?と思ったでござる」
師直「何が言いたい?」
楠木「機嫌が直る何かがあったのかと」
師直「別に何も」
楠木「…へー」
師直「やはり埋めてやろうか」
楠木「おお怖い怖い」
直義「お、新田先輩の弟さん、映りましたね」
師泰「顔は似てるけど体型が全然違うな。細っこい」
尊氏「義貞は近くで見ると身体の厚みが凄いからなあ」
【ではまもなく五区ということで、昨年見事区間賞を取りました新田義助選手に
お話を伺っていきましょう】
【よろしくおねがいします】
楠木「そういえば、往路のゲスト解説だったでござるな」
師直「同じような顔なのに賢そうに見えるな…?」
直義「声もそっくりですけど、話し方がしっかりしていて印象が違いますね」
【高低差800m以上の難コースですが、ポイントはどこになるでしょうか】
【上りはもちろんきついですが、上り終わった後の下りの負担が大きいので、上手く脚の力を
温存していきたいです。今日は昨年と違って天気が良くて気温が高いので、水分補給にも
特に気をつかいたいですね】
師泰「頭のいい新田か…なんだか違和感が」
楠木「(気持ちはわかる)」
【…新田選手にお話を伺ってきましたが、最後に視聴者の皆様も気になる、お兄さんの
お話を少しお願いします】
【はい。兄とはとても仲が良いです。ちょっと歳が離れているせいか、喧嘩をしたことも
ありません。兄は僕の夢をずっと応援してくれている優しい人です。些か抜けているところは
ありますけど(笑い声)】
【今日もこの番組を見てくれていると思います(小さく手を振る)】
※アナウンサーは事前に「少しお兄さんのお話を伺ってもよろしいですか」と伝えている
「いくらでも話します」と言われたので「少しでお願いします」とこたえた
尊氏「喧嘩をしたことがないなんて、仲がいいんだな。まあ、あの義貞だしな…」
直義「長男はおっとりなんて言われますけど、新田先輩はその傾向があるかも」
師直「(あれは隠していただけで、実はかなり心に余裕がなかったようだったが…)」
師泰「(兄者には絶対ない要素だな…)」
楠木「(拙者はおっとりはしていないかな…)」
尊氏「弟が賢い…だと『愚兄賢弟』なんて言葉もあったか」
師直「…」
師泰「(兄者が一番嫌っている言葉だ。俺も嫌いだけど)」
直義「あれは弟は兄を参考にできるから、要領が良くなるみたいな感じな気もします」
尊氏「確かに手本があるのとないのでは違うな」
楠木「…拙者、その言葉嫌いでござる」
尊氏「あ、すまない正成!つい賢い弟のイメージから連想してしまって」
楠木「わあ、抱きつかなくていいでござる(酔っているのか?)昔弟がまだ小さかった頃、その
言葉を知って泣き出してしまって。『俺は兄者より全然賢くないー!』と。なんだか周りから
色々言われるから、コンプレックスがあったようで」
直義「(比べられて色々言われるのはわかる。勉強はともかく『尊氏君は脚が速かったのに』
みたいなことは何度も言われた)」
師泰「(『兄貴が才能全部持っていったんだろ』とか散々言われた)」
楠木「弟は高校生だけどあまり仲が…多感な時期だし、今はちょっと距離を置いていて」
直義「(正月に実家に帰らないのもそのせいなのか)」
尊氏「すまない正成ー!」
楠木「いや、ガチ泣きするほどのことではないでござるよ??ちょっと離して欲しいのだが…」
師直「尊氏様、少し向こうで水を飲んで落ち着いてください」
尊氏「そういえば、師直も兄だった。すまないー!」
師直「あの、抱きつかなくて良いので…師泰、手伝え」
師泰「はい」
直義・師泰「(兄の出来が良いと辛いこともある…もしかしたらその弟とは仲良く
できるかもしれない)」
※少し休んで落ち着きました
直義「今年もドラマが盛り沢山でしたね」
師泰「明日の復路も楽しみだな」
尊氏「本当にすまなかった…」
楠木「決してそこまで重い話ではないので、気にしないで欲しいでござる。
もう少し時間が経てば自然に解決されるかと」
師直「(こいつもそれなりに苦労しているのだな)」
直義「そういえばこの楠木先輩の新刊、あと一週間くらいで発売ですか。
かなりのスピードですよね」
楠木「今回は本当にスムーズでな、ある程度書き上げたものを編集に読ませたら
すぐGOサインだった」
尊氏「きっと人気になると思うぞ。本当に素晴らしい」
楠木「ジャンルが一般的ではないから、前回程は…とは思うのだが」
直義「本格ミステリーなのですが、かなり読みやすいですよ」
師泰「ハッピーエンドなのいいよな。最後に何か残るのはもやもやする」
楠木「編集に言われたでござるが、キャラがよく立っていて読者が感情移入しやすいと。
やはりコレは皆のおかげでござるな。モデルの件もそうだし、色々設定を考えてくれたし。
あと、師直殿のキャラは女性ウケしそうとも言っていた」
師直「は?どの辺が??」
楠木「悪い男は女性ウケがいいでござる。実際に居たら困るけど、創作ならというのはよくある」
師直「??その感覚はわからん…ただの迷惑男ではないか」
直義「少しわかるかもしれません。自分の力だけで自由に生きるのは難しいことですから」
師泰「確かに、積極的に敵をつくりながら生きるのはすごいことかもな。自分に自信が
あるんだろうなあ」
尊氏「…なあ、師直。あの台詞ちょっと言ってみてくれないか」
師直「あの台詞とは」
尊氏「ほら、直義に煙吹きかけて咳き込ませた後の」
師直「は?」
直義「ああ、このシーンですね」
師直「いや、本を渡されても…というかこんなの言えません」
尊氏「頼む、どうしても聞いてみたい」
直義「私も聞いてみたいですね。ほら、私の顎に手をやって」
師直「…ちょっとこれは厳しいのですが。失礼すぎる」
尊氏「演技だから。役者になったイメージでやってみてくれ」
師直「ええ…」
師直「『向こうでお兄ちゃんと遊んでな、坊や』」
尊氏・直義・師泰・楠木「……」
直義「…ときめきました」
師直「何故??」
尊氏「我は今、ギャップ萌えという概念を完全に理解したぞ」
師直「え??」
師泰「……(笑いをこらえて悶絶している)」
尊氏「普段絶対に言わないような台詞、これは凄い破壊力だな。師直、是非我にもやってくれ」
師直「無理です」
尊氏「あ、でも我相手だとあまりいい台詞がないな、仲が良い方だったし。
そうだ、義貞に言った『ロートルは引っ込んでろ、怪我をしたくなかったらな』でいいから」
師直「無理です」
直義「悪い師直もいいかもしれない…」
師直「お二人とも、酔っておられるのですか??」
楠木「(ほら、だから言ったではないか。その強面と低い声で言われたら皆グラグラ来るわ。
義貞殿だって感想をくれたときに『あの絡まれるシーン、師直の姿で想像したらどきっとしたな』
と話していたし。師直殿以外にはこの役はできんのだ)」
尊氏「頼むからー師直ー」
師直「ですから無理です。どうしてこうなった??」
※結局師直殿は散々本読みをやらされた(器用だから仕方がない)師泰殿の腹筋は死んだ