玲王×玲王
シャワーの音さえも、今の俺には喧しくて。
目の前の鏡が浴場の湿気で曇っていなければ、自分の顔を直視することなんて出来ないだろう。
俺は、今の俺が嫌いだ…
「そんなことはないだろ、俺?」
喋っていないのに、俺の声が聞こえてくる。
振り返ると、白いブレザーを着た、紫色の髪の…挫折なんて知らなさそうな目をした俺が、立っていた。
信じられない光景だが、俺の心象風景なのだろうと頭はすぐに理解した。
「お前…いや俺は、自分が好きだ。器用で優秀な俺が」
「ふざけんなよ…何を理解った風に言って…」
「理解るっつの。お前は俺で、俺はお前なんだから」
「違えんだよ…俺は凪が隣から離れて行くのが怖くて…変わることに足が竦んで…」
自然と弱音が、すらすらと自分の口から次々と出る。その嫌気がまた、それを後押ししていることを知って尚、感情の濁流が止まらない。
「『器用で優秀な優良物件』、だろ?自分が好きで、そんな自分が崩れ去るのが怖い…そんなお前の何が悪いんだよ?」
「悪いのは凪だろ、俺。『最後まで一緒』とか言った癖に、自分から離れて行ったんだぞ?」
「な、凪が…」
「おい、大丈夫か玲王?」
國神の声がして、大浴場の光景に引き戻される。國神は俺の顔を覗き込んでいて、心配そうな顔をしている。どうやら長いこと考え事をしていたらしい。
「おう…今行く」