(猫ちゃん堕ちifじゃないけどサッカーの練習に付き合う代償でハーレムにお呼ばれしてる冴のアレ)(着物イラストに影響を受けて)(単発SS)
完璧すぎる笑顔の男は歪な人間性を持っていると思え。
祖国にいる弟にサッカー以外で教えられることがあるとすれば、間違いなくコレだ。
特に目の前の貴公子のような、嘘が含まれている自覚もなく詭弁を吐ける奴は会話に気を付けるどころか言葉さえ交わさないほうが良い。用事さえなければ。
「……おい、ルナ」
「もう、レオナルドで良いっていつも言ってるのに。どうしたんだい冴?」
「テメェ、今日は俺に家に来て飼い猫どもとゆっくり過ごすだけでイイって言ってたよな?」
「もちろん。ここで君に苦労なんてさせるつもりは無いよ」
「……じゃあコレはなんだよ」
会話を切り上げて、冴は己の姿を見下ろす。
和装だ。花の精の祝福でも宿っていそうな豪奢かつ絢爛の、闇色の絹地に千々の栄耀栄華の咲き乱れる女物の振袖である。というか振袖である時点で注釈をつけずとも女物だ。
古典作品の挿絵で天女や歌謡いが纏っているような半透明の布キレ……ストールとはたぶん別の名前があると思うが、あいにく冴には分からない。ともかくアレまで肩に羽織らされている。
腰回りには緞子の帯とはまた異なるヒラヒラとしたリボンのような布飾りが惜しげもなく垂らされており、先に縫い付けられた鈴が身動きするたびに鳴り響く。
純粋な着物とも違うコスプレじみた何かだ。でも素材に一級品ばかり使われているせいで『本物』のオーラが滲み出てしまっている。
この姿で森でもうろつけば目撃者には冴が人外の生き物として映るだろう。
「何って……ゆっくり過ごすのに相応しく、その上で冴によく似合う素晴らしい衣装だろう?」
小首を傾げるルナの表情に悪気は無い。この男にそんなものがあった試しが無い。無いから怖い。
冴は何度目か数えたくもない溜息を吐く。その仕草の一つとっても、装いのためか地上に舞い降りてその穢れぶりを嘆く天女の風情があった。
ここに彼のマゾ犬どもがいれば「冴は天女だった……!? いけない、早く羽衣を隠さないと俺の女王様が月に帰ってしまう!」とトチ狂ったことを言い出し冴の肩からストールみたいな何かを必死で剥がすこと請け合いだ。
何割かは跪いて拝み始めるかもしれない。