狩人にラブソングを

狩人にラブソングを


夕刻、東京の街路を群衆が行き交う。帰路につく者、親しい者達と夜の街に遊びに行く者、用事は様々だ。姫野キリヤはどちらでもない。彼は1人、表通りを外れ、人気のない複合商業施設に忍び込む。

キリヤは民間のデビルハンターであり、駆除依頼を受けてここにやってきたのだ。懐中電灯を片手に施設内を進んでしばらくすると、キリヤの前に異形が姿を現した。

「あぁ〜…これは間違いなく床屋の悪魔だわ」

悪魔は両手が鋏になっており、胴体は赤、青、白の三色。床屋の悪魔はキリヤ目がけて真っ直ぐに突撃して、鋏を大きく開いたまま腕を突き出す。闇の中で金属音が小さく鳴いた。

キリヤは懐中電灯で相手を照らしたまま側面に回り込み、空いた手で腰に佩いたグルカナイフを取り出すと、悪魔の腕を一振りで両断。流れるような動きで背後をとり、悪魔の背中から心臓めがけてナイフを突き込んだ。

悪魔の駆除を終え、キリヤは帰宅。父と母、姉が揃い、やがて夕飯の時間になった。

「親父、お袋…」

「なんだよ」

「なに〜?」

「俺、公安に移るわ」

キリヤが決意を口にすると、両親は揃って息子の顔を眺めた。

「…なんで?」

「なんでって…俺、マキマさんと働きてぇ」

「アキ君と同じこと言ってる〜!なんで男ってさ〜!」

動機を聞き、キリヤの母親は嘆いた。公安のデビルハンターは民間より厳しい環境に置かれる。しかもその動機が女。母親としては全く賛成できない。

以前、大規模任務で応援に駆り出された時、キリヤは公安対魔特異4課を束ねるマキマと顔を合わせ…そして恋に落ちた。

姉のフユは爆笑した。母親とそう変わらない年齢であり、両親の上司。未成年のキリヤには高嶺の花だ。

「未成年って入っていいのか?」

「真剣に検討しないでよ!同級生とかさ、気になってる子とかいないの!?」

「いない!もう忘れた!」

父親…デンジは、少々複雑な気持ちだった。息子の恋愛事情はどうあれ応援したいが、相手は息子と歳がかなり離れているし、なによりかつて自分が好きだった相手。

ーーおい、チョンマゲ!焼肉行くぞ!!焼肉!!デンジの童貞喪失祝いじゃ!!

新人だった頃、デンジは一緒に卓を囲む妻…姫野と枕を交わした。

バディを組んでいた魔人はそれを知ると、上等な食事処へ向かう事を提案。姫野もそれに乗っかり、デンジ達はタクシーを拾いに行った。

そのおかげでサムライソードの襲撃を間一髪回避して、デンジは今の光景に辿り着いた。

「条件がある」

「デンジ君!?」

デンジは姫野に目配せをする。キリヤはデンジに顔を向けた。

「まず俺の言う事は素直に聞く事」

昔、似たような事を聞いたな。デンジは内心で苦笑した。それからデンジは学業優先、勤務は遅くとも10時までを厳守、などの条件をつけ、それを呑むならばマキマに口を利いてもいいとキリヤに告げた。

「おぅ、呑む呑む!絶対呑む!」

「じゃあ、今日はこの話は終わりだ」

姫野をちらりと見ると、納得できないと顔に書いてあった。今夜は機嫌を取るのに苦労しそうだ、とデンジは気分が重くなる。


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