狂騒の海
超閲覧注意
自傷行為、嘔吐、首絞め、幻覚など、ありとあらゆるグロがあります。注意してください。
《お品書き》
↑上記注意事項
CP注意
過去捏造
曇らせ
流血表現
エミュが下手
キャラ崩壊
その他色々許せる人
どうぞ↓↓
前書き
拙作「北海鳴らず」の舞台裏になります。②と③の間の話です。これ読むと③の湿度がグッと増します。アプ→ホ🥗主軸でキドホ🥗キラホ🥗ドレホ🥗要素あり。めっちゃ長いのでゆっくり読む必要があるかも。別テレグラに後書きもあります。
ホーキンス側に矢印はありません。当然今回もありませんが、最低限、同盟関係としての信頼があったものとして、ご了承ください。
ここのSSを勝手ながらご拝借していますが、今回特に改変が多いです🙏また、SSはこれが初めてですので駄文になります、お目汚ししましたらすみません....。
黒い空の下、赤い斑点が荒地を濡らす。辿ると、ある地点でそれは止まる。そこでは美しい金色の髪が風に吹かれて靡いていた。
「……私の目の前から消えて」
気持ちいいくらいに冷たい声が耳を貫く。ホーキンスに海の戦士ソラの主題歌を弾いてやったあの日からだいぶ経ったが、会ったのは1ヶ月ぶりだった。あの頃の表情は何もかもおれが奪い去ったから、もう残っていないだろう。
「出会い頭からそれかぁ??つれねぇよなぁ〜!!テメーの賢い判断でせっかく仲間になれたってのに〜!!アッパッパ!!かっこよかったぜあの啖呵!!」
「消えてって言ってるでしょ!」
「アッパッパッパ!!いつになくブチギレてんじゃねえか??お前のそんな姿は初めて見たぜ!中々面白え見せモンだ!!」
……ホーキンスの腕がゆっくり、サワサワと音を立てて藁に変わり始めるのが視界に映る。そうでなくちゃな。
「やるか??あァそうか!!じゃあオラッチからテメーに冥土の土産だ!!耳寄りな情報がある。テメーが散々好きなように遊んでたキッド、キラーのことだ」
「やめて!あなたなんかの口から二人のことなんて、もう聞きたくないの!」
悲痛な叫び声は聴こえるが、響かない。こっちは死ぬ気で来てるんだ。そんなもので揺らぐわけがない。
「……何抑えてんだ」
おれはホーキンスの細い腕を掴んだ……痩せすぎだろうが。
「コイツは攻撃じゃないぜ??耳塞ごうが鼓膜破ろうが無駄なんだよ!!……テメーの脳に刻まれ、永遠にお前を炙り続ける」
「やめて……やめて」
「アイツらは、まだ二人とも諦めてねえんだってな。テメーのことを」
「……え……何、言ってるの?」
首を傾げる。変わってねえな。だが、変わらなくちゃいけねえんだ、お前は。
「ッフ……アッパッパッパッパ〜!!!とぼけてんじゃねえよォ!テメーが招いたんじゃねえか!覚悟の上で遊んでたんだろぉ??」
「一体何の話なの!」
「言った通りに決まってんだろぉ……テメーにずっと惚れてんだよあの二人は!同盟を組んだ時から今までずっとなぁ!!」
「……そんな、嘘」
「人の心を弄んでどうだ!?それがどれだけ楽しいかはオラッチもよーく知ってるぜ!!……なぁ、おい……本性さっさと見せろ北海の魔女が。全部計画通りだと、笑ってみせろォ!!!」
片手で胸ぐらを掴む。初めて会った時を思い出しながら、おれは存在しない「魔女」の影を負う。
「......ド......を......い......で」
ホーキンスは途切れ途切れに言葉を紡ぎながら、皮膚に食い込み血が滲むくらいの強さでおれの手を掴み返す。
「聞こえねえんだよクズがァ!!さっきの威勢の良い声はどこ置いてきてんだ??テメーは何が言いたい!!!」
「クズはあなたでしょう!!」
ホーキンスから出るはずのない言葉……壁を一枚壊した。お前の中心に届くまで、おれは止まらない。
「アッパッパ!!!よぉく言われるぜぇ?だが、我が身可愛さで惚れた男二人を捨ててきたお前が魔女じゃなかったらなんだ??……いつまでお花畑にいるつもりだ!ここはワノ国!!テメーは百獣海賊団の真打ち!!!おれと同じクズに!テメーはなぁ!成り果てたんだよ!!!!」
「違う!!!!」
「何が違うんだァ??」
「……それは」
言葉を詰まらせる。優しい女だからな、何も間違っていないのに、何も悪くないのに延々と罪悪感を溜め込む。私は悪くない、とはっきり言えない。それを突けばすぐブレる。ブレて、理性を失う。そんなだからお前はそこまでやつれて顔色も悪くなるんだ。
「言えねえだろ……薄々気づいてたんだお前は!自分が助かればなんだって良い、どうせ占いでもして上手くいく方を取ったんだろ??賢いじゃねえかァ!!それが正解だぜェ」
「ッ!!」
「アイツらは立ち向かって一緒にのびて、今じゃあの通りだ。正に勇猛果敢、テメーとおれにすりゃあ……」
おれは笑って、最後の一押しをしてやる。白黒つける時だ。
「ただのバカになるな。そうだろ??」
長い沈黙の中で、おれは黙って答えを待った。
「……黙って。キッドとキラーをバカにしないで」
「アッパッパッパ〜!!!じゃあアホに変えれば良いか?どっちにしろ同じだ、おれは本当のことしか言っ、ブヘッ!!」
「消えて」
床に打ちつけられた。ビクビクと引き攣る口角を上げ、笑う。最後までおれの手の上だなぁ……同盟も、今も、ずっとおれが独り勝ちだ……。だが、何故か奴の顔を見ることだけができない。地面に転がる石ころばかり視界に映す。
「かは……ッ……」
降魔の相で部分的に体を藁に変化させたホーキンスは、おれの首を地面とその太い藁の腕で圧迫している。視界が何度も暗転しかける。
「キッドとキラーを……バカにしないで」
ホーキンス、お前、動揺してんだろ、本当はやる気がなかったんだろ。声が震えてるじゃねえか、でも、もう戻れねえ。強くなれよおれの分まで、優しいままじゃ壊れるだけだ。ここは、そういう場所だ。血に塗れ、鏡の破片が刺さった手で、太い腕を掴む……この血は、今日のこの日のためだ。テメーの顔見てると涙が止まらなくなるバカがいたんだ。だから、そいつをぶん殴って目ェ覚まさせてやった。恩着せがましいこと言う気はねえけど、頼むから上手く、復讐を遂げてくれよ。
「キッドとキラーをバカにしないで」
何度も何度も同じことをリピートするお前の声が、意識の中で少しずつ遠のいていく。やっと……終われる。
このところ、ずっと死に場所を求め続けていた。自分の本心を隠すことを前提に仕事をしてきたおれの腹の内なんて、誰も知るはずがない、知られてたまるか。罪悪感に耐え切れず死にたがるなんて、おれ自身が一番軽蔑してるし馬鹿にしてる感情だ。そんな荷物、持つだけ無駄なんだよ……そう思っても、思っても、何故か割り切れなかった。そのまま、おれは誰にも言わず、誰にも気づかれずに、やっと自らの願望を成就できる状況を作れたわけだ。
誰に殺されても良かった。死んでしまえたらどうでも良かったが、ホーキンスだけは例外で、会う度にわざと琴線に触れることばかり言ってきた。コイツから見たおれは平穏の破壊者、全ての元凶だ。恨みを買うのも当然で、なにより本人が一番殺したくて仕方がなかったはずだ。そんなに苦しいならもうさっさと殺してしまえよ。その後のことは自分で考えろ、おれはいつだってそうしてきたぞ。言葉には出さないが、そう思いながら殺意を煽った。
だが、コイツは後一歩のところでくだらねえ優しさを捨てきれない。いつまでもグダグダと自分を責めていて中途半端なままだった。限界がきたのはおれの方だった。やつれたお前がおれの煽りに歯向かい、いつも殺気立った目でおれを見るんだ。何度も何度も見てくるだけだった。藁人形にでもすれば良いじゃねえか、それすらしないのは何故か、結局、今も分からない。おれもおれで、日に日に顔が青白くなって痩せていく姿を、ずっと睨んでいた。おれはコイツを思い通りに出来ないことが無性に悔しかった。それだけではない気もしたが、とにかく悔しかった。
先月のことだ。嘲るように笑いかけながら目を合わせたおれに、
「なんで生きてるの」
と、か細い声でアイツは言って、そのまま去っていった。その表情と言葉は以前より冷たさを増していたが、おれが驚いたのはそこではない。それだけの殺意を持ちながら何もせずに去って行ったことだ。おれの腕から金色神楽のステージ配置図が床に落ちていった。慌てて拾い上げながら、小さくなっていく後ろ姿を目に焼き付けた……終わらせるぞ……ホーキンス!!!
金色神楽のステージ配置の監督業は昨日までだった。今日から本格的に部分リハが始まり、おれとクイーンはゆったり打ち合わせをして、
「明日は出席確認の合わせだな!頼むぜブラザー」
「OK任せろ名パフォーマー♪」
と笑い合ってその場を別れた。外を出る、おれの周りは急激に色褪せていく。音楽のフィルターが無ければこの世界はモノクロのようだ。最初ここに来た時はそんな風に見えてなかったが、いつの間にかそうなっていた。糸の切れた凧のように街を彷徨っていると、不意にホーキンスの顔が脳裏によぎる。灰色の街とは全く違うその笑顔は色彩に満ち……目から大粒の涙が流れていた。おれは慌てて部屋に走り、鏡台に映る自分を見る。反射的におれは、おれを叩き割った。おかしくてたまらなかった。なんて顔してやがる、と笑いながらまた外に出て、充血した目でホーキンスを探す。人気のない外れで黄昏れるその姿が見えた時、ここがおれの死に場所だと確信した。今が楽しければ良い。自分が居なくなった後のことなんて、心の底から興味が無い。悔いも、何も、おれにはもう無い。
声が、聴こえる?
「許さない」
頭に、夢の中のように響いたその声で、目が覚める……ぐらぐらと、三半規管へのダメージが激しい目眩を起こす。首の圧迫感が無い、手の甲に刺さった破片が痛い……生きてる……おれが?……生き……て……。
「どうして……どうしてよ」
ホーキンスがいる……何で……。
「……ゲホッ……ウッぐ......ッ......」
おれは咳き込む。あの時の柔らかな表情を浮かべた顔でも、最初出会った時の何も読めない顔でもない。般若の面よりも余程おどろおどろしく、憎しみ、という言葉だけが顔面に張り付いて、そんな顔で、ずっとおれは見られていたらしい。
「どうして......殺せないのよ!!!」
激しく狂った慟哭だった……また……また、しくじったのかよ!!テメーは本当にどうしようもない奴だ……だが、まだだ。まだ、おれは負けてない。おれはその名を恨みがましく呼ぶ。
「ホーキンス……っ!?」
目が合った。おれを見る目から憎しみとはまた違った感情が出ているのが分かり、何を言おうとしていたか全て忘れてしまった。
「アプー……どうして見聞色で避けなかったの」
やめろ。
「殺す気なら本気でやりなさいよ。私は本気だった!迎撃されることもちゃんと考えてたわ!だから、応えてよ……あなたは強い男でしょう」
ダメだ、その目だけは……やめてくれ。やめろ、どうしてまだ残ってる。おれが全部奪ったはずだ。やめろ、やめろ!!
「それに……」
ホーキンスは微笑む。
「まだ、何も教えてもらってないわ」
涙を流しながら、ホーキンスは微笑む。
『ヴァイオリンを教えてくれるかしら?』
息を切らしながら、歪んだ道から歪んだ道へ逃げ出す。何度後ろを振り向いても奴は追いかけてこない。でも、引き返すことは絶対にしたくなかった。自室……厠……鍵を閉める。逃げたのは恐れたんじゃない、死にたくなかったんじゃない、おれを仕留めることができなかった優しさをバカにしたつもりもない、
「ごほっ……ごほっ……うおええっ」
美しい女に「これ」を見せたくなかったから……それに、アイツならきっと自分のせいだと思い込むからだ。確かに見聞色のことは指摘された。この攻撃を凌ぐことは容易だったのに、おれはモロに攻撃を受け、反撃も碌にせず、その結果こうなってるだけだ。だが、そうやって割り切れるだけの厳しさがあったなら……それが出来ているなら……おれはあの時、死んでいた!……死んでいたのに!!
何十分経ったのか、嘔吐は止まらない。カイドウを目の前にしたホーキンスの姿がチカチカとフラッシュバックする。その度にせりあがってくる喉の不快感を抑えきれず、もはや固形物も何もなくなったただの胃液をびちゃびちゃ吐いて、嗚咽する。
ずっと、震えていた。最強を目の当たりにして、その最強に挑み敗れた二人の男の姿を見て、ホーキンスは震えていた。美しい顔が絶望に影を落としていく様子を、あの時のおれはつぶさに見ていた。本当はやることをやるだけやって去れば良かったのに目が離せなかった。ミンクの船員の危機に対して奴が向けた顔は、震えながらも、必ず守るという意志に満ち満ちていた。おれは、その瞬間までは形だけでも平静を装っていたが、その目を、握りしめた拳を見た瞬間、汗が止まらなくなった。
「部下になります……!私はあなたの役に立てます!!命令も、全て聞きます!だから、どうか、どうか、部下の命だけは助けてください!」
全て視界に映っていた。全て、聴こえていた。
「……ごめんね」
小さな呟きだった。優しい、だが、剣のように鋭い音が、おれの喉を突き上げ、脳をぐらりと大きく揺らす……おれが、あいつを陥れた。おれが、あいつの平穏を奪った。おれ、が……何で、何で殺してくれない!!おれにどう償えって言うんだ……もう疲れたんだ……もう、こんな世界では、生きながら死んでいるようなものなんだ……。
『何も教えてもらってないわ』
膝が、がくりと落ちた。そうか……おれも好きだったんだ。アイツに……本当は、ずっと……笑ってほしくて……。床にぼたぼたと胃液をこぼしかける。立たなければ、と思い、足の爪先を震わせながら、立とうとする。しかし、おれは何もできないまま滑るように倒れた。足がもう上がらないことに気がついた時には、体の周りが汚れている。また、気が遠くなっていく。
目が覚めた。頭が痛い。隣を見るとドレークが枕元にいた。良くねえ目覚め方したな、よりにもよって何でコイツなんだよ、と睨みつける。
「ホーキンスから伝言だ」
飛び六砲のドレークが最近仲良くしているらしい、一人の真打ちの名前でしかないはずだ。その名を耳にした時、何も食べていないはずの胃の中から喉に何かが渡った。
「ゲホッ……ゲホッ」
ヤバい、日付……1日寝てたのかよ、早く復帰しなければ。クイーンにはどんな連絡が行っているんだ、わからない、目覚めたばかりで何も……考えを巡らせていると、ドレークが口を開いた。
「お前を殺しかけたのは悪かったと言っている。だが、二度と私の前に姿を現さないでくれ、と」
声も出せず、おれはえずく。それで楽になるなら、良いか……。
「……ホーキンスは複数人の男に関係を強いられ心を殺している。おれの前で涙を見せたことも少なくない」
『……ごめんね』
おれは目を見開いた。拳を握りしめながら耐え難い吐き気と……言いようのない怒りに耐える。自分が憎らしくて仕方がなかった。
「同盟の決裂について、彼女はその話を全くしていなかった。だが、昨日問い詰めた時、お前の名が出た。お前のことが許せないと叫んだ」
衝動か、何か、わからないものに突き動かされる。
「な、なんだ!?」
おれはドレークの両肩を掴んでいた。
「ゴホッ……ッド……レ……ク……ゴホッ……れ……を……こ……ろっゴホッ!!ゴホッ!!……フーッ……フーッ……」
過呼吸を起こして崩れ落ちる間に、自分の行動を詳細に捉えた……ドレークに……おれが、そんなことを?肩を離した手で頭を抑え、混乱のままに叫んだ。これから今まで通りの生活ができるかどうか、全く分からない……誰かに会うたびにこの衝動を抑えなければいけないのか……?
「お、おい落ち着け!あ、いや違う、無理するな!でもないか、こ、こういう時はなんて言えばいいんだ。がんばれ?いやそれは絶対ダメだ、おれがついてる?それも何か……クソ、わからない!!」
そんなことを考えていたら、ドレークが勝手に混乱し始めた。こんなバカでも生きていけるならおれもなんとかやっていける気がする。結果的に過呼吸は少しマシになった。
「……ッ……ゥ……!!?」
しかし、まだ精神が削れ始める。ドレークに話しかけようとしたら、声が出なくなった。おれは喉を抑える。
「言葉が出ないのか」
ドレークが焦った様子で背中をさする。おれは頷く。
「紙だ、ここに言いたいことを書け」
よりにもよって一番喋りたくないコイツがここにいるのがおれの不運だ。こいつの一挙一動はやたら神経を逆撫でしてくる、なんとしてでも一人にならなければいけないと思い、おれは、渡された紙に、がたがたした字で書いた。
「あいつが選んだこと……おれは悪くない……か」
おれはドレークを睨みながらニヤッと歯を見せて頷いた。ドレークが怒りに震えている。心の底から面白い。気分が良くなる、何もかも、忘れられる。まだ書くことがある、と、頬杖をつき、手を差し出す。紙が渡されると、おれは崩壊した同盟への罵倒と、罵倒と、罵倒を重ねた。ドレークはそれを険しい目で見る。両の奥歯をギリリと噛み締める様子を見て、安心する。
「反省しているのなら、形だけでもそうと言うつもりだった」
ドレークは部屋を出る。去り間際に振り向くと、こんなことを呟いた。
「おれはお前が嫌いだ」
おれもだわアホンダラ。やっと、部屋が自分だけの空間になった。その瞬間、誰かが牙をむいた。部屋が黒く染まった。壁一面に「殺してやる」と書かれた血文字がびっしりと映っている……遂におれは幻覚まで見えるようになったらしい。どうせ、字を見たって誰が書いたかわかりはしないだろう、そう思って天井、床、壁中を見渡して、おれは笑った。
倒れてから2日経ち、嘔吐反射は軟化していた。しかし、会話は常に筆談でないと出来ないので、たくさんの打ち合わせがある金色神楽の練習には出られなかった。しかし、部分リハの中ではいくつかの演出や変更が出てくるので、特におれとの話し合いが必須なクイーンは直接部屋まで行く徒労を面倒がって、
「今日から1週間だけ待ってやる。その後もリハ出てこなかったら殺すぞ」
と言ってきた。おれは紙にこう書いた。
「アッパッパ!!So sweet♪♪クイーンの厚意が身に染みるぜ!!ただ1週間は長すぎるな♪2日で仕上げてくるThat's ME‼︎舞台でCheck it out and stay tuned~♪♪」
「その言葉に偽りはねえな、ブラザー」
早く復帰したいんだ。1日でも早く、音楽をしたい、ここから逃げたい……。
「どこ見てるんだ」
字だよ……"殺してやる"って書いてあるんだ。クイーンには見えないだろうな、面白いんだがな。こんなに一面に書いてあるのに、おそらく全部、同一人物がやってるんだ……おれが、全部やったってことになるみたいなんだ。
練習は進行度の差がかなり激しいようだ。大半の演出は去年の録音で進められており、今の方向性とのズレを修正する必要もある。機材をこっちで所有していたせいでそうなったわけだが、だったら尚更、おれの独壇場じゃねえか。まっさらな状態が最も染まりやすい。怪訝な顔をしたクイーンがおれを見ている中、壇上で、始める……夜通しで調整した音源をイントロとして流すと、全てが静止する。テメーら全員、生まれ変われ!!これが「金色神楽」だ!!!
「かなり悪いってクイーン様から聞いていたが……完璧だ」
「部分リハとは思えない!」
「あのDJ、あんなラップ出来るのに今喋れないんだって?」
「やっぱり、この人がいてこその金色神楽か……」
音楽がおれを裏切るのは、後にも先にもあの1回だけで良い。
クイーンは神妙な顔でおれとミーティングを始めた。
「ブラザーお前……敢えて痩せてるってレベルじゃねえな。ちゃんと食べてるか?眠れてるか?」
音楽の話じゃないのか、と思う。
「それと……普段過ごしている中で、存在しないはずのものが見えたり聴こえたりしてねえか?心当たりがあるならお前は休め。はっきり言う、本番で倒れたら話にならねえんだ。全員に迷惑かける前にさっさとやめちまえ」
……倒れる?
「部屋に行くとお前はいつも壁を見ている。話している時でも時々目線が合わない、症状があるなら……お前」
おれは笑って、頬杖をつき、手を差し出した。
「はぁ……宴が終わったら必ず診てもらえよ!!終わり!言うことねえ」
クイーンに力強く握られる。
「痺れたぜブラザー!絶対に成功させろよ!!」
二十年超のキャリア、そして趣味への情熱、おれの体は楽器だと悪魔の実を食す前からずっと思っていた。楽器を鳴らすことは呼吸をするのと同じようなもので、おれの命を繋ぎ止めているのは、いつだって音楽だった。主役のクイーンを照らすムービングライトとして、おれは輝いていた。
文字は、日毎に数が増えていた。目を閉じると暗闇の中に大量の字が映るので、おれは眠れなくなっている。しかし、どんな来訪者が来ても見えるそれが、ドレークが来る時だけ突然無くなるので尚更癪に触った。こいつは本当に厄介で、何度も出向けば反省してくれる、とでも思っているのか、毎晩訪ねてきた。紙を渡され、おれはニヤニヤしながらいろいろと悪態を書くのだが、怒ってくるだけで来訪は終わらず、いつも取り留めのない話を10分、20分として去っていく。しかも、二度と来るんじゃねえ、と追い出そうにも、おれがひどい弱みを握られてしまっているので不可能になった。
ホーキンスという名前やあの女の話を見たり聞いたりするだけで嘔吐反射を起こすことを知られたのだ。ドレークはどうやらあの女を好いてしまったらしく、同盟の時のやりとりなどを度々聞かれて、おれは耐えながら話をしていた。
「海の戦士ソラの話をしたら、普段笑わないホーキンスが、いつもより楽しそうにしていた」
とドレークが話した日までは。その話題だけは耐えられず、厠に駆け込んで1時間かけて食べたものを全て吐き出してしまい、そうしてバレた。
「首を絞められたことを、そこまで恨んでいるのか」
と、問われた。その言い訳は本当に都合が良かったので、力が入らない指でどうにか紙に、
「アッパッパッパ〜!!テメーもたまには察しが良いなぁ!!!」
と書いておいた。ドレークが救いようのないアホだったおかげで実害が全く無いことも助かった。せいぜい9%くらいは何かしら報復される可能性がある、と考えた、おれだったら絶対にやるし。しかし、その日からドレークは一切、ホーキンスの話をしなくなった。唯一、間接的に話をする時が毎日一度だけあるが、それは、
「今日は治らないか」
と、確認をする時だけだった。おれは治っていない証として、ホーキンスという言葉を紙に書こうとしては、最初の一文字すら書けずにえずき苦しむ様を見せつけてやった。その時ドレークがする哀れむような目は、いつも嫌いだ。
ある日の夜だった。ドレークが来る時間が遅かった。黒というよりはもう、半分くらい赤っぽくなっている壁をぼーっと見ていたおれは、突然、激しい過呼吸を起こした。混乱して、恐怖して、初めて「戦う音楽」を自分に浴びせた。
「開けるぞ......って、アプー!?何をしている、やめろ!!」
ドレークがいつになく焦った様子でおれに駆け寄り、取り押さえる。おれは叫びながら抵抗したが、力は及ばない。
おれはもう何もかもが嫌だった、だから、上書きしようとしていた。自分の腕を捲って切り傷をつけた。流れる大量の血を指につけ、まだ何も書かれていない壁の一部分に「ホーキンス」と書こうとした。書けなくても書こうとした。血が乾いて固まればまた別の箇所を傷つけて、そうしているうちに切り傷は数十箇所を超えたが、何も辛くなかった。そうすれば、幻覚でも苦しまない。いつでも思い出せる、どれだけ吐いたとしても、ただ死にたくなるよりは、あの女を思い出していた方が、自分が何をしたかをまざまざと見せつけられている方が……。我にかえると、ただの壁に赤い血が、文字のようなものが書いてあるだけだ。おれは自分がどうしようもない程に狂っていることを、そしてそんな自分をドレークに見られたことを、ようやく理解していく。全く書けていないのにも関わらず、ドレークはその文字で何を表そうとしていたのか、すぐに察した。
「呪い殺す気か!!!どうしてそこまで恨むんだ!!」
もうダメだと思った、取り繕えないと思っていた。でも、ドレークがバカで、あの女に恋をしていて、真面目なところが似ていて……良かった。いつも、お前が来ると安心するんだ。ここが何処なのか分かるから、おれなんかのことをどんな理由であれ気にして、苦しんでいると素直に身を案じてくれるから……そう思っていたら、ふっと、体の力が抜けて、ドレークに支えられながら倒れた。
「アプー!!おい、目を……ダメだ、気失ってる」
そういえば、もう、2週間は寝てなかったな。
目が覚めて隣を見たら、枕元にドレークがいた。
「またかよ!!!」
「喋れるようになったのか!」
「?……喋れるって……ん!?声出せる!?よっしゃああああ!!!」
「良かったな、アプー!」
「チェケラ〜〜!!!!」
「しかし……喜ぶのは良いがこっちは止血するのも壁の掃除をするのも大変だったぞ。二度とやるな」
甲斐甲斐しいなァ、一人でそこまでするとは。んなことしたって何も出ねぇぞ。
「仕方ねぇだろー!首を絞められてから人生もう滅茶苦茶なんだぜ??呪いたくもなるわ!!」
「それだけのことをしたからだろう、人を恨むな」
「わかったような口聞きやがるなぁー!!オラッチのこと全然知らねーくせによぉ」
「……。そうだな、悪い」
は?な、なんだよ、認めんなよ、謝るなよ。どう反応すればいいかわからないじゃねーか……目が潤んできた。腕も上げにくいのでどう繕うこともできず、おれは無言でドレークに背を向けて布団を被る。
「おれは確かにお前のことを深くは知らん……だが、自分の身を自分で傷つけることだけは、本当にやめてほしい。そんなお前の姿は見たくなかった」
とめどなく流れる雫にずっと内心で文句を言い続けても、それは止まることなく溢れ続けた。
「寝るのか?」
おれは頷いた。
「そうか。夜も遅い、おれも寝る」
足音が遠ざかっていく。急に、体の震えが止まらなくなってきた。腕を回し、肩を抑える。また呼吸が荒くなっていく。無性に怖い。また、眠れなくなる……ホーキンス、こういう時どうすればいいんだ、お前もこんな気持ちだったのか、ホーキンス……ダメだ、
「……待って……くれ、ドレーク」
「お前、泣いてるのか」
「ッ!!なわげねぇだろ!!なんで、泣く必要があるんだよォ……そんな、ことどうでもいいんだ!!おれが寝るまでっアイツの話……してやるから、此処にしばらく、い、いてくれよ……」
「無茶をするな。話をすれば気持ち悪くなるだろう」
「頑張るから……頼むぅ……」
「そうか……また暴れ出しても困る。今日だけは付き合うぞ」
おれは咳き込みながら、ドレークに、あの頃のホーキンスの話を懇懇とした。最初は吐き気が酷く、胃液を飲み込んでドレークに心配された。スッゲェ味で二度と飲みたくないと思いつつ、何度か続く内に慣れてしまった、嫌な慣れだよ全く……。不思議と、話せば話すほど吐き気が減って笑って話せるようになっていった。
「ドレークは『引っかかった〜』されたいか??」
「……まあな」
「オー??されてぇんだなぁ〜!!」
「そ、そんな、どうしてもというわけではないぞ!」
ドレークは飛び起きて怒鳴った。似たようなもんじゃねえか、と鼻で笑う。
「リアクションを取るといいぜ」
「だ、だから!あのなぁ!」
「まあまあ聞けって〜!情報屋スクラッチメンがお送りする丸秘♪同盟情報日常編〜!!聞いておかないと損するぜ??」
ドレークはなんだかんだ言っても興味津々だ。聞いていないようでちゃんと聞いている。この話も絶対に聞き逃さないだろう。
「まず、ちゃんと引っかかることだな。肩を叩かれたら振り向け!そしてしっかり頬を突かれて驚くんだ。そうしたらあいつは喜ぶぞ!!自分が引っかかったことを理解するまでに若干間を作ると尚良しだな」
「なるほど」
ドレークは腕を組み、考え込む。やっぱりされてぇんじゃねえか。
「あいつは、悪戯をする時いつも嬉しそうに笑いながら逃げていくぜ!!その後ろを怒りながら追っかけ回せ、待てよコラー!!ってなぁ〜」
「追いかける、か……。追いかける……ホーキンスをか?」
「当たり前だろ!?他に誰がいるんだ」
「ああ、いや……少し気が引けるな」
追いかける程度のことでそんなに悩むか?
「で、しばらく追っかけたら捕まえてやれ!」
「……それは、難題だ」
嘘だろ???
「簡単だぜ??腕を掴む、振り返らせる、でアイツの両頬をむにっと」
「難易度が高い!!」
「やりたいなら最後までやれよぉ?」
ハァ〜〜、初心な奴はこれだからいけねえな。
「それも、そうだな……」
「ま、何もかもされたらの話だ!!毎回毎回やられて驚いて追っかける純粋さを見せてみろ!!アッパッパ〜!!」
「善処する。ところでお前はされたこと……無いな、無いに決まってる」
「考えるまでもねえよ〜!」
あの時、自分の気持ちに気づいていたとして、何が出来ただろう。カイドウさんへ適度に情報を送らなければいけない状況下、流石に自分の身に危険が及ぶことの方が怖い。おれはそういう人間だ。だから、
「アイツのことなんて最初っからどうでも良かったからな」
「お前はそういう人間だよ」
「アッパッパ〜」
誰にも愛されない。
「しかし、どうでも良いって割にはよく覚えてるんだな」
「毎日同じのずーっと見てればな!情報が欲しかったから観察してたってのによぉー!オラッチが見せられてたのはしょーもない痴話喧嘩ばかり、かわいそーだろぉ??」
「ああ、お前の話がさっきから一度も出てこないところを見るに昔から本気で嫌われていたことはわかった」
「まともに話したことなんてねぇからな〜!!むしろ、こっちの方から御免だ!アッパッパ!!同情されちゃあ困るぜ〜!!」
嘘をつくことなど造作もなかった。音楽の話をしたことも、好物のフォーチュンクッキーをなんとなくあげてみたことも、日頃の感謝を込めたキラーへのプレゼントを考えるホーキンスに、アイツが好きなドラマーのTDをいくつか出してその中から選ばせたことも、あの日のことも、色々とあるにはあったが、思い出すだけでも吐き気が止まらなくなるから、全て省いた。
何もない闇、おれの目の前に、最後に見た時よりずっと健康そうなホーキンスが立って、笑っている。
「あなたがいなかったら、私はずっと幸せでいられたわ」
「その通りだよ」
「存在しないってことにしてあげましょうか」
「出来るならそうしてくれ」
そう言った瞬間、ホーキンスは青白い顔で冷たい目をこちらに向けて、低い声で言った。
「他人のために動いたことがないのね、あなたは」
何か言おうとするおれを遮って続ける。
「私の痛み、私の苦しみ、何も分かってない。あなたはいつだって自分のことばかり、他人のためと言いながら本当は自分が苦しいから逃げたいだけなんでしょう?」
「……だったらおれに良い死に方を教えてくれよ!!!どうすれば取り返せるんだ!!あの同盟を、あの日常をどうやって取り戻せっていうんだ!!教えてくれ……どうして、おれはお前を愛してしまったんだ……今まで自分以外の人間なんてどうでもよかった!!どうしてお前だけ違うんだ!!……死にたい……もう何も残ってない……殺してくれ……殺してくれ……殺してくれよぉぉ……」
おれは床に叩きつけられ、手のひらに釘を刺される。ホーキンスは悶えるおれの頬をガリガリと力強く引っ掻き、本当に、これ以上はないくらいの笑顔をおれに見せてきた。
「引っかかった〜!!」
高笑いをしている……こいつがこんな魔女だったら、おれも多分、もっと……楽だったな。
「誰かのことで頭がいっぱいになる気持ちが分かったでしょ??せいぜい苦しめばいいわ!!!」
何本もの釘がおれを貫く。
「ごめんな……夢の中でも……こんなことさせて……ホーキンス……本当に……ごめん……」
太い釘がおれの両目に打ち込まれた。
朝になっていた。いつ寝たのかもわからない、ドレークは身支度をしている。おれは幸せな気分だった。寝ずに文字を見続けていたあの日々が1日でも止まると、ここまで楽しいものなのか。鼻歌混じりに顔を洗い、ひとつ欠伸をする。
「随分ひどい夢を見ていたようだな」
撤回しよう、気分は最悪だ。
「そうかー??覚えてねーなあ」
「寝言や唸り声がうるさくて眠れなかった、じゃあな」
待ってくれ、おれより先に行くな、と言う前にドレークは立ち止まり振り返っておれを見る。
「今夜ホーキンスに会わせるから、ちゃんと話をしておけ」
血の気が引いた。
「はァ!?な、何だよ急に!!」
「その方がお前にとっても、ホーキンスにとっても良いような気がする」
「よくねえよ!!呼んだらアイツもテメーも殺すぞ!!!」
「本当に悪いと思っている。お前のことを知らないままに……色々と言ってしまった」
ドレークは歩いていく。終わった……ここで死なせてくれ。
「ちょっと待てって!!おれは寝てる間に何て言ったんだ!!!」
「本当に、言いにくいが」
ドレークは苦しげな顔をする。おれは全てを察した。
「……わかったよ!!わかったからそんな顔するんだったら何も言うな」
「このことは口外しない。ホーキンスにもだ」
また……弱みを握られてしまった。でも、コイツで良かった……。
おれは吐いて、吐いて、吐いて、吐けなくなった。一生分の涙と鼻水を垂れ流し、目を閉じ、耳を塞ぎ、布団をかぶって自分の字を見続けた。胸が痛くなるほどの過呼吸が続く。
「ごめんね……ごめんね。本当に……大丈夫だから。もう私は、あなたを恨んでなんかないわ」
何でお前が謝るんだよ、何でお前が泣くんだよ、悪いのは全部おれじゃねえか。
「私はあなたを恨まないから……あなたも、私を恨まないでほしいの」
布団に手が触れる。おれは床を這って部屋の隅に逃げて、うずくまった。
「怖いのね……もうあんなことしないから、大丈夫、大丈夫よ」
そう言うと、ホーキンスは手を広げ、震えるおれを背中から抱擁した。動揺して、つい、その体を突き飛ばしてしまう。顔を見ると、また痩せたのがわかる。表情もぎこちなく、痛々しいくらいで、その目は悲しみを帯びていた。おれはえずいた。
「確かにあなたは許せないことをしたけれど、私だって悪いと思ってる。あの後ずっと考えてたの……」
過呼吸が止まらず、何も言い返すことができない。違う、本当に違うから……もう、自分を責めるな……。
「私には力がなかった。弱すぎた……裏切ることしかできなかった。そうしなければ私も、ファウストも、みんなも、どうなっていたか……わからなくて」
誰も傷つけない選択肢なんてあの場にあるわけないだろ。どんな理由であれ、お前の選択に罪はないんだ。
「アプーもそう思ってたでしょう?私が弱いのが悪いって……なのに、あなたをこんなに傷つけて、あなたの言う通りだったわ……私は魔女よ」
寂しげに、悲しそうに、優しく、その微笑みは……聖母のように……真っ暗で、赤い文字に彩られたその部屋に光さえ見える気がした。おれは救いを求め、手を伸ばす。
「アプー?」
袖を捲る。
「……その腕……嘘……!!これ、ま、まさか、自分で……?」
涙を流しながら何度も頷く。
「ごめんなさい……ごめんなさい……許してなんて言えないわ。お願い、私の気持ちだけでも受け取ってくれる……?」
過呼吸がゆっくりと止まっていった。
「……ああ……気持ち……だけ……な」
「うう……っ私……私……」
「……泣くなよ」
誰の涙にも心が動くことがなく、むしろ面白いくらいだと思っていた。だから、こう言うのは……人生で初めてだ。
「あなたこそ……っ」
おれもホーキンスも、そう言っておきながら涙が止まらなかった。
しばらくの間ぐずぐずと二人で泣いていたのだが、だんだんお互いのそんな姿が面白くなってきて、悪態をつきあっていた。
「本当に痩せたわね」
「お前に言われたかねえよ、アッパッパ〜」
「食べられないの?」
「食べても戻しちまうんだ、テメーが悪いんだぜ??」
指を差す。
「あら奇遇ね。私もそうなの、あなたのせいで。フフフ」
差し返される。
「さっき自分も悪いって言ってなかったかぁ?」
「私も悪いけど、あなたも悪いの」
「ハァ〜、テメーが勝手に食えなくなっただけだろ!!責任取れねえな!!」
「あなただって、自分の身をちゃんと守らないのが悪いわ」
「ぐ……アッパッパッパ〜!!言うようになったじゃねえか!!」
たじろいだおれを見ると、ホーキンスは得意げに笑う。
「伊達に真打ちやってないのよ。情報屋さん?」
「板についてきたなぁ!!せいぜい頑張れよぉ??強さの真髄!その名も真打ち!!」
「……はい」
「やる気ねえなぁ〜ちゃんとレスポンスしろよ!!クイーンにお前最悪だぜって言われるぞ??」
「騒がしいのは嫌い」
同盟で一緒にいた時を思い出す。もう吐き気は無くなっていた。
「話は終わったか」
ドレークが呆れた顔でこっちに近づいてきた。
「アッパッパ!!最悪の気分だったぜ〜!!早く帰って二人でイチャイチャしてろ??」
「お、おれはそんなんじゃ!」
「私だって違うわ!」
本当にコイツらはダメだなぁ。別に好きになっても良いじゃねえか、おれじゃねえんだから。
「アッパッパッパ〜!!お嬢ちゃん、今日はオラッチの部屋に冷やかしに来てくれてありがとな〜!二度と会うことはねえだろうよ!!Bye Bye~♪♪」
「私ももう会わないわ。さよなら」
ホーキンスの背中を見送り、呟く。
「おれ、生きるよ」
「……誰か、何か言わなかった?ドレーク?」
「いや、おれじゃない……アプーだ」
そう言ってこっちに目を向けるドレークが満足した顔で笑っているので、おそらく聞こえたんだろう……イライラさせやがるぜコイツ!
「アプー何か言った?」
「聞こえなかったかぁ?じゃもう一回だなCheck it out~♪次会ったら殺す……だ!!流石にこれは、ちゃんと聞こえただろ??」
頭を抱えているドレークの隣でホーキンスは怪しく笑う。
「ええ聞こえたわ。私も同じ気持ちよ。でも、あなたを殺す前に楽器だけ、触らせてね」
「アッパッパ!!無理な相談だな〜!」
「フフフ、行きましょうドレーク」
扉が閉まる。
「……おれの部屋だ」
久しぶりに明るくて、少し目がチカチカしている。
「ふー」
本当ならここから作業をする予定だったが、何もする気が起きず、息を吐いて布団に横たわった。
「……寝るか」
目を閉じると、何も見えなくなるだけだった。