片想いの周波数
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うとうとと、話している途中に寝てしまったようだ。
意識がぷつりと途切れ、先程までの話の続きをしようと思い出している途中だった。
「……ハンコック、好きだよ」
「……っ」
一瞬、電伝虫から告白されたのかと思う程に驚いた。
息を飲んだ音を電伝虫は拾っただろうかと慌てて唇を抑える。
思考が纏まらない。
まさか、そんなありえない。
聞き間違いではないかと思うほどだった。
自分は好きな男がいると言うのに。
好きな男の幼なじみの女は自分が好きだと言う。
その気持ちには応えられないのを知っている癖に。
男だろうと、女だろうと、好きだと言われるのには慣れていて、同じくらい断ることなんて慣れていた。
「いいえ、ダメ」と口にするのは簡単だろう。
しかし何故かその言葉が言えなかった。
想い人が寝たと思い、聞こえていないと思って口にした告白を無碍に踏みにじることなど、恋を覚えた自分にはとても出来ない。
恋を知らないあの頃ならば、すぐに鼻で笑って断る事もできただろう。
恋を知っても、見知らぬ誰かや想い人の大切な人でなければ、即座に諦めよと冷たく告げることもできただろう。
「……」
電伝虫からは何も聞こえない。
まるで返事を待っているかのように思えて胸が苦しい。
遠く離れたシーツの上で、彼女は一体どんな顔をしているのだろうか。
お願いだから、早く切って欲しいと身勝手に思った。
起きてなどいない。自分は寝ている。
告げてはならない思いなど何一つとして聞いていない。
必死に自分に言い聞かせる。
年下の少女の一言に、身動き取れなくなるなんて初めてだった。
「ルフィが好き。だから諦めよ」と言えば彼女の思いを無駄にするだろう。
しかし、恋愛対象として見ていなかったウタを、慰めに……間違ったとしても好きなどとは言えず、自分の心に嘘をつくことになるだろう。
そして聡い彼女はそんな言葉が嘘だと即座に気づき、更に傷つくことだろう。
起きているうちなら、彼女は自分を困らせまいと絶対言わなかったのに。
何故寝てしまったのだろうか。
何故起きてしまったのだろうか。
次から、どんな声で話せばいいのだろうか。
通話相手が自分を想っているのに、自分はどうして想い人の話ばかりが出来ようか。
もう二度と、通話はしない方がいいのだろう。
しかし通話を断れば、思いを聞かれたと悟るだろう。
いつの間にか、電伝虫が目を閉じて通話が終了していた。
「……おやすみなさい、ウタ」
言えなかった言葉が広い部屋に響いた。
人が両想いになることの難しさと、一方的な思いのままならなさを知った。
誰も傷つけない答えが一つとして出ないまま、夜は静かに更けていく。