父と子と1
「おまえを息子と思ったことなんてない、か…よくあそこまで酷いこと言えたものですね、斉藤さん」
息子…硝太を拒絶して追い返して動きがつかなかったが、後ろから聞こえてきた声で我に帰ることが出来た。
男がいつの間にか隣に立ち、餌を撒いていた。
「なんだ、来ていたのか。硝太と仲良くしてるのなら、止めりゃ良かっただろ?探偵さんよ」
風祭豪。名探偵の弟子としてその後継者と目される男は肩をすくめて見せた。
「確かに彼は僕の協力者ですが、父と子の間に入るのは無粋でしょう?
まあこれ以上彼を侮辱するなら僕も我慢なりませんでしたが、貴方の様子を見て思い直しました。
…僕と彼が集めた情報です。少しずつですが、追い詰めて来ていますよ。貴方の息子のおかげで」
息子…硝太の心底傷ついた顔を思い出して心の中が荒れ狂う。
ーーー何で顔を出したんだ。何のために俺はおまえ達を捨てたと思っているんだ
そんな自分勝手な思いが湧いてくる自分にも苛立つ。
気分を変えようと受け取った資料を読む。
今まで起きていた事件、事故、行方不明…全てが点と点を繋いで線になるものだった。
硝太が関わっている、と聞いているが流石に子どもがここまで調べて無いだろう。
もしそうならあいつの才覚は余りにもあることに特化し過ぎている。
「既に終わったこと」「起きてしまったこと」への考察が出来すぎている反面、次の一手が若干乏しい。
「カウンターに特化し過ぎている」
「…凄いな。短いながら分かりやすくまとまってる。どこまでアンタなんだ?風祭探偵」
「恥ずかしながら僕は『ブギーマン事件』の情報を彼に提供しただけでしてね。そこから彼が全て探し出して纏めてくれました。
大変、優秀ですよ。硝太くんは」
僕の弟子に欲しいぐらい、と続ける風祭探偵。
俺が思っている以上にあいつはアイの復讐にのめり込んでいた。俺が遠ざけようとしたこと、全て手遅れだった。それを物語る資料だった。
下手人と黒幕の後一歩まで迫っている。
そしてアイとの繋がりも…
「ははは…そうかい。あいつは…大好きだった義姉の仇を知らず知らず取る道筋を解き明かしていたのか…
俺のやったこと、やってきたこと…手遅れじゃねーか…」
竿に反応があるが、どうでも良い。
自分を慰めていた
「自分の復讐に家族を巻き込まないために家族から離れた」という大義名分は
ただ息子を傷つけて全ての責任をミヤコに押し付けただけ、という結果を示していた。