熱い恐怖
「ひゃっ……ふ、あっ……ふぅぅ……♡」
「おっ……ココが弱いんだな。声、我慢しなくてもいいんだぞ」
「そ、そんなこと言われても、恥ずかし──あっ♡ う、あぅ……♡♡」
──事の切っ掛けは、偶然にもキトカロス姉様の情事を覗き見てしまったこと。
想い人にその身体を許し、私たち姉妹には見せたことのない恍惚とした表情で嬌声を上げる姉様は、とても幸せそうで。
気付けば、自分の身体まで火照っていて。自分で自分を慰めても、収まらなくて。
私は羞恥心を押し退けて、彼に──私の大好きな彼に──ライヒハートに言った。
『私を抱いてほしい』って。
突然の申し出だったから、彼はまずビックリした顔になって。それから『どうしたもんかな』と言うように頭を掻いて──よっぽど、私が不安そうな顔をしていたのか──何か意を決した風に表情を改めて。
寝床まで私を案内すると、自分の膝の上へ座るように促してきた。
私は促された通り、その逞しい腿に腰を下ろす。
これまでも手を繋いだり、ついばむようなキスをしたりといった経験は重ねてきたけど……こんなにも彼と密着し合ったのは、思えば今回が初めてのこと。
背中で触れる、彼の厚い胸板。そこから伝わってくる体温に、男の人ってこんなに熱いんだ……なんて、今更なことを思っていた。
「ふ、ぅ……んんっ♡ そ、そこ、ダメ……♡♡」
「本当か? 身体の方は悦んでくれてるみたいだけどな。初めてなんだからよ、本気で駄目なら俺の手を抓るぐらいはしてくれないと分からねーぞ?」
「あぅ……ライヒハート、イジワル……♡」
──そんな私は今、彼の膝の上で、彼から与えられる快感に喘いでいる。
首筋を指でなぞられる。かと思えば唇が吸いつき、続けて甘噛みされる。
くすぐったくて逃げそうになれば、彼の両手は胸に伸びる。逃がさないぞと言わんばかりに片方は揉みしだかれ、もう片方はその先端を指先で弄ばれる。
胸を堪能され尽くした後、その手はお腹を優しく撫でて、私の秘所へと辿り着く。膣内をほじられる度、体は電流が流れたかのような感覚に襲われる。
……私は最初から“そのつもり”で彼の元を訪れた。だから正直、こうなる事を期待して、私の身体は準備万端になっていた……と思う。
でも、予想外だった。自分で処理するのと、シてもらう──ライヒハートに触ってもらうのが、こんなに違うことだったなんて。
彼の手に触れられると、熱い体温が刻みついて。
意地悪なのに優しい彼の声で、耳は蕩かされて。
密着する彼のツンとした汗が、鼻腔を狂わせて。
背中越しにある彼の顔は見えないはずなのに、瞼を閉じれば……そこには大好きな彼の顔が浮かんでくる。
五感を支配されているのに──それが、こんなにも安心することだったなんて──
「──あっ、あ……? ん、ぐ、あぅぅ……!?」
ここで、絶頂の予感が訪れる。私の快感が頂点へ上り詰める瞬間が近付いている。
戸惑いの理由は、その感覚が未知のものだったこと。自分で自分の胸や性器を刺激して火照りを鎮める程度の事務的な作業では、こんな感覚を味わえないから。
呼吸が一気に荒くなる。お腹の奥から更に熱が湧き出て来る。彼の指を挟み潰してしまうんじゃないかって心配になるほどに膣が締まって、ソレは当然、彼に伝わる。
「ん……イキそうか? ハゥフニス」
「う、うん……♡♡ だけど、こ、こんなの初めてで……こ、怖いっ……!」
今、私の体温は何度あるんだろう。このまま人魚の肉体には耐えられないほどまで熱が溢れて、水が蒸発するみたいに、泡になって消えてしまいそうで……怖い。
そう思ったところに、彼は空いている方の腕で、私を強く抱き寄せた。私が彼の懐から何処にも行けないよう、強く、強く抱き締めて──
「こうすりゃ怖くねぇだろ? そら、イッちまいな」
──そんなの、反則♥
「ふっ、んんっ、~~~~~~~~ッ♥♥♥」
視界は点滅し、頭を真っ白に塗り潰してしまうほどの快感の激流が全身を巡る。
陸地へ打ち揚げられた魚のように、びくん、びくんと。彼の逞しい腕の熱に抱かれながら、私はしばらく震え続けた。
「……大丈夫か?」
「だい、じょうぶ……だから。続き、しないと……♡」
もう多幸感でおかしくなりそうだけど、これでお開きというワケにはいかない。
だって、ここまでは準備段階でしかない。本番はここからだ。
それに何より、まだ私しか気持ち良くなっていない。今日の私は、ライヒハートと一緒に気持ち良いことをしに来ているんだから。
「おいおい、ちょっと休んでからでもいいだろ」
「だ、ダメ……それだと、ライヒハートに我慢、させちゃう……」
「んぐっ。そ、それはそうだがよ……」
彼が興奮を抑えているのは、そんな彼の膝に乗っている私にだって理解できる。
これ以上、彼を我慢させるのは嫌だ。解放させてあげなくちゃ。
彼の膝から降りて、腰を下ろし──彼の股間と向かい合う形になる。
……男の人のソレを見るのは初めてだから、ちょっとドキドキするけど……ここで尻込みしてたら始まらない。勇気を出して、勢いよく彼のズボンに手を掛けた。
「私も、貴方を気持ちよくさせてあげるからね──ぇ……??♥?♥」
ボロン……いや、足りない……ズドン、かな。うん、そっちの方が合ってる。
とにかく、力と勢いを伴って、ソレは飛び出してきた。私と彼が違う生き物であることを否でも応でも理解させられる、大きくて逞しい……ライヒハートという“雄”の象徴が。
私はライヒハート以外の男性のことなんて知らないから、この大きさを他の誰かと比べることはできないんだけど……いくら私が細腕な人魚とはいえ、私の手首と同じくらいの太さって……流石に、大きいって断定してもいいと思う。
「……怖いか?」
「えっ……?」
「無理しなくていいぞ。さっきはああ言ったがよ、初めては何でも怖いもんだ」
上を向いて彼と顔を見合わせれば、彼は苦笑いを浮かべていた。
私を心配してくれているみたい。確かに正直、私もちょっと怖いかもしれない。
『私はコレを受け入れられるかな』とか『私でコレを満足させてあげられるかな』とか。そういう方向で、だけどね♡
「うぉっ!? ハ、ハゥフニス……!」
「……うわぁ。すっごく熱いね、ライヒハートの、コレ……♡」
既に硬さを持ったソレを、私の手で優しく包み、上下に動かしてみる。
……熱い。彼の掌よりも激しい熱を纏いながら脈打つ剛直は、例えるなら、まさに獣。ソレに触れる手は、獣の欲望を抑え込むんじゃなくて……例えるなら、まさしく獣のマーキングみたいに。
「どう、かな♡ 気持ち良く、できてる……?」
「……ああ、気持ちいい。上手だぜ、ハゥフニス」
……褒められちゃった♥ 私の手、褒められちゃった♥♥
私の手は、彼みたいに温かくはないから。だから初めて彼と手を繋いだ時は、その温かさにとても驚いたと同時に、こうも思ってしまった──『私の手では、彼の手に熱を伝えられない』って。ずっと、気になってた。不安だった。……哀しかった。
でも……これなら、私の熱でも伝えられるみたい。貴方への、大好きだって感情、伝えられる……♥♥
「それじゃあ、もっともっと……♥」
「……いや、待った! ストップだ、ハゥフニス」
「え……どうして?」
もっと、私の熱、伝えられると思ったのに。大好きな彼から、待ったが掛かる。
どうしてだろう。もしかして、もう飽きられちゃったかも──
「今日のお前がとことんまで本気だってこと、よくわかった。気付くのが遅くて悪いな。……怖くないのなら、お前のナカに入れたい。いいか?」
──そんな真剣な顔で、そんな風に訊くの、反則♥♥
「……うん、いいよ。私、怖くないから♥」
「……力、抜いとけよ? できる限り、俺も気を付ける」
「う、うん……わかった……♡」
寝床で横たわった私に覆いかぶさる体勢の彼が、その剛直を私の中へ埋め始めた。
彼に与えられた前戯と言葉で、私の方はこれ以上できることなんて無いってくらい準備万端。濡れそぼった私の秘所は、彼を順調に受け入れてくれている。
でも、少し進んだところで壁にぶつかった。……多分、私の処女膜ってやつ。
つまり、これ以上は後戻りできなくなることを意味する。互いの顔を見合わせる、私と彼。
……言葉は交わさない。ここへ至るまでに尽くしたし、これ以上は必要ない。
『恐怖は無い』──私は頷く。彼は意を決して、腰を勢いよく突き出し──その膜は、あっけないほど容易に裂けた。
「あくっ!? あっ、ああああ、あ……ッ!!」
……悔しいけど、相手のことが好きというだけじゃ、どうにもならないことはあるみたいで。
感じたのは、強い痛みと──それ以上の、熱。私の身体を内側から焼き尽くそうとしてるんじゃないかって思う程の熱が脈打つ苦しみに、叫び声を抑えることは不可能だった。
「……大丈夫か、ハゥフニス」
静かに、彼から尋ねられる。返事はしなくてもいい、と言外に語っていた。
それでも……私は言葉にしたくて。どうにかこうにか、口を動かす。
「だっ……だい、じょうぶ……! 戦いの痛みと、比べたら……これくらい……!」
「強がるな。こんな時に嘘なんざつかなくたっていい」
「ウソ、じゃ、ないの……! 痛いのは、本当、だけど──」
これだけは、何度でも、ちゃんと伝えたくて。
心配そうな彼の顔と向き合って、言葉を紡ぐ。
「──怖くは、ないから……♥」
そう、それが一番大事なところ。
痛くて、熱くて、苦しいけど……ライヒハートと一つになっている証だから。
「っ……とにかく、しばらくはこのままだ。ゆっくり慣らすぞ」
「そ、それなら……キスっ! キス、してほしい……♥♥」
「……お安い御用だ」
私が願えば、彼はすぐに私の唇を奪ってくれた。
今までにしてきたついばみ合うような口付けじゃない、貪り合うようなキス。
「じゅ、んん、ちゅっ……じゅる、あ、はぅ……」
「れう、あぅ、じゅる……れろっ、は、ふぅ……」
舌を乱暴にぶつけ合って、ザラザラをくっつけ合って、お互いの味を堪能する。
美味しくて、幸せで、だけど苦しくなってきて、心臓がバクバクしてくる。
やめて/もっと。離して/ずっと。許して/いっそ──
「──はあっ! ……はあっ、はぁ、ぜぇ……ふぅ……」
一分か、十分か……それとも一時間?
ようやく彼と唇が離れて、肺に空気が入ると、涙でぼやけた視界が蘇る。
その視界いっぱいに彼の顔が映って、今度は胸が違うバクバクで埋まる。
……気が付けば、初めてを失った痛みなんて、すっかり忘れてしまった。
「……動くぞ。いいか?」
「うん、うん……♥ ライヒハート、来て……♥♥」
ゆっくりと抽送が始まる。彼の分身が、私のナカを貪り始める。
その快楽に、声を我慢することなんて、できるワケがなかった。
「ふーっ♥ ふぅっ♥ ん、ぐぅっ……♥♥ んあっ♥ ぉおおっ♥♥」
口から止め処なく喘ぎ声が漏れる。恥ずかしい……けど、私が気持ち良くなってるのが分かりやすいみたいで、彼は嬉しそうな顔をしている。私も嬉しい。
でも、分かってる。彼はまだ、私を気遣っているせいで余力を残している。
それは良くない。彼にだって、もっと気持ち良くなって欲しい。これ以上ないってほど幸せになってほしい。
だから……初めてなのにこんなこと言うのって、本当はすごく恥ずかしいけど……言っちゃおう、かな?
「ふぅっ、ふーっ……ねぇ、ライヒハート♥♥ 動くの、もっと速くしていいよ♥♥」
「んっ……いい、のか……? 初めてなんだからよ……無理するもんじゃねーぞ」
「無理、してないもん、大丈夫……♥ ライヒハート、にも……気持ち良く、なってもらいたいから……♥ だから……♥♥」
……うん、言っちゃえ。言っちゃえ♥
「たくさん頑張って……私との赤ちゃん、作ろ……♥♥♥」
──途端。彼はビタッと動きを止めると、ガシッと強く私の両肩を掴んだ。
「……お前、そんなこと言うの、反則……ッ!!」
「ほえ……? ら、ライヒハート……♥」
「俺ァよお……獣どもの王様やってる男なんだぜ? そんな野郎に向かってよお……そんな動物の本能に直接訴えかけるような殺し文句を言っちまってよお……!!」
……うん。効き目、バッチリだったみたい♥
雄としての、動物としての本能がギラギラになった目を向けてくる彼♥♥
ちょっとだけ怖いけど──こういう恐怖なら、好き♥♥♥
「もう我慢も遠慮もしてやれねぇ! 俺ァ本気で動くからな!! それでいいんだなハゥフニス!!!」
「うん♥ いいの♥♥ 来て♥♥ 私でいっぱい気持ち良くなって♥♥♥」
そこからはもう、頭の中ですら、言葉にはまとめられなくて。
「——んぐっ♥ あ、ああっ♥ おぐっ♥ おくまで♥ いっきにぃ……♥♥」
「あー♥ あーっ♥♥ いきなりぃいっ♥ はっ♥ はげしっ♥♥」
「そんなっ♥ おもちゃみたいにぃいい♥♥ じゅぽじゅぽ♥ しゅごいのお♥♥」
後先とか考えない、持てる限りの全力をもって私を突き上げる彼。
与えられる快楽に身を任せて、為されるがまま彼に突き上げられる私。
キモチイイとシアワセでおかしくなりそうになるけど──そんな時間にも、やがて終わりはやって来ちゃう。
お互いに顔が歪んで、相手に自分の限界を伝えてしまう。
「あ、はぁぁぁぁ……♥ ライヒ、ハート♥♥ わ、私ぃぃ……♥♥♥」
「わかってる……! ナカに出すぞハゥフニス!! 初めての夜で孕んじまうぐらい全部、全部!! ぶち撒けてやるからなッ!!!」
「出して♥ ぜんぶ出して♥♥ 私を貴方の……王様のお后様にしてっ♥♥♥」
絶頂へのラストスパートをかけるべく、互いに残る体力の全てを注ぎ込む。
全力の一撃を、彼が私の奥へ突き刺した、その瞬間。
「出るッ……!!」
「──あ゛ーーーっ♥♥ あァ~~~~~~~~ッ♥♥♥」
彼も私も、全くの同時に果てて。
頭の中も、お腹の中も、私は真っ白になった。
………………
…………
……
「……落ち着いたか? ほら、ゆっくり飲めよ」
「ありがとう……んくっ、んくっ」
事が終わって、彼から手渡された水をゆっくりと飲み干していく私。
しばらくは一歩も動けないってぐらい腰が痛いけど……その痛みさえ、幸せだ。
「あー……すまなかったな、ハゥフニス」
「えっ? ……えーっと、何が?」
私が水を飲み終えたタイミングで、彼が謝罪の言葉を投げかけて来る。
でも、私は何を謝ることがあるのか分からなくて、訊き返す。
「何って……途中からは、随分と乱暴に扱っちまっただろ? お前から煽られたとは言え……次があれば、気を付けるからよ……」
「あ、謝らなくていいのに……私、すっごく幸せだったよ? 次からもあんな感じでお願いしたいな、ってぐらいに」
「そ、そうか……? それなら、いいんだが……」
ほう、と。安心したように、彼は大きく息を吐いた。
……それを見て、思い出す。私が彼に『抱いてほしい』と願った時のことを。
彼は『どうしたもんかな』と言うように頭を掻いたけど──あれは、もしかして。
「もしかして、ライヒハート……怖がってた、の?」
──私を乱暴に抱いてしまったら、嫌われるんじゃないかって。
「……悪いかよ。自分の女に怖がられたくねーって思うのは、当然だろ」
「……えへへ。ありがとう、ライヒハート」
たまらない。胸の内が熱くなる。
彼が私を愛してくれるのが、嬉しい。
彼が私を心配してくれるのが、嬉しい。
彼が私を想って恐怖してくれるのが、嬉しい。
──彼が私のために心を動かしてくれるのが、こんなにも……嬉しい。
「さて……疲れただろ? もうここで寝ちまえよ、ハゥフニス」
「……ライヒハートの腕枕は、付いてくる?」
「もちろんだ。仰せの通りに、お后様」
彼に抱き締められて、瞼を閉じる。
──恐怖も哀しみも無い、温かな熱に包まれて、私は眠りについた。