煌めく門番:1
ナツ結晶化の悲劇ver.2【煌めく門番:2】
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Part161の120レス目で提唱された概念を下地にしました。よって従来の大石時空とは違う話だと明言しておきます
今回はトキとナツが素面のままアビドス入りしてスパイ活動に勤しんでいます
もしスパイ活動がジャンキー達にバレてしまったら…そしてこの直後タイミング悪く、スイーツ部を助けに来たカズサが殴り込んできたら…
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無数の星が輝く夜
アビドス自治区外縁部の区画、アビドスイーツ団の本拠地に程近い廃墟地帯にて
ナツ「…04、いるかね?」
トキ「はい。そちらの調子は?」
「危うくヨシミからサイダーを飲まされかけたが…なんとか窮地は脱したよ」
「それは寸前のところでしたね。…情報は集まりましたか?」
「ああ、相変わらず乏しいものだが全く無いよりマシだと思うことにしよう」
「では共有を…」
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柚鳥ナツは放課後スイーツ部…否、現在は“アビドスイーツ団”の所属であり今も砂漠の砂糖は未摂取の身…要するに素面である
飛鳥馬トキも同じく、周りからは完全にアビドスへ帰化した生徒と見られているが、実際は未摂取の身で陰ながらスパイ活動に励んでいる状態だった
元々外縁部に拠点を置くナツと、監視を逃れるため外縁部に赴く事が多いトキが出会ったのは数週間前のこと
偶然にもアビドスイーツ団が自警団活動をしている現場にトキは遭遇した
そのままノリでアイリとヨシミと仲良くなったが、ナツだけは素面の身であると知り、心の拠り所がほぼ無い状況で精神をすり減らせる一方だった彼女へ、手を差し伸べたのだ
それ以来2人は、アビドス入りした素面のスパイとして秘密裏にコンビを結成し、アビドスの様々な情報や拠点の場所などをこっそり調べて共有するという活動を続けていった
ある程度情報が集まったら、トキがその情報を持って連合へと帰還し提供する…そのような、ナツの身を案じないような話が本人の口から出た当初はトキも抵抗があったものの…
ナツ自身は「いくら砂糖で狂い果てたとしても、大切な友人であり仲間のアイリとヨシミを見捨てることは出来ない。
私は狂人の道を進む彼女らを止める事が出来なかった愚か者として、砂糖は極力摂取したくはないが…それでも最低限の責任は負うつもりだ」
などと表明したため、トキは彼女の意思を尊重することにした
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ナツ「…つまりトリニティ襲撃作戦なる計画の噂が真実である可能性が高いと…そういうことかね?」
トキ「はい。ハナコ傘下の生徒が言っていたので、間違いないかと」
「道理でここ最近、外縁部で流通に使う車両や列車が、働き蟻の如く彼方此方へ活発に動いていたわけだ…その事について、私も他の自警団などに聞き込みをしたのだが、『大規模作戦が間近』といった返答をされたよ」
「つまりはそういうことでしょうね」
「…このままでは、我が愛しの故郷が、狂人達の手によって破壊されてしまう…やもしれないな…それだけは、なんとしても避けたい」
ナツの手が震えた
「トキさんよ、どうかこの件を連合の人に一刻も早く伝えて欲しい」
「そ、それ、は…」
「私のことを気遣う必要はない。これは由々しき事態…トリニティが破壊されれば、アビドスはいよいよ取り返しのつかない領域へ足を踏み入れてしまうだろう!エージェントである貴女なら、ロマンを蓄えすぎて鈍重になった私よりも早く伝えられるはずさ、まあ今の私の中にあるロマンは、前に比べてかなり減少しているんだがね…ふっ」
自嘲混じりに笑みをこぼす
しかしフットワークの軽さ、脚の速さ、未所属という立場から考えても、トキの方が伝達役に相応しいのは確かだった
トキは珍しく苦渋の表情を浮かべながらも、彼女の手を取り決断する
「ナツさん。伝達が済んだら、必ず助けに行くと約束します。…どうか、無茶はしないで下さい」
「勿論、まだ100年は生きていたいからね。人生は長く続くものだと、証明してしんぜよう」
薄ら笑いを浮かべながらそう呟く
しかしその時
突然眩い光が2人を照らした
「うっ…!?」
???「話は全部聞いたぜ!このスパイ共め!前々から怪しいと思ってたんだ!録音もしたから言い逃れ出来ねぇぞ!」
ナツとトキは周りを囲まれてしまった
その中から2人と一番近い位置にいる1人のヘルメットを被った生徒は、録音装置を持っている
ナツは彼女のことを知っていた
「き、君は…自警団の…!?」
別自警団のリーダー「覚えていたようだな?私たちはこんな機会をずっと待ってたんだ!お前らに復讐する機会をな!」
「なっ、私達に復讐だと!?」
「ああそうさ!お前らアビドスイーツ団のせいで肩身が狭くなって、私たちは中央部から離れたところに拠点を置かざるを得なくなっちまったんだよ!…まさかお前だけ砂糖食ってないとは思わなかったが、お陰で“スパイ炙り出し”による報酬を得られるのはラッキーだったぜ!そこにいる連れもスパイ仲間だろうし、こんな美味しい展開を逃すわけにはいかねぇ!さあ覚悟してもらおうか!」
「くっ…まさか尾行でもしていたのか?私がもう少し警戒していれば…!」
「お前だけが何度もアジトから抜け出す姿を部下が見ていたんでな、最初は偵察にでも行ってるのかと思ってたが…お前が出るのは、決まって遅い時間帯ばかりだった。だからピンと来たんだよ、こりゃ誰かと密会でもしてるんじゃねえか…てな!」
「な、なんということだ…!トキさん、すまない…私のせいで…っ!」
ナツは自身の至らなさを呪いながら銃に手を伸ばす…しかし
「おおっと!下手に動くと四方八方から銃弾が飛んでくるぜ?いくらお前が盾を持ってるつっても、そこの連れを守ってこの人数を相手にするのは…あれ?お、おい!連れはどこだ!?」
「え?…トキさん!?」
気づけばそこにトキの姿はなかった
だが直後、彼女はすぐに姿を見せた
(ダダダダダッ!)
自警団モブ「うぎゃあ!?」
「ナツさん!今のうちに後方へ!」
「っ…!よし!」
「畜生っ、逃すか!追え!」
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トキは気付かぬうちに包囲が手薄な部分を見つけると、素早い動きで廃墟の中を通り抜け、包囲網の一部を崩し道を切り開いた
包囲網がリーダーとナツに気を取られている隙を突いた冷静な判断力と、瞬時にして無力化する身のこなしは、まさしくミレニアムのエージェントに恥じぬ動き
2人は急いで廃墟地帯を抜けようとする
しかし、ただでさえ栄養不足で体調不良気味のナツがエージェントの動きに追従できるかというと…
ナツ「はぁっ、はぁっ…す、すまない…もう、ダメだ…」
トキ「ナツさん…!あと、もう少しですから…もうすぐこのエリアを抜けられ…」
「いいや、ここまでだ…申し訳ないが、廃墟地帯を越えてとて、あの広大な砂漠を徒歩で乗り越えるのは…私の身体では非常に難しい…」
そう言って、ナツは足を止めた
「ナツさん…!?」
「仮にトキさんが私をおぶるなりして、砂漠を横断すると言っても、それはお荷物を抱えて飛び込むという自殺行為に他ならない…それ以前に、追手を振り切る事さえ叶わず、2人とも捕まってしまえば…元も子も無くなる…!」
息を切らせながら、ナツは背負った盾を砂の大地に突き刺し、愛銃を取り出した
「まさか、囮になるとでも…!?」
「そのまさかだとも。彼女らは自警団として私を狙っている節もあるようだった。優先順位で言えば私の方が上のはず…私が囮になるのが適任とは思わないかね?
まあ、なんというか、今や散々使われている何の捻りもない言葉だが…折角だからあえて言わせてもらおうか
トキさん、ここは私に任せて先に行け!
…私には、アイリとヨシミがいるんだ。アビドスから出るつもりは元よりなかったという事、忘れちゃいないだろう?」
普段表情を崩さないトキだが、悔しさに顔を歪める
暫しの沈黙の後…
「……わかりました。しかし、身の危険を感じたら、どうか逃げられるだけ逃げて下さい。報告が終わったら、必ず貴女を助けに戻ります」
「ふっ、この程度の修羅場…乗り越えずしてなんとする。引き際くらい弁えているとも。…早くっ!」
トキは頷き、そのまま振り返ることなく廃墟地帯から砂漠地帯の方へと駆け抜けた
「…そういえば、前に見た漫画で【己の肉体を用いて退路を守り、主人公達のため命を捧げた猛者】といった展開を見たね。あのロマンは中々のものだった…しかし、私が同じような状況に立たされるとは思わなんだ。…だが私は猛者でもないし、あのような感動的場面は作り出せないが…」
追手が近づく
道の中央へ陣取り、突き刺した盾を持ち上げ構えた
リーダー「やっと、追いついた…!覚悟しやがれアビドスイーツ団!」
「覚悟するのは君達のほうだ。この道を通ろうとする者には…死、あるのみ!」
漫画のキャラを意識しつつ、1人では到底捌ききれない人数を相手に啖呵を切る
「ハッタリ抜かすなよ甘ちゃん!行くぞみんな!やっちまえー!」
モブ達「「「おーっ!!!」」」
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──まあ
そうは問屋が卸さないというものだね
簡単に言うと…私は惨敗した
それはもう完膚なきまでにね
ちょっと強い程度の私1人であの人数相手は流石に厳しい
切り抜けられるのは、正義実現委員会のツルギ委員長くらいなものだろう
人数差に押し負けるのは当然だ
仁王立ちのまま抑え込まれ抵抗できなくなった状態で、私に一方的な恨みを持つ連中から暴力を振るわれる
しかし、トキさんを逃がせた時点で私の勝ちだ
何度殴られようが蹴られようが、これは紛れもない事実
だからこそ気丈に振る舞える
好きにするがいいさ
私はもう勝っているからな
モブ「畜生こいつ、いくらボコられても笑顔崩さねぇ…!」
ナツ「はっ、君達はもうすぐ終わりさ…なんせ、アビドスという場所自体が終わるのだからね…!」
「こいつ言わせておけば!」
リーダー「待て!…この状況でもそんな口叩けるたぁ、思った以上に骨があるようだな?だが、こいつを見てもまだ減らず口叩けるか?」
「は…?」
私の目に入ったのは…砂糖の塊
しかも見る限り、純正砂糖の中でも純度がかなり低い粗雑品みたいだった
「お前が素面のままスパイしてたなら…もしこれを食ったら、一体どうなる?」
「あ、あぁぁ…!?」
私は、砂糖を食べて狂人の仲間入りする事が何よりも恐ろしい
しかも、こんな粗雑品を最初に食べたらどうなることか
恐怖は未知から生じると言うが、粗雑な砂糖を食べたらどうなるか分からない…という恐怖は…
正直、耐えられなかった
「お、お願いだ…!それだけはやめて…そんなものを食べたくな…」
「うるせぇ!さっさと食えっ!」
「がふっ!?」
腹を蹴られて思わず口を開いてしまう
そして
「おらよっ!」
「ん゛ぐぅっ!?」
口の中に捩じ込まれてしまった
いやだ
こんな甘味受け付けたくない
いやいやいやいやいや
「ぐぉ゛、ぇ゛…!」
「吐き出すな!飲み込め!」
「リーダー!追加どうぞー!」
「よっしゃ!この際詰め込めるだけ詰め込んでみるか!ひゃははは!」
「っぐ…う…!?」
そんな!?
やめろ!
そんなことされたら…
どうなるか分からないじゃないか…!
トキさん
ミヤコ
ヨシミ
アイリ
ホシノ様
ヒナ様
ハナコ様
カズサ
お願いだから
誰か
たすけて……
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リーダー「ど、どうなってんだこれ!?なんでこんなことに!?」
モブA「わ、わからないっすよ!」
モブB「どうするんすか!?」
「い、いやその…」
ナツに粗雑砂糖を食べさせた一味は酷く狼狽えている
その時
???「何してんのよっ!」
「げっ!?お、お前らは…!」
呼びかけた声の方を振り向いた先には…
ヨシミ「私達こそ、泣く子も甘味を譲るアビドスイーツ団!うちのナツがどっかに消えたから位置情報探して漸く見つけたかと思えば…あんたら別自警団の連中ね!」
アイリ「ナツちゃんを返してください!大勢でよってたかっていじめだなんて…!許せません!」
「うぐ…!一先ず逃げっぞ!」
「「「りょーかいー!!!」」」
自警団一味は脱兎の如く逃げ出した
「あっ!?コラ逃げんな!」
「に、逃げ足早いね…」
「あいつらめぇ…風紀委員会に連絡してしょっ引かせてやる!」
すると、一味だけに目を向けていて一瞬気づかなかったが、人型の何かがその場に置いてある事に気づく
「何よこれ……は?」
「どうし…えっ?」
2人が見たのは
煌めく結晶で出来た、仁王立ちの姿勢で絶望の表情を見せるナツの姿だった
「え…は…?嘘でしょ…?ナツ…?」
「ナツ、ちゃん…?」
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リーダー『そらどんどん食っちまえ!』
ナツ『ぐぇ゛…がふっ…!?』
砂糖を無理やり詰め込み続けるリーダー
だが数分後…
『ひゃははは…はぇ?』
ナツの様子がおかしくなってきた
破れた服から覗く腹が角張り始めたのだ
しかもその箇所はみるみるうちに煌めく結晶へと変化していく
モブ『な、なんだこれ!?』
『なんかヤバい!手ぇ離せっ!』
押さえつけていた部下は手を離す
リーダーも口から手を引き抜いた
『かはっ!』
もう手も足も結晶化し始めた事で、身体の自由が効かなくなってしまった
『あ、あ゛ぁ゛ぁぁぁ…!?』
自分の身体が変異していく感覚に恐怖を隠せず、涙を流しながら絶望する
盾を構えた仁王立ちの姿勢のまま結晶となりゆく一方
『だ、誰か…!たすけ…』
手足は勿論、胴体までもあっという間に結晶化し声帯も動かせなくなってしまう
まさかこんな事になるとは思わなかった自警団の一味は、どう対処すればいいのか分からず慌てるのみ
『ぁ゛…ァ、ァ………』
そして遂に、ナツの全身は完全に結晶化した
『う、嘘だろ…』
一味は、自分達がいかに愚かな事をしでかしたのか自覚する
だが、時既に遅し
ナツは結晶像と成り果ててしまった…
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