女ヶ島編後編

女ヶ島編後編


「次はお前か?」

「良かろう。わらわ自ら相手してやろう。」

 ルフィの問いにハンコックは答え、その玉座から降りてくる。黄色い歓声が飛び彼女の戦いを見ようと島民の目が舞台に向く。彼女がそこに経てばその場所は闘技台という役目を離れ彼女の為のステージになる。湧き上がる客席の中央で静まりかえる闘技台。ルフィかま動こうとした時、その出鼻を挫くようにハンコックが服を半分はだけさせる。

「わらわの美に屈しない者など居ない!"メロメロ甘風"!!」

 ハンコックが経験則で身につけた男が必ず興奮する服の在り方、立ち姿、顔。その全てを最高の状態へとし能力を使う。だが、ルフィは真っ向からその光線に立ち向かうと石化する事なくその脚を振り抜く。衝激と衝撃。観客達はハンコックの美しさに動じないルフィに驚く。一瞬の後交わるハンコックの美脚とルフィの筋肉質の脚。ルフィは渾身の蹴りを不安定な体勢で受け止めたハンコックを見て即座に距離を取る。しかし、それを見逃すハンコックではない。着地前のルフィに追撃をかけるべくハンコックは飛び出しその鋭い蹴りをルフィの喉元目掛けて撃ち抜き、ルフィはそれを空中を蹴る事で回避する。

「強ェな。」

「当たり前じゃ。なぜわらわが王下七武海などと呼ばれているかわかるか?それは美しいだけではない。わらわにそれだけの強さがあるからじゃ。クロコダイル程度に勝って気が強くなってたな。小僧。」

 ルフィの言葉にハンコックはただ、事実として話す。強いから、美しいから何をしても許される。それが自分なのだと。ルフィはハンコックの速度と威力に対抗する為に"ギア"を一つ上げようとする。しかし、それは弾頭ミサイルが如き勢いで突っ込んで来たハンコックに阻止される。

「目に見えた強化を見逃す阿呆がどこにいる。」

 ハンコックの蹴りは一撃毎にその鋭さを増し、ルフィはただかわす事しか出来ない。やがてルフィは闘技台の端まで追い詰められる。

「落ちよ。」

 少ない言葉に合わせハンコックの脚が撃ち出される。それをルフィは交わさなかった。また、1つ衝撃。ルフィはダメージが最小限になるようにその脚を受け止める。もちろんその衝撃は殺しきれる物でもなくルフィに小さくないダメージが入る。ハンコックがその姿に動揺した一瞬の隙を突き反撃に転じる。

「"ギア2"」

身体中の血管をポンプのようにし全身の血流を加速させる。左手を伸ばしハンコックの脚に絡ませて動きを封じると共に右手を捻じ曲げながら大きく背後に伸ばす。ハンコックはその後の攻撃を理解し逃れようとするが片足では力を入れづらいのかルフィの左腕から抜け出す事は叶わない。そして、弾丸の装填が終わる。

「"ゴムゴムのォォォ「"銃キス"!!!」__ッ!JET回転弾ゥゥゥ!!!」

 相打ち狙いのハンコックの攻撃がルフィの左胸を捉える。その痛みを食いしばりルフィの右腕が高速回転しながら戻ってくる。ハンコックの攻撃から着弾までは一瞬しかった。余程の実力者でなければ何が起きたかわからないぐはいの一瞬の間にハンコックは攻撃を差し込んだのだ。そして、帰ってきた右腕がハンコックの腹にダイレクトに入った。ハンコックは大きく弾かれ闘技台の反対側に。対するルフィもよろめき場外に落ちそうになるが堪える。

「久しぶりじゃ。このような屈辱を受けたのは。」

「やっぱり強ェな。だけど」

 お互いに顔をあげ睨みつける。

「「おれ(わらわ)はお前(キサマ)を許さねェ(許さぬぞ)!!!」」

 覇王色同士の激突。2人の覇王色の覇気はぶつかり合い渦巻く。その余波で幾人かの九蛇の戦士が意識を失う。その渦が終わった瞬間にお互いに動く。ハンコックの鋭い蹴りをルフィは受け止めそのカウンターに拳を叩き込む。ルフィはそのまま殴り合えば千日手だろうと踏みダメージ覚悟でクロスカウンターを狙う。その狙いに気付いたハンコックは攻撃の手数を減らしその分防御しにくい位置、すれば体勢を崩し攻撃に移しにくい位置を狙い定めて一撃の威力を上げる。お互いの攻撃のダメージが重なり2人の攻防の激しさに闘技台が悲鳴をあげる。

「ハァハァハァ…クソ…」

「なかなかやるではないか。男で無ければ九蛇でも2番の戦士になれたであろう。」

 だが、そこは地力の差が出る。しばらく後にはルフィは息を切らしハンコックは美しく立つ。

「うるせェ。次で仕留める。」

「ほう。面白い。やってみせよ。」

 ルフィはハンコックの状態を見てこのままではダメだと勝負に出る。それに対しハンコックは余裕の態度で応える。もはや目に見える強化を止める事もしない。

「"ゴムゴムのスプリング""ギア3"」

 脚を縮め、その脚力と弾勢力でルフィは空に飛び上がり、腕から空気を送り込む事でその腕を巨大化させる。闘技台の真上に現れたのは太陽を覆い隠す程の巨腕。ハンコックはそれを静かに見上げる。

「"ゴムゴムのォォォ巨人の銃ゥゥゥ"!!!」

 振り下ろされる巨腕。それに対しハンコックは飛び上がり回転の勢いをつける。

「"芳香脚"」

 腕と脚がぶつかり合い衝撃波となり周囲をふき飛ばし砂煙がたつ。その中でルフィは確かに見た。


 女ヶ島の沖に止まった軍艦からモモンガ中将と軍艦の海兵達は突然現れた巨腕をみる。

(ルフィ大佐…どうか無事で…)

 彼らに出来る事はただ、祈る事のみだった。


 砂煙が晴れる。その中でハンコックは対戦相手を探す。そして、

「キャーーー!?」

「へ、蛇姫様の背中に…」

 観客の反応でその位置を理解し攻撃しようとした所で動きを止める。ギア3の反動で小さくなったルフィはハンコックの背中に張り付いていた。服がボロボロになり素肌が見えかけている背中に。それに気付いた妹達が声をあげる。

「ゴルゴーンの瞳が開くぞ!!早く逃げろ!!」

 先程までお祭り状態だった場所は一瞬で混乱に呑まれた。


 その後、今後のルフィの処遇を決めるという名目でルフィは九蛇城に招かれていた。

「お主、なぜあのような事をした。」

「あんなもん、見られたくないだろ。」

「その言い方、お主はこれが何か理解してるのか。」

「天駆ける竜の蹄。天竜人の奴隷だった証だ。そんなもんが付いてるのがバレたら今まで通りに生きる事もできねェ。」

 ハンコックの問いにルフィはなんでもないように答える。その事に蛇姫達は顔を暗くする。

「何も言わぬのか。これは…」

「おう。見なかった事にするよ。おれ、あいつら嫌いだし。ここで話した事も無しだ。おれはただ七武海"海賊女帝"を会議に参加するように説得しただけだ。だろ?」

 あっけらかんとルフィは言う。海軍将校といえば天竜人の召使いも同然だ。嫌う事もあるだろう。だが、こんな他の人が居る前で堂々と言うものか。

「さて、七武海"海賊女帝"ボア・ハンコック。返事を聞こう。マリージョアに来たくないなら別に来なければ良い。来るのも辛いだろ。」

 ルフィ大佐は仕事として振る舞う。

「もちろん不参加じゃ。」

「そうか。」

 その答えを聞きルフィ大佐は姿勢を固くする。勝負の最中もずっと羽織っていた正義のコートを脱ぎ傍におく。

「悪かった。おまえらの事情を知らず好き勝手言って。」

「な、なにを!?」

 急に謝罪したルフィにハンコック達は動揺する。先程まで冷たい態度で接してきた相手が、先程まで海軍本部の大佐として話していた男が。謝罪をし無礼を謝る。だが、ルフィにとっては大事な事だった。海兵として活動する中で彼は色んな者を見てきた。その中で多かったのはかつて自身が受けた事を人にする者。被害者から加害者に変わった者たちだった。だからこそ、彼女らに謝る。なにより、

「おれはおまえらを非情な海賊だと思った。傲慢な帝王だと思った。だけど、おまえらはこの国で慕われていた。ああいう面を見せても。それが見えてなかった。」

 頭に血がのぼり実際にあった事を見逃した。自身の価値観で理解した気になっていた。だから1人の人間として謝るのだ。謝り終わったルフィは正義のコートを拾い、またルフィ大佐として出て行く。もとより自己満足の謝罪なので返事は聞かない。

「まて、この島からキサマの軍艦まで距離がある。一体どうやって戻るつもりじゃ?言っておくが、船は一隻たりとも貸さんぞ?それと、わらわが許可を出さねば出国は出来ぬだろうな。もちろんわらわに中枢と敵対する意志はないが誰かさんのせいで国はメチャクチャだしの〜。」

 その言葉でルフィ大佐は足を止める。つまりハンコックはこう言いたいのだ。お前が好き勝手暴れた責任はちゃんと取って貰うと。ルフィとしてはすぐにも軍艦に帰りたかったがこれを拒否する訳にもいかず仕方なく肩を落とし女ヶ島に残されるのであった。

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