屈辱と怨嗟のドラム
「ゲヘナ風紀委員会はまだ抵抗を続けています。」
「へぇ~、粘るねぇ。」
「っ…っ…」
ドスッドスッという鈍い打撃音が規則的に鳴り響くアビドスの会議室。
ホシノは部下から報告を受けていた。
「万魔殿は疲弊しきっており、機甲部隊の砲弾も枯渇し始めている様です。」
「ヒナちゃんが張り切ってたからねぇ~、元気そうで何よりだよぉ~。」
「っ…ぅっ…」
「…あの、ホシノ様?」
「うん?どしたの。」
「その…お座りになってるその者は…」
部下は困惑しながらも辛抱堪らずに尋ねる。
この部屋に入室する前から、発生していた打撃音についてだ。
その者はホシノに背に座られ、腹と胸を踵で蹴られ続けている。
そういう趣味なのかと一瞬疑ってしまう光景だった。
「あぁ、この椅子?」
「ごう”っ!?」
椅子はより一層強く蹴り込まれ、ボゴン”と鈍い音を立てる。
その関節部が折れ曲がりそうになるのを必死に堪えている様子だった。
「気にしなくていいよ…それとも、君もやりたいの?」
「い、いえ!私にはその様な趣味はありませんので!」
「ぶふっ…うん、わかった。で、報告はもう無い?」
「はい、以上です。」
「じゃあお疲れ様。そうそう、この椅子については他言無用でお願いね。」
「純度60%の角砂糖券あげるから、ね?」
「は、はい!絶対に口外致しません!」
部下が喜色満面で部屋を出て行く姿を見届けたホシノは一呼吸を置く。
すると堪えていたのか、腹を抱えて笑いだした。
「っあっはっはっは!!!」
「ねえ聞いたカズサちゃん!?”その様な趣味はありません”だって!!!」
「っ…!」
ホシノは堪えきれずに脚をバタバタとさせる。
その度にカズサはまたも蹴り込まれ、脂汗を滲ませる。
だが、その目は死んではおらず、ホシノを明確な殺意をもって睨んでいた。
「はははは…!あー苦しい!先に笑い死にそうだよぉ~!」
「へぇ?まだそんな目が出来るんだね、流石は”キャスパリーグ”ってところかな?」
「それで、ギターボーカル、やってくれる気になった?」
「全、部…アンタのせいだ…!」
覗き込むホシノにカズサは吠える。
「アンタさえ、いなければ…!」
「私達は、ずっと平和に暮らせたのに!なのにアンタが、アンタが全部…!!!」
凄まじい怒気を放つカズサ。
だが、ホシノは全く動じる事は無かった。
ホシノは嘲る様な笑みを浮かべながら立ち上がり、カズサの頭を踏みつける。
そして、言葉を返した。
「…そうだよ。トリニティも、カズサちゃんの大好きなスイーツ部も、アイリちゃんも。」
「みーんな、私が壊した。」
挑発するかの様な言葉にカズサは我慢の限界だった。
立ち上がり、一発でもくれてやろうと四肢に力を込める。
だが───
「お座り。」
「がふっ!!!」
踵で後頭部を蹴られ、床に頭を打ち付ける。
あまりのダメージでカズサは気が遠くなり始めた。
「こういう手荒なことはしたくないんだけどねぇ…」
「一度、でも…アンタを友達だと、思った私を…殺してやりたいよ…!」
気を失いゆくカズサにホシノは話しかける。
それはまるで諭す様だった。
「諸悪の根源は、この私、小鳥遊ホシノに間違いないよ。」
「だからいつか、仕返しをするなら私の所に真っ直ぐ来たらいい。」
「それで、私の首を掲げて、勝ち誇れば良いよ…出来るならね。」
カズサのヘイローが消え、失神した事を確認したホシノは一息吐く。
そして寂しそうに笑った。
「私”だけ”を殺しに来てね、カズサちゃん。」
ホシノは誰にも届かないその言葉を呟くと、カズサを抱えて医務室に歩いて行った。