無題
ふぅわり、ゆぅらり、ゆら、ゆらり
情交の色がまだ残る気怠い空気が残る部屋に漂う煙。煙管から漂うそれを晴信が見つめていると、ぱちり、青玉の瞳とかちあった。
青玉の瞳・・・・彼のマスターである藤丸立香は晴信が手に持つ煙管を物珍しそうに見つめている。
「珍しいか?」
「うん、晴信さんいつもタバコだし」
味とか違ってくるの?と首を傾げる立香に晴信は、そうだな少しばかり違うかもしれないなと返し、吸い口に唇を寄せてふぅと紫煙を吐き出す。薄暗い部屋に灯る行燈の灯りは寝巻ごしでもわかる均等の取れた美しい体を浮かび上がらせ、彼の男らしい節だった指は煙管の赤い羅宇を支え柴色の瞳は吐き出され、部屋を漂う紫煙をゆぅるりと眺めていた。
=やっぱり、格好いいなぁ・・・=
戦国最強の武将は煙草を喫む姿も様になるんだなぁとそんな事を思いながら布団の中で彼をぼんやりと見つめていると、煙管を盆に置いた晴信が布団を退かすと中にいた立香を抱き上げその腕の中に閉じ込めた。
「体は大丈夫か」
「ひょわ、っ、えっ、あっ・・・う、うん、だ、ダイジョブ・・・です」
低く掠れた声が立香の耳元を甘く擽る。その声に先程まで彼の腕の中で乱れに乱れていたことを思い出してしまい、つい返事がしどろもどろになる立香を見てくっくっ、と喉の奥で笑う声にむぅと頬を膨らませた。
「ちょ、笑わないでくださいよ」
「ククッ・・・すまん、すまん。随分初々しい反応が返ってきたもんだからな」
許せ許せ、と立香の髪をわしゃわしゃと撫でる晴信だったが、不意にその指先がゆっくりと柔らかく彼の耳輪に触れた。
「・・・は、るのぶ、さ、ん?」
節だった指が壊れものを扱うかのように耳輪をなぞっていき、柔らかな耳朶に辿り着くとふにりと触れたと思えば耳の裏をくすぐりだす。その擽ったさにぴくりと立香の肩が揺れたのを彼が見逃すはずもなく、擽っていた耳の裏から顎の線をなぞり、頤を持ち上げると仄かに潤んだ青玉が晴信の柴色の瞳と合わさり、そのまま唇が重なり合う。
「んっ・・・、んぅふぁ」
「ん・・・」
少しカサついた晴信の薄い唇から彼の分厚い舌がぬるりと、立香の口内へ入り込み、歯列をなぞって敏感な口蓋を舌先で擽ると、ぞくりと甘く背筋が戦慄き、その感覚に奥へ引っ込んだ立香の小さく柔らかな舌を絡め取って舌を出させて甘噛みをし、更に深く息をつかせないような口付けに、きゅっと晴信の赤い羽織を握りしめる立香の手を取ると、宥めるように晴信の大きな掌が包み指を絡ませていく。
指を絡めて指先をくすぐったかと思えば指が触れるか触れないかの柔らかさで指の付け根をなぞっていき、下からゆっくりと爪先でくすぐるように撫でていき、そして指を絡め合う。唇も、指先も晴信に蹂躙され、ようやく解放された頃には息も絶え絶えにぽすりと力なく晴信の胸元に体が凭れかかると、晴信は立香の汗ばんだ額に張り付いた前髪を指先で払ってやった。
「はっ・・・、ぁっ、あぅ、も、ひ、ひどいっ・・・」
「非道い?それは違うな」
俺の前であんな表情を晒した方が悪い
「あれじゃ食べてくださいって言っているようなものだろ」
「り、理不尽!理不尽だ!」
あんまりな理由にぽこすかと遺憾の意を示す立香指先を再び晴信の指が絡めとり、彼の指先は晴信の口元へ運ばれると、かぷりと甘く喰んだ。
「つっ・・・・」
喰まれた指先が熱を持ったように熱くなり、指引かせたくても絡め取られていて動かせず、そして晴信の柴色の瞳の奥にある炎が立香を甘く焦がしていき立香の青玉のような瞳がとろりと蜜を含んだように潤んでいくと、ちゅっと彼の掌に晴信は口付けて、そうして乞うた。
「いいか?立香」
「ん・・・・きて、晴信さん」
そう乞われて否、と言えるだろうか。
そんな事を考えながらこくりと頷き、彼へ腕を伸ばす立香に晴信は再び口付けて二人はまた褥の海へ沈み込んだ。