無題
※お薬ちゃんぽんプレイしてたのでその後遺症でメンタルがヘラッて退行している大佐
※善良なモブ海兵さんがめちゃくちゃ喋る
「本部の船が来るまで二日か……」
そう呟いた私に、部下も険しい顔で頷いた。海軍支部とはいえここは田舎も田舎の場所だ。医療器具も技術も本部には到底及ばない。だから早く迎えに来て欲しいのだが、どんなに急いでも四日は掛かるのだそうだ。
「コビー大佐の様子は?」
「昨日も一昨日と変わらないですね……何処かをぼうっと見ているというか……。此方から話しかけても、何も反応してくれませんし……」
「そうか……。今日は何かしらの反応があれば良いのだが……」
せめて食事を摂ってくれれば良いのだが、昨日も一昨日も彼は何も口にしてくれなかった。どんなに呼びかけても反応が帰ってこないのだ。今の所点滴でどうにかしているが……。コビー大佐が居る医務室へ向かいながら、私は四日前の事を思い出す。
その連絡が入って来たのは、執務室で書類整理をしていた時だった。この辺りは海賊は出はするもののそれなりに平和な土地で、海兵としての仕事も市民との交流の方が多い様な、そわな土地だった。こんな風に緊急の連絡が入って来る事は少なく、何かあったのかと震える電伝虫に出て──内容を聞いて、愕然とした。この辺りに一つだけある無人島、そこに人が倒れていた。「損傷」が激しく、しかもその人物が。
「コビー大佐、だって……?」
『はい、コビー大佐が……その……。っ、ぅえ』
部下が嘔吐く声が聞こえる。一体どれだけ酷い状態なのか。私は船の中で出来る限りの治療をしておく様に伝え、通信を切った。そして急いで本部に連絡を入れる。そしてこの支部で保護し、四日後には迎えが来る事になった。
コビー大佐があの四皇黒ひげに歪な執着を向けられている事を知っているのは、私と数人の部下だけだ。何をされているのかを、知っているのも。もう幾度目になるのかは分からない程、コビー大佐は黒ひげ海賊団に攫われ性的暴行を受けている。その事実だけは、上からの通達で知っていた。知っていた、けれど。想像していたよりもずっとずっと──酷い状態で。この支部に運ばれて来たコビー大佐を見て、私は昼食を戻してしまった。身体中に残る大きな手の跡も、びっしりと残る注射痕も。口の端から伝う胃液も、こびり付いて乾いてしまっている血も。涙の跡も。全部が網膜に焼き付いてしまって、離れない。コビー大佐が黒ひげの船で、どんな目に遭ったのか。何をされたのか。嫌でも分かってしまって、私達が想像するよりもずっと酷い事をされていたのだと理解出来てしまう。一体彼が、何をしたと言うのだろう。どうして彼が、あんな目に──
「……あれ」
部下の声で、私はハッと我に帰る。真っ直ぐに続く廊下の先、ふらふらと此方に向かって歩いて来る人影があった。
「こ、コビー大佐……!?」
俯きながら、壁に手を付きながら、私達に向かって歩いている。部下が慌てて彼に駆け寄った。
「コビー大佐、まだ傷が、」
「……、ぃ、ち……」
「……コビー大佐?」
コビー大佐は虚な目を部下に向けている。そして、まるで幼い子供の様にぱぁ、と笑って。
「てぃーち!」
黒ひげの名前を嬉しそうに呼んで、ぎゅう、と部下に抱き付いた。部下は巨人族の血を引いており、確かにコビー大佐や私よりも大柄だった。部下はひゅ、と喉を鳴らす。コビー大佐はえへへ、と笑いながら部下に擦り寄って、そして、首を傾げた。
「てぃーち?……あれ?」
「こ、コビー、大佐、」
「……てぃーち、じゃ、ない?」
途端にコビー大佐は泣きそうな顔をして、いや、実際に目にじわじわと涙を浮かべ始めた。部下から離れてまた歩き出そうとする。まるで誰かを探すみたいに。迷子の子供が、母親を探すみたいに。
「てぃーち、どこ、てぃーち……」
「……コビー大佐、部屋に戻りましょう?」
私は彼の前に立ちはだかってそっと腕を掴んだ。その腕を振り払われそうになるものの、力は酷く弱い。コビー大佐がどれだけの強さなのか私は人伝ではあるが知っている。ここまで力が無いなんて、あり得ない。
「ゃ、やだっ、はなして、てぃーち! てぃーち、どこ、ねえ」
「コビー大佐、黒ひげはここには……」
「ぼ、ぼく、いいこにしてた、のに……てぃーち、てぃーち……どこ……」
ぼろぼろと遂に涙が溢れ始める。未だ呆然としている部下に「軍医に大佐が目覚めたと報告を」と指示をして、私はコビー大佐の背中を摩る。黒ひげの名前を呼び続ける幼い子どもの姿に、胸が酷く締め付けられた。彼をここまで追い詰めた黒ひげ海賊団への怒りと、きっと私では手も足も出ないのだろうという失意。せめて深く深く傷付いているコビー大佐の心が少しでも癒える様祈る。
──祈る事しか、出来ないのだ。
何かをしてあげられる訳でも、無く。
(この後本部の船が迎えに来るまでぼーっとしてるか黒ひげを探して徘徊するので気が気で無い支部の皆さん(みんな良い人))
(後日ご迷惑お掛けしましたと菓子折り持ってやって来る傷跡が薄くなって元気になって正気に戻った大佐に泣く「私(50代男性/少将)」)