無題
「あっ・・・・」
甘く気怠い空気がまだ残る閨の中で、自分のマスターの体を清めていたアーチャーは、燭台に薄ぼんやりと照らされた彼の背中に走る紅い線に気がついた。鄭の肩甲骨から肩口まで伸びている四本線のソレ。いつも気をつけていたのだが、久方ぶりに魔力供給目的ではない情交で二人とも盛り上がってしまい、うっかり、そううっかり、彼の体に傷をつけてしまったらしい。
=やってしまった・・・・=
盛りの若者でもないのに、主人の体に傷をつけるとは・・・・と頭を抱えながらもアーチャーは鄭の体を拭っていた手拭いを湯を張った盆に戻して、その傷へ触れるだけの口付けを落とす。彼への傷つけてしまったことへの謝罪と愛しさを込めて、羽が触れるような口付けを一つ、また一つと落としていると、目の前の背中がふるふると震えだし、
「こら、くすぐったいぞ。アーチャー」
と自分のマスターである鄭がくすぐったそうに身を捩り赤丹の瞳を細めてアーチャーを見つめていた。どうした?と尋ねてくる彼に、アーチャーは少しだけ気まずげに視線を落としながら、その、傷をだな・・・とだけ口にした。
「傷?」
はて?と首を傾げながら肩甲骨あたりを指でなぞると、先程彼が自分にしがみついた時に爪を立てられたのだろう。細い傷の様な感触とほんの少しだけチリッとした痛みを感じる。
ああ、成程と得心のいった彼は朗らかに笑いながら、アーチャーの美しい白茶の髪を撫で、
「気にするな、アーチャー。こんなのは傷のうちにも入らんさ」
と慰めるも、生真面目な性格の彼は申し訳なさそうに俯いたまま。さて、どうしたものかと顎に指をやり、暫し考えた後に彼はこう言った。
「では、俺もお前の体を清めようか」
鄭はアーチャーの背中を固く絞った手拭いで彼の身体を清めていく。
同性ではあるものの自分とは違う華奢でしなやかなその背は寝台の燭台の灯りにぼんやりと照らされ仄かに赤くなっていた。
「め、明儼その・・・」
あまりまじまじと見るものではないだろうと背中越しに聞こえる細い声。鄭はそれに構わず彼の身体を清めながらお前の体は美しいからな、許せよと笑って清め終わった手拭いを盆へ戻すと彼が自分にしたように、その白い肌へ口付けた。
「つっ・・・め、明儼」
少しカサついた唇の感触が肌に触れる感覚に身を震わせ思わず彼の字を口にするが、鄭はちゅ、ちゅと口付けを落としながら、時折強く吸い付いては彼の白皙の肌に紅い華を散らしていく。
「はっ、・・・あっ」
紅い華が咲くごとに、彼の指がその輪郭を撫でていく。撫でられるたび、背筋が甘く痺れるような感覚に、耐えるようにアーチャーはきゅっと敷き布を握りしめると鄭はアーチャーの首筋に舌を這わせた。それにたまらず前に身体を倒しその刺激から逃れようとするも、そんなことはお見通しとばかりに鄭はぐっとその身に覆い被さるような体勢をとってアーチャーの固く閉じられた掌を包み込むように自分の手のひらを重ねた。
「公瑾」
鄭の低く掠れた声が、アーチャーの鼓膜を震わせ思わず力の抜けたその身体を鄭は後ろから抱き止める。
「明儼・・・・」
後ろを振り返り鄭を見つめる薄い黄檗色の瞳は潤み、頬はほんのりと薄桜色に染まっているのを見た鄭は柔らかく微笑んでアーチャーの頬を右の手の甲で柔らかく撫でる。
「いいか?」
そう問うと、アーチャーは右の手の甲に恭しく口付け、それに笑みを深めた彼はアーチャーの薄桜色の唇に口付けて二人はもう一度柔らかな褥の海に沈み込んでいった。