無題
拙者ちゃん視点
乙夜殿はスキンシップが激しいお人でござる。拙者も好きな人に触れられるのは嬉しいでござるが、流石に後ろから抱えられる体勢となると多少は恥ずかしく思うものでござるね。乙夜殿の膝の上に座って、背中側に体重をかけると乙夜殿はしっかり受け止めてくれるでござる。緩く回された腕も逞しくて、背中にしっかりとした殿方の体が当たって、うう、ドキドキするでござる。一緒に見てた動画にも集中できないでござるよ。
「お、乙夜殿!?」
「んー?」
胸の下、肋のあたりを乙夜殿がするりと撫でた。もう拙者ダメかもしれないでござる。心臓の音がうるさいくらいで、乙夜殿にも伝わっているはず。それなのに、拙者が見上げてもしれっとした顔のままでござる。ずるいでござるよ。拙者これでもそれなりに優秀なくの一なはずでござるが、乙夜殿の前では形無しでござる。
「あは、めっちゃドキドキしてんね。大丈夫そ?」
「大、丈夫ではないでござるね」
耳まで溜まった熱を逃すように、ふう、と息を吐いた拙者に、乙夜殿は涼しい顔で言う。
「もうちょっと我慢してよ。動画終わるまで。恥ずかしがってる時が一番甘い匂いがして好きなんだよね」
「その言い方はちょっと変態っぽいでござるよ」
「あ、酷い。えーたくん悲しいな〜」
そうは言っても乙夜殿の表情は変わっていないし、本気で悲しんでる訳ではないでござるね。てか嘘泣き雑すぎでござる。これは戯れてるだけでござる。
「でも、さっき言ったのはホント。だっていつも匂いしないじゃん」
まあ拙者くの一でござるからね。あんまり体臭とかはしないように気を付けてるでござる。でも乙夜殿が言うなら何かつけてみても良いかも。
「香水とかつけた方が良いでござるか?」
「んや、そういうのはいらない。今の匂いが一番好き」
「そ、そうでござるか……」
照れるでござるね。乙夜殿は前に匂いで相性がわかるって言ってたでござる。好きってことは相性も良いってことでござるな。にやけた顔を乙夜殿に見せないように、下を向く。すると拙者の首筋に乙夜殿の鼻が当たった。これめっちゃ嗅がれてるでござるな!? 臭くはないと自負してるでござるし匂いが好きって言われたのも嬉しいでござるが、恥ずかしいものは恥ずかしいでござるよ!? もぞもぞ体を動かすと、回されてた腕にぎゅっと力が込められて、逃げられなくなってしまったでござる。拙者、乙夜殿に対して色々と迂闊すぎるでござる。
「今の可愛くてちょーアガったわ。な、布団行かね?」
「う、仕方ないでござる……」
「やりー」
惚れた弱みってやつでござるね。どうしても乙夜殿に触られると嬉しくなってしまうでござる。
しからば、今日はこの辺で。また機会があればお話ししましょう、でござる。