無題
力いっぱいの抵抗で、とりあえず上半身を起こすことに成功した。まだ膝の上にロレ公が載っているけれどそれはこの際まぁよしとしましょう。
さっきのやり取りで痛む頭は、ニコニコして何にも考えてなさそうなロレ公に更に重くなるがどうしようもないのでとりあえず動かす。
「要約すると…『スナッフィーにお礼がしたいけど当人は経験豊富な人を好きなようなので慣らしがてら手始めに僕に頼みに来た』って事ですか?」
「Si」
Siじゃない!
「バカ?バカなのロレ公。ほんっ…バカ!!!!」
冷静に努めようと思ったけどやっぱ無理ですねこれは。これが熱暴走ってやつかと冷静な部分もあったけれどすぐに熱に埋もれていく。もう頭が痛い。
「…?なんでキレてんの?あー、俺性病は持ってない!OK?」
「そういう問題じゃ!!!ない!!!!!」
違う!違うんだっ!!本当にちげぇよ!!!!病気がなくて良かったですね!!健康第一!!!うるせぇ!!!ていうかロレ公、なんでそんなにバカになっちゃってるんですか!?カイザーと並び称される存在?コレが??ちょっと納得いかないし、そもそもコレの価値観放置してるんです??あんの野郎…っ!
「あのワシ鼻野郎もバカ!みーんなバカ!!!なんなの?世界最高峰のDFのくせに股はガバガバなの?!」
「あー。一時期開きっぱ垂れ流しだったな」
………。
………。すぅーーーーっ。
ちょっと僕、久しぶりに声出しすぎたみたいですね。悲しい過去を掘り出したような。
「…ダメか?やっぱネス坊もこんな汚い俺いやだよな…そうだよなぁ…でも俺がスナッフィーに差し出せるものこれしか無いし。欧州制覇したらもうサッカーやれる自信ないし…」
あんまりにも弱々しい声に、冷や水を浴びた気持ちになった僕は、急な温度差にポンと思考が飛んだのが分かったし、今僕の口の中乾きすぎてて、何も声が出ない。
ダメ押しの「頼むネス坊…」に弾かれたように、何にも考えずにロレ公の肩に手を置いてみた。えっと、あの、じょうだんですよね?本当に。僕今から真面目なこと言うので、あのいやらしい顔で値踏みしながら冗談だよ〜って言って欲しい。笑ってください、僕全力でキレてあげますから。
「ロレ公。いやロレンツォ。よく聞いてくれ。自分の体を大事にして」
目を合わせて、ゆっくり噛み締めるように伝える。
「そうか…ははは。うん。ネス坊…迷惑かけてごめんなぁ…」
……こんなに伝わらないことあります?僕言い方間違えました?というか、冗談冗談、ドイツ人は真面目でいけないねぇっていけすかなく笑うマカロニ男はどこですか?そこになければない…?はい……。
あー、なんでこんなに傷ついた顔しますかね。僕、あれ以上の慰めなんて出てこないですよ?どうしたらいいんですか?カイザーを慰めたこともないので本当に分からない。カイザー、貴方ならこの場合どうします?
「…でもさ。これだけは言わせてOK?俺、ちゃんと体大事にしてるよ?スナッフィーに拾ってもらってから沢山の愛を注いでもらってさ。ヒビだらけのガラス瓶を補修しながら信じてもらえてさ。だからこそなんだよネス坊。拾ってもらったこの体で。スナッフィーが生まれ変わらせてくれたこの体で。恩返ししたいんだ。」
イマジナリーカイザーが何か答えをくれる前に、プツンと何かが切れた音が響いてヤケクソな舌が動いた。
「あーもう!!!性欲処理として使ってヤりますよ!!!言っておくけど勘違いすんなよ?!!」
自嘲の叫びに、それでもロレ公は先ほどまでと打って変わってそれはそれは嬉しそうに笑った。試合中の人を値踏みする笑みとは違う、仲間内にかけるような屈託のなさに、信頼を受けたと錯覚してしまう。そんな勘違いに、それでも少なからず興奮しているのを自覚していた。
「…誰か好きなやついる?好きな子思い浮かべてOK」
ロレ公はそんなことを言うと、ガバッと男らしく上着を脱ぎ捨てる。さっきまでのたおやかさとか、しおらしさは一体どこへ…。そう考える横で、好きな子と聞かれて美しい青薔薇を持つ彼を思い起こす。
「分かったか?」
ニッと笑う中の金色に「カイザー」を想起した。少しの罪悪感を抱きながら。
「ネス坊、脱がしていぃ?」
「え、あはい」
何でもない風に言うので、つられて返事をしてしまった。え?脱がされるんですか?僕。いやせめて自分で脱ぎますよ、と言おうとするとロレ公が肩を掴んで顔を近づけてきたのでキスするんだと思って目を閉じる。
けれど思った感触は唇になく、代わりにリップ音を立てながら瞼や鼻頭、唇の端に次々と柔らかくてかさついた触感が降ってきた。
「ロレ、公…?」
「キスは好きな人に取っときな、OK?」
「そんなこと…」
考えるんですね、貴方も。
スナッフィーに愛されて190cmなんて恵体になったことを考えると、人並みの恋愛観も程よく摂取してきたのかもしれない。
それでも、植え付けられた愛がロレンツォを縛り続けている。いや、倫理観の基となる何かが、"自分と自分以外"で線引きされたまま育っているのかもしれないなと先ほどの話を聞いて邪推してしまう。うぅ、あんな話聞いてすぐに合理的な判断できませんよね。
ゆっくりと、肩に置かれていたロレ公の手が下がって僕の服の裾から手を忍ばせてくる。僕のお腹の筋肉を確かめるように撫でられると擽ったい。
「そうそう、お前は気持ちよくだけなってればいーからねぇ」
触れるだけのキスから、チュッチュッと軽く吸いついたり、ネロリとなぶるように舐められる。鼻はカプと歯を立てられて直後にチロチロと舐められて優しく労られている。
もしかして、僕が童貞ってバレてます?性欲処理とか大きな口を叩いてこれとか恥ずかしいんですけど。
「ろ、ロレ公も好きに気持ちよくなっていいですからね…」
「ふへへ、その予定だから心配ないなぁOK?」
「Ja…」
……余裕ぶられてるのが癪に触りますよ、ほんとうに。
「ネス坊って意外に筋肉ついてるねぇ。ミヒャのトレーニングに付き合ってるのぉ?」
服の中の骨ばった指が、筋肉を確かめるようにムニムニと摘んで、押されて、揉まれる。いやらしさの少ない、筋肉を素直に確かめるような手つきに少しばかり安心する。
「そ、うですね。でもカイザーは更に家でもトレーニングしてる筈なので僕なんてまだまだ…」
「ミヒャとは身体の作りも違うんだから自分に合ったことすればいい、OK?スナッフィーもそう言ってた」
「まぁそうですね。貴方も見た目ヒョロそうに見えてしっかりついてますもんね。無駄のない筋肉っていうんですか?」
「だぁー、俺ぁ太れない体質だからねぇ。効率性を重視したの。食トレが一番きつかった」
見てこれぇ、と薄い胸板と腹筋はあるのに窪んだ臍のラインを指でなぞる。その後をなぞるように、手でロレ公の真ん中をさすり上げると一瞬目を丸くしたロレ公が触りやすいようにいつもの猫背を少し正した。
うーん、でも見た目よりはヒョロくないし、筋肉の硬さがある。それにサッカー選手として当然だが鼠蹊部から下はかなり重みがある。
「分かります、トレーニング後に食べるの本当にきついですよね」
朝もキツイですけどね。
あれ?なんでこんなに普通な会話…僕たちいま、何してるんでしたっけ。
「いーぃ触り方すんじゃんネス坊」
「は?え、いや違いますけど!?」
「だぁ〜いーのいーの。性欲処理だしぃ。OK?」
「…っJa」
性欲処理という言葉を出した手前それ以上否定するわけにもいかず、目の前のロレ公の身体を今度は両手で腰を掴んでみたり、筋に指を滑らせて優しく撫でる。それを褒めるように額にキスしてきたロレ公は「だぁ〜」と鳴いたかと思うと僕の上着をガバッと引き上げた。
「うぇっ」
「だぁー、ちゃんと手は上げろOK?」
「さ、先に言ってください」
まさかここでこんな強引に脱がされるとは思わず、変な声を上げてしまったのが恥ずかしい。
「だぁー……」
「どうしたんです」
「触ってた時よりも意外と分厚く見えんねぇ。
んじゃネス坊sonno(ごろん)、OK?」
トン、と別に強くもない力で押されてせっかく全力で起き上がった身体はまたあえなくベッドに戻っていく。
もう抵抗しようという気も特にないので、ことの成り行きを見ていると、膝立ちになったロレ公がゴソゴソとポケットを漁りはじめた。
「だぁー、ネス坊。ゴムある?」
「……持ってます」
ベッドサイドをチラリと見ると、そこねと目を細めた。
「んじゃ、俺ぁ黙ってるからなんかあったらすぐ言えよOK?」
「え、何でですか?」
「何でって…喋ってちゃ好きな子とヤってる気にならねぇだろ、OK?わかる?」
「……僕、アレクシス・ネスはドン・ロレンツォとヤるんですよ」
「だぁー、バカだなぁお前。性欲処理にいう言葉じゃないぜ、それ。OK?」
「………」
失言。自分の失言に呆然とする。
も〜〜〜〜何やってもうまくいかない。言葉を尽くしても、たった一言で全て空振り三振。いえ僕はサッカープレイヤー、ベースボールに例えるのは違いましたね。……はぁ、こんな些細な誤り一つで全部掛け違った後じゃあ、あの失言も出るべくして出た言葉ということか。
「ロレ公は、スナッフィーとも目が合わないセックスをするつもりなんですか?」
「だぁ〜?そりゃそうだろ。俺はスナッフィーが気持ちよくなってくれるなら何でもいいからなぁ」
「…貴方といるのに貴方以外を見ても許せるんですか?」
「……?そんなの当然だろ?SEXに俺の意思は必要ない。OK?」
「そんなバカな」
アーメン…っ!相手の意思を捻じ曲げるレイパーだったら半殺しにして道徳を説くことが出来たのに!
どうしようもないドン・ロレンツォへ憐憫と悲哀と虚しさを抱えているのに、半殺しにすることも道徳を説くこともできやしない。……そのことに後悔もしていないなんて滑稽だと笑ってくれる人はここにはいない。
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[R-18] Jeder Topf findet seinen Deckel | 豆腐 #pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20502813