無題
将軍とバナナケーキまだ拗ねておられたのですか?
一流魔導士が必ず卒業すると言われるほどの名門校です。御兄様も通っておられるのですし、きっと今よりも退屈しないでしょうに。
レンドロット様は知識を深めることがお好きでしょう?学園図書館の蔵書数はここの書庫とは比べ物にならないですよ。どうしてそこまで頑なに通いたがらないのか……わたくしには理解しかねます。
……ああああ、そんな泣きそうな顔をなさらないでください。わたくしは何も嫌味を言いに来た訳ではありません、お茶を用意したので呼びに参りました。気分転換は必要ですよ。さ、一緒に行きましょう。
*
南国の果物を仕入れたのでケーキに入れてみたのです。こちらの地方では珍しいかもしれませんね。
いかがですか?甘過ぎたりしませんか?
……そうですか、それは良かったです。ふふ、そんなにお気に召したのならまたお作りしますね。
…………。
レンドロット様、わたくしが言えることでは無いのかもしれませんが……行きたくないのでしたら無理に行く必要はありませんよ。学ぶことはどこでも出来ますから……
えっ、気が変わった?はぁ、それはまたどうして……
……いえ、貴方が納得されているのでしたらわたくしは何も言いません。ただ、ご自分で決めたことなのですから途中で投げ出さないように。これはわたくしとの約束です。
そうだ、学園を卒業しましたらその日は今日のケーキを沢山焼いて差し上げますね。……気が早いですか?でもやる気は出たでしょう。ふふっ、ええ、これも約束です。
あのケーキに入っていた果物の名前を知ったのは初めて食べた日から3年後だった。
だがその事すら今では遠い回想に過ぎず、死ぬことも歳をとることもない肉体を手に入れてから一体どれほどの時が経ったのか、俺には見当がつかない。
何十年、下手したら何世紀も前の話になるだろう。
俺の好物は今もあのケーキのままだが、誰が作ったケーキであっても初めて食べた日の感動を超えることは一度もなかった。
(流石に1ダースは買いすぎたか)
友人に無理やり連れられた街で見つけたケーキを、衝動的に買い込んだことを少し反省した。後悔にも近い感情を抱きながらケーキをひと口食べた。
やはり何かが物足りない。何を食べてもそう思うのに、未だバナナケーキに執着するのは、大方あのメイドが焼いたバナナケーキは二度と食べられないという事実が影響しているのであろう。
自分で決めたことを途中で放り出さない、俺はその約束を守ったが、俺のためにケーキを焼くという約束を、あいつは守らなかった。
ケーキになりかけていた材料だけを残して主人以外の人間の為に、長命種の自分の一生を捨て、他人の短い一生を救った。
それを知った瞬間、主として誇るべきことであるはずなのに、酷く苛立ったことを覚えている。
今思えば『あの頃は幼かった』という言葉に尽きるが、もしあのメイドが死んだ日が何時でも、俺が何歳でもきっと同じ感情を抱くだろう。
いつの間にか空になっていた皿にまたバナナケーキを乗せた。
折角の不死だ、何時までも求め続けてやろう。
おわり
おまけ:正装将軍
