烏と副隊長
「惣右介さんの、惣右介さんの、そーすけの馬鹿!!」
五番隊の隊舎にその声が響き渡ったのは、あくる日のこと。暁闇色の髪を靡かせて、その場を走り去ったのは当時3席就いていた青年だった。
青年が走り去った先を隊長である藍染惣右介はなんとも言えない表情で見つめた。彼がこの人事に簡単には頷かないとは思ってはいたが、まさかこのような反応をされるとは思ってはいなかった。
現在副官を任せているギンが3番隊の隊長に就任するにあたり、次に信頼におけると思い浮かんだのが3席の青年だったのだ。
もはや、自分が育てたとは言っても過言では無いその青年は人柄も把握しているし何より人を支えるのに向いている性格をしている。何も言わずとも察する能力に長けている彼は副隊長に据えるにふさわしいと考える。
そのため、彼に副隊長の打診をした所返って来たのが冒頭の叫び声という訳だ。
懐かしい呼び方をされて感慨に耽ける隙もなく、彼は隊舎から飛び出して行ってしまった。
大きなため息を1つ。彼にとって「隊長」は特別な存在と認識はしているが「副隊長」もそうだったのだろうか?それが意外と思ってしまったのは悪くないだろう。
さて、どう彼を丸め込もうか。隣で笑いをこらえているギンを横目に思考を巡らせる。こんな時に限って、仕事をサボらずに隊舎にいるのだからなんというか。
ギンのその態度もため息の要因の1つといえる。
「ギン、笑いを堪えるくらいなら笑ったらどうかな」
「ブブッ、すんません」
腹を抱えて笑い始めたギンは忙しそうに目を細める。
楽しそうで何より、と肩を竦めて再び思考を巡らせた。